第56話 手芸で模様替え

 晴れた日には屋敷中の部屋をチェックして歩いて結婚式の準備をしている女中頭のランドリーさんを、セリカはたまに手伝っている。


そんな時に、屋根裏部屋で宝の山を発見した。


「うわぁ、ステキ! ここには何でもあるのね。」


「そうですね。今持ってきたサイドテーブルみたいに、古くなった家具や絨毯、小物や飾っていた絵なんかがここに置いてあります。」


「なんかもったいないな。これなんか綺麗にすれば使えそう。」


セリカが見つけたのは、曲線のある足を持ったテーブルだった。

可愛らしい布張りの椅子も二脚付いている。


奥の方には子どものおもちゃとして使っていたのか、妖精が住んでいるような小さな家もあった。


「この家、いいなぁ。小さいのにこんな精巧な家具や料理道具までついてるっ!」


「そんなに気に入られたのなら、お部屋に持って帰られますか?」


「え、いいの?」


「もちろんです。ここにあるものはすべて奥様の物なんですから。」


ランドリーさんの言葉に、セリカは大金持ちになった気がした。



まずは、見つけたものを裁縫室に運んでもらって、雑巾で綺麗に拭いていく。

そして風魔法で乾かした。


手伝ってくれたのは、セリカより年下だというキムという女中だった。

キムは赤い髪を後ろで一つの三つ編みにしていて、顔中にソバカスがあるキュートな女の子だ。


ニコニコしながら、セリカがやっていることを面白そうに見ている。


「これ、どこに置こうかなぁ。私の部屋のあの大きな壺をどかしてもいいかしら。」


「でも奥様、ランドリーさんがあの壺は値打ちものだと言っておられましたよ。」


「値打ちものなら、私の部屋よりお客様の部屋に置いた方がいいんじゃない? あれ、壊しそうで怖いのよね。」


「ふふ、わかります。私も毎日、掃除する時にドキドキしてるんですよ。」



掃除が終わったら、古くなっていた布団やクッションなどを作り替えることにした。


ここの裁縫室は、ダレーナの手芸用品店のスミスのおばさんがびっくり仰天するような品揃えだ。

最初にここにある布や糸を見た時には、セリカも奏子もワクワクした。


屋敷に来てからの慌ただしかった日々が少し落ち着いてきていたので、これからはこんな風に手芸や刺繍をするのもいいかもしれない。


セリカはキムに感心されながら、小さなクッションに刺繍を終えると、また二人がかりでドールハウスを部屋に運んでいった。

途中でランドリーさんに会ったので、この小さな家の置き場所について相談すると、すぐに例の壺を移動してくれた。



壺があった厳めしい一角に、テーブルにのせられた可愛いミニチュアの家が収まって、部屋の重厚な雰囲気が少し和らいだような気がする。


セリカは勉強の合間についついドールハウスの方を見てしまい、一人でニヤニヤしていた。


― ねぇセリカ、これのクッションを作ったように、

  手芸小物で客室を飾ったりしたら温かみのある

  インテリアにならないかしら?


あ、それいいかも。

奏子の記憶にあるペンションみたいな感じにするのね。

貴族は重厚な部屋がいいんだろうけど、結婚式にうちの家族が泊る部屋だけでも模様替えしようかな。




◇◇◇




 ランドリーさんに、うちの家族が泊る部屋だけではなくて、ダレニアン伯爵夫妻とクリストフ様が泊る部屋も教えてもらった。


ダレニアン伯爵家の人たちの部屋には、セリカのリボン刺繍が入った小物を置いて歓迎の印にする。


トレントの家族の部屋には、パッチワークのクッションや小物入れなども作ることにした。



ある日、通りかかったダニエルがセリカが何をしているのか覗きに来た。


「最近、裁縫部屋にいることが多いね。何を作ってるんだい?」


「これはクッションカバーにするつもりなんです。」


「薔薇の…これはパッチワークかい?」


「よくご存じですね。うちの母は薔薇の花が好きなので、この柄にしました。ベッツィーはヒマワリがいいかなと思ってるんですよ。」


「お父さんたちには作らないのか?」


「父には薪柄のものをもう作っています。カールは星にしたんですよ~。」


「私には?」


「は?」


「私にも作って欲しい。」


「は…い。」



なんと、ダニエルとパッチワークのクッションって、あんまり似合わないかも。


― でも羨ましそうだったよ。


うーん、どんな柄にしよう。


― クレイジーキルトは?

  ダニエルの部屋のインテリアに合わせて、深い緑色を基調

  にして…。


ふんふん、緑のバリエーションは目に優しくていいかもね。

その上に光沢のある茶色や金糸で刺繍を入れていったら豪華になるし。



ダニエルに出来あがったクッションを渡したら、顔をうずめて喜んでいた。


…そんなに欲しかったのね。


そしてなぜか、セリカの柄のクッションを作って側に置くようにと言われたので、萌黄色の布にマーガレットの花を刺繍して、ダニエルのクッションの隣に置いてもらった。



夜にダニエルの部屋に行くと、セリカはソファに置いてある二つのクッションを確認してしまう。


仲良く並んでいるクッション。


私たちも少しは、仲のいい夫婦になって来ているのかしら…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る