第18話 女友達
夜になって、ベッツィーと二人でセリカの部屋へ入ると、互いにフワッと気が抜けたようにくつろいだ雰囲気になった。
家族で夕食を食べていた時にも思ったけど、このベッツィーと言う人はうちの家族に空気感が似てる。
初めてあった人なのに気を使わないというか、もう何年も一緒にいる人みたいな気がする。
カールが話しやすいと言った意味がわかったよ。
「ねぇ、ベッツィー。これから長い付き合いになると思うから、打ち明けておきたいことがあるんだけど。」
寝る支度をしてお互いにベッドに横になってから、セリカが切り出した。
「まぁ、何? あらたまって。」
「うん…。私がダレニアン伯爵家へ養子に入って、ラザフォード侯爵様と結婚するというのは聞いてる?」
「ええ、ダレニアン卿から聞いたけど…。それでカールは結婚を考えてるんでしょ?」
「そうなの。カールとはどう? なんとかやっていけそう?」
「お姉さんは心配性ね。ふふ、やっていけると思う。彼、優しいし。」
「そっかぁ。良かった。」
それならやっぱり言っておくべきだよね。
「こんなことを打ち明けたら嫌われるかもしれないけど。私…私は三歳の時に川で溺れてから魔法が使えるようになったの。」
「はぁ?! 魔法って貴族が使うって言われてる、あの魔法?」
「そう。魔法が使えるようになったその時から私の前世にあたる奏子っていう人が、私の中に二重人格みたいに一緒にいるの。」
セリカがそう言うと、真っ暗な部屋の向こうにあるベッドの中で、ベッツィーが息をのむ気配がした。
「ごめんね、一度に理解できないよね。私もおかしなことを言ってる自覚はあるの。家族にも全部は打ち明けてないんだけど、なんかベッツィーには話しておきたい気がして……。」
「いや……そう思ってもらえるのは嬉しいけど。魔法って、どんなことが出来るの? 空も飛べるとか?」
「うん、できる。大抵のことはできると思う。」
「それって……
ベッツィーの言った一言に、今度はセリカが驚いた。
怖がられるか、忌避感を隠して曖昧に聞き流されるかもしれないと覚悟はしていたのだ。
「羨ましい?」
「そうよ、決まってるでしょ。父さんが亡くなって、母さんと二人だけで、力仕事が必要な農業を何年もやってきたのよ。今度は母さんが倒れて、一人で何もかもしなくちゃならなくなった。母さんの介護もあったしね。自分が幼くてなんの力もなくて、どうしていったらいいのかわからなくて怯えてたわ。そんな時に貴族みたいに簡単に大きな物を動かせたりするような力があればよかったのにって、よく考えてた。」
セリカの脳裏に、農場で一人奮闘している幼い女の子の姿が浮かんだ。
歯を食いしばって、なんとか生きてきたんだろう。
頼れる人が誰もいない中で……。
「よく頑張ったね、ベッツィー。」
「ふふ、本当によく頑張ったでしょ。誰も褒めてくれないから、私は自分で自分をよく褒めてたわ。『ベッツィー、偉いね。ここの草取りだけやってしまいなさい。もっとすごいわよ。』なぁんてね。」
セリカは泣き笑いをしてしまった。
本当にこの新しい義妹は凄い人だ。
この人と知り合えてよかった。
そしてこんな人と家族になれるなんて、カールも幸せ者かもしれない。
その後、日本のことや奏子のことなどをベッツィーに話しながら、二人は夜更けまで女子トークをしたのだった。
◇◇◇
一週間の十日の予定を決めなければならない。
ファジャンシル王国は、一週間が十日、一か月が五週間なので五十日ある。
つまり一年は五百日だ。
日本よりはのんびりと時が過ぎていると言える。
「ひ・ふう・み・よう・い・む・な・や・こ・とう」
これが一週間の曜日になる。
奏子が最初これを聞いた時に『覚えやすいわ』と言っていたので記憶を覗いたら、日本の昔の数の数え方によく似ていた。
昨日が(
セリカが考えたのは(
そして(
最後の(
こんな予定を提案してみた。
すると、皆それでいいというので「四日・四日・一日」の配分で仕事を教えていくことになった。
ベッツィーがほとんど仕事を覚えて、セリカが暇になってきた(
店が閉まる十二刻前に、食事をしにやって来たレイチェルが、セリカに話があると言って来た。
「いいよ、片付けはやっとくから行っておいで。」
母さんがそう言ってくれたので、セリカはレイチェルと一緒に川沿いに散歩に出た。
「レイチェル、店はいいの?」
「ダンスパーティーでドレスを新調した人が多いから、今月はあれから暇なのよ。」
「ふーん。」
納屋のパーティーからこっち、ずっとセリカを避けてきていたのに、一体何の用事だろう。
「明日が終わったら……セリカはダレニアン伯爵家に養子に行っちゃうんでしょ。」
「うん。行きたくないけど、行かなきゃならないでしょうね。」
「私……セリカに謝らなくちゃって思って。」
「何を?」
「何をって……セリカって本当に変わらない。魔法が使えても使えなくても、セリカはセリカなんだよね。……あの時、ハリーたちが飛んで行っちゃった時に、二人を干し草の中に降ろしたのってセリカでしょ。」
「…気づいてたの?」
レイチェルはすぐ側にいたから、指輪のせいだけだって誤魔化されなかったんだな。
でもそのわりには、私が魔法使いだってことは広まってないけど?
レイチェルは川の流れの方に顔を向けて、きらめく午後の日差しの照り返しを頬に受けた。
「私、それが怖かった。今まで何もかも知ってると思い込んでたセリカが、全然知らない人に思えたの。でもカールのお嫁さんが決まって、皆がセリカたち家族のことを噂してるのを聞いたら、なんか居てもたってもいられなくなっちゃって。」
噂ね。
「ふふふ、噂の先頭にはレイチェルがいる必要があるから?」
「もうっ、意地悪ね。ふんっ、そうね。それもあるわっ。でもこのままセリカと仲直りしないまま別れるのは嫌だったの。」
意地っ張りレイチェルがここまで言うなんて。
セリカはクスクスと笑いながら、隣を歩いているレイチェルに肩をぶつけた。
レイチェルも笑いながら肩を押し返す。
「レイチェルは私のためを思って、指輪を外そうとしてくれたんだよね。ありがと。」
「そうよっ。それなのに何であんなことになるのよっ。セリカもちゃんと言っといてよね。」
「私もあんな守りの力が働くなんて知らなかったのよ。」
「守り?」
セリカは王命のことは除いて、だいたいのことをレイチェルに打ち明けた。
「へぇ~、ロマンチックな出会いね。侯爵様ってペガサスに乗ってやって来るお伽噺の騎士みたいじゃない? セリカったら、そんな素敵な人と結婚できるなんて……。」
あれ?
なんか違うスイッチが入っちゃった?
もしもし、レイチェル。
あの侯爵様は、父さんの料理が気に入ってうちにやってきてた、ただの食いしん坊なんだけど。
でもその後、レイチェルからハリーの話を聞いて、セリカはちょっと安心した。
「セリカをダレーナで一番好きなのは俺だから、指輪は自分を敵認定してる。」と言ってハリーは恐れているらしい。
ハリーは私が嫌いになったわけじゃないんだよね。
レイチェルのおかげで、少し心が軽くなったセリカだった。
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