第二章 鏡の悪魔

プロ*ーグ

 机には夥しい数の文字が殴り書かれている。

 死ね、ブス、消えろ――大体は、そういう類のもの。もうショックも受けることはなくなってしまって、ただ、無駄だとはわかりながらも濡らしたタオルで拭いてみる。油性らしいインクは予想通り、消えることはなく、私を嘲笑うように机に張り付いている。

 くすくすと、私を見て、クラスの人達が笑っている。俯いて、ただ、涙を零さないように、唇を噛み締めた。

 ガラガラと教室の扉が開く。

 入ってきた少年は、黙って私の隣、彼自身の椅子に座った。

「……おはよう、宗閑君」

 少年はちらりとこちらを見たが、眉を顰め、ふいと向こうを向いてしまった。

 苦笑いをひとつして、私も席に座る。置かれていた画鋲は後で画鋲入れに戻しておこうと、机の隅に集めておいた。


 ――大丈夫。

 ――大丈夫。私は平気。だって、私は何も悪いことなんかしてないんだから。

 ――だから。


 ――絶対に、泣いたりしない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る