068

 まずは食料調達のオーク輸送隊。

 これがようやくカタチになり、オークは楽園への一部入場を許可された。

 どうやら魔族の間では、この大森林は俺の領地らしく、無断で入ったら惨殺されると思っていたようだ。まぁ、勝手に入ったらお説教くらいはするけどな。

 ゴリさんの仲間たちに食料確保を任せ、オークたちはそれを取りに来る。

 転移結界を使った輸送隊が日々、楽園と魔界を往復している。

 果物や木の実から採れる種は、当然魔界の人工林計画に使わせてもらった。

 気候がそこまで変わる訳ではないし、可能なはずだと始めた結果……既に発芽した植物もある。これはやはり、俺の魔力……いや、もしかしたら魔王の魔力も影響しているのだろう。

 北には魔王、南には神獣。

 図らずも挟まれている人界は可哀想なのでは? と思ってしまう。


 輸送隊には、途中から指示に加わったミスリル原石も含まれている。

 ミスリルが届いたと知った時の鬼人王オーガキングのレジンの顔は見物みものだった。新しい玩具おもちゃを買ってもらった少年のように瞳を輝かせ、ミスリルの到着を喜んでいた。その後、何故か俺はレジンに忠誠を誓われた。魔王が知ったら怒るのではなかろうか?


 そんなレジンの働きにより、試作品プロトタイプのゴブリンメット、ゴブリンアーマー、ゴブリンランスが完成。これをゴブリンたちに渡したら、新しい玩具おもちゃを買ってもらった少年のように瞳を輝かせていた。

 しかし、そこで問題が起きた。と言ってもさしたる問題ではない。

 やはりサイズに難があるらしく、ぴったり装着出来る個体もいればそうでない個体もいた。

 元の世界でもそうだったように、「S・M・L」と三つのサイズを作るようレジンに指示。それ以外のサイズも時間を見て作らせるつもりだ。

 ゴブリンキングであるガジルはこれを受け、俺に更なる忠誠を誓った。魔王に向けろ、魔王に。

 当然、その後も槍術の指導と体術の指導を加え、ゴブリン軍の精強に努めた。


 リザードキングのジュカには、用水路の整備を手伝ってもらった。

 水路の補強などは魔法が使える悪魔デーモン種に依頼し、整然とした水路が魔王城にまで敷かれた。

 工事はまだ途中だが、俺はその過程で面白いものを発見した。


きん? それってあの金色の石か?」

「あぁ、どうやら川の上流には金の鉱脈があるみたいなんだよね」


 ヴァローナは流石に知ってたか。

 だが、その価値を知ってるのはそこにいるニッサだけだろう。


「ふぉ、魔王軍の……財源確保……!」


 ニッサって興奮すると口調がおかしくなるよな。

 まぁ、これにより魔王軍が人界から物資を調達出来るようになった。

 金はミスリルより換金しやすく、現代日本ならともかく、この世界で怪しまれる事はない。

 ならば、それを人界に持ち込む事でお金を得て、必要な物資を魔界に持ってくればいいのだ。対象は勿論……ノレイス国。

 金山きんざんの採掘をリザード種に任せる。最初は難色を示した彼らだったが、得られた金を換金し、物資として見せたところ、ジュカはひざまずいて忠誠を誓いながら言った。「現場監督様」と。そうじゃないんだけどな。

 換金は悪魔デーモン種に任せ、得た金や物資はハルピュイア種がこちらへ運ぶ。当然、その中には食料だってある。楽園にはなかった種の栽培も始め、魔界改革はようやく始動したと言える。


「中々順調じゃないか、ハハハハ」

「そうは上手くいかない。なんせ相手はライオス国でさえびびってるノレイス国だ」


 ハルピュイア種の長、ハルピュイアクイーンのルピーは、ノレイス国から風に逆らってやってくる不自然な黒煙――これに対し影響はないと言っていた。

 しかし、それは違った。

 ミザリーの配下たちの情報でわかった事。

 まずあの黒煙は闇属性の魔法であるという事。そしてその効果は、魔力循環の阻害。

 つまり、延々あの黒煙を浴び続けていれば、ハルピュイアは思うように身体が動かなくなり、飛べなくなっていたという事だ。早い段階に気付けて良かったが、ノレイス国の狙いが気になるところだ。

 長期的な作戦であると考えるならば、ノレイス国の準備もまだ整ってはいないのだろう。

 だからこそ、こちらも欺き続けなければならない。

 ハルピュイア種には、マジックシールドの魔法を悪魔デーモン種に掛けて貰ってから領空へと飛び立つように指示を出し、安全を確保した。

「これでノレイス国も少しの間は騙されてくれるだろう」と、ルピーに説明したら、その夜俺の寝所へ添い寝に来た。丁重にお断りしたら、代わりに「最上の忠誠を」と誓われてしまった。頭の中の魔王どこ行った?

 彼女の中にある魔王の位置づけはどこにあるのか聞きたいところだが、口にするのははばかられるので自重じちょうしておいた。


「何だ? やはり順調じゃないか?」


 きょとんと首を傾げるヴァローナを前に、俺は首を横に振る。


「実は……魔王に怒られた」

「「なっ!?」」


 それはヴァローナもニッサも驚くべき事態。

 当然だ。魔王を怒らせればそれはすなわち死を意味する。


「一体何で……?」


 ニッサの言葉に、俺は溜め息を吐いてから答える。


「魔王の間の大扉の建て付けが悪くてな? 直そうとしたら『ふざけるでない! その音がいいのじゃ!』だと。どう思うよ、これ?」

「「…………は?」」

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