029

 リベリオンドラゴンと見つめ合いつつも、俺は周囲の状況を確認した。

 あの一瞬で大木以外は、ほぼ消し炭になっている広場。範囲外にも熱が飛んだのか、燃え始めている。なんて恐ろしい威力だ。

 ホバリングをやめ、再び大地に足を下ろしたリベリオンドラゴン。

 あの白いゴリラは無事だろうか。ブレスが止んでからしばらく経つが、白いゴリラがいた方から、何の反応もない。

 もしかしてやられてしまったのかもしれない。


「しゃあない。やるしかないか!」


 俺はリベリオンドラゴンのまばたきと同時に走り始め、再びその懐へ潜った。

 一瞬の隙だったが、上手い事リベリオンドラゴンの爪を掻い潜る事に成功。

 流れるように胴体にミスリルクロウを刺し、引き裂きながら反対側へ駆けていく。反転しながら放たれた尾撃も、なんとかかわし、再び見つめ――やべぇ、超睨まれてる。


「ははは、そりゃ痛いよな……うぉ!?」


 再び尾撃が放たれる。右側から飛んで来たそれを飛んでかわし、振り下ろされる爪をミスリルクロウで防ぐ。しかし、強い衝撃によって大地に叩きつけられてしまう。


「ぐぁ!?」


 くそう、超痛いぞ!

 しかし痛みに苦しんでいる場合ではない。左側に去った尻尾が戻って来る。俺は這いつくばりながら前方へ回避し、転がりながらリベリオンドラゴンの足下に逃げた。

 と同時に、リベリオンドラゴンの足が上がる。


「ぴーんち……!」


 踏み潰されそうになった瞬間、リベリオンドラゴンの動きが止まった。


『ふぬぅううううううううっ!!』


 目の端でリベリオンドラゴンの尻尾を掴みながら踏ん張っていたのは、あの、白いゴリラ。


『よ、よし! それ頼んだ!』


 あまりに無茶な注文だとはわかっている。しかし、尻尾を御すあの力に頼らない訳にはいかない。今が、今こそがチャンスなのだから。

 俺は更に転がり、上がった右脚に向かってミスリルクロウを振る。


「グルァアアアアッ!?」


 確かに与えたダメージ。


「よし!」


 体勢を崩したリベリオンドラゴンは、がくりと翼を下げる。


「ないす俺!」


 下がった左側の翼を引き裂くように何度か斬り、リベリオンドラゴンは更なる苦痛の悲鳴をあげる。

 それから、リベリオンドラゴンの尻尾を斬り裂くまで、時間はかからなかった。


『もう一度、ブレスがくる!』


 白いゴリラが叫ぶと同時に、俺は走っていた。


『させるかよ!』


 俺は損傷した左翼の傷口をとっかかりとし、リベリオンドラゴンの身体を駆け上がった。仰け反った首は、格好の的。弧のようにしなった首にミスリルクロウを突き立て、力一杯引き裂く。

 鳴き声すら出せず、そして、ブレスを吐く事すら出来ず、リベリオンドラゴンは、その場に身体を崩していった。

 最後に長い首が大地を叩き、揺らす。俺はそのまま顔近くまで歩き、リベリオンドラゴンを見つめる。

 既に戦意はない様子だが、これはもはや助かる傷でもない。

 鼻息の音だけが辺りに響き、俺はその目に近付く。


「すまないな」


 リベリオンドラゴンは、野の理を理解していたのだろう。俺の言葉を聞くや否や、悟ったようにその目を閉じたのだ。

 そして俺は、その理に従い、リベリオンドラゴンの頭に、その最期を見送るように、ミスリルクロウを突き立てたのだ。


『勝った……のか?』

『あぁ』


 俺の背中に語り掛ける白いゴリラの言葉は、未だその事実を受け入れられない様子だ。


『っと、そんな場合じゃない。森が燃えてる。ここはともかく奥に仲間はいないのかっ?』

『安心しろあのドラゴンが来たからこそ、私が殿しんがりだったのだ』

『あっち側に仲間を待たせてるんだけど』

『ふむ、ならばこっちだ。案内しよう』


 俺は、白いゴリラに連れられるがままに、森の中を駆けた。

 流石勝手知ったるという感じで、火を避けつつ少々大回りになったものの、森を出る事が出来た。


「こでー!」


 木の上から手を振るディーナ。そして飛ぼうとするヴァローナ。ディーナはそのヴァローナの足を掴み、ヴァローナは踏ん張りながら羽ばたく。

 これによって、飛ぶ事は出来ずとも、滑空くらいは出来るのだ。これは、ディーナと俺、そしてヴァローナと一緒に遊んでいた時に編み出した力技だ。勿論、俺がヴァローナの足を掴んだ時は失敗したが。

 そうして降りてきたディーナを見て白いゴリラが驚く。


『何故、人間が……?』

『まぁ、成り行き上、一緒に行動してるんだ』


 俺は上手い言い訳が思い浮かばず、適当な返答しか出来なかった。


『それに……!』

『よっ! 元気にしてたかい、ゴリさん、、、、


 何て安直な名前だろう。ヴァローナが知ってるって事は、やっぱりこの白いゴリラもヴァローナの事を知っているのか。

 しかし、獣に名前が付いている事は珍しいのではなかっただろうか?


『こいつはコディー。私の親友だ。それでこちらがディーナ。コディー、こちらはゴリさん。人間たちにそう呼ばれてたから、こんな名前になったそうだ』


 なるほど、人間は皆、獣を指差して「ゴリラ、ゴリラ」とか、「ゴリさん、ゴリさん」っていうか。それが名前だと勘違いして、自分もそう名乗っているという事か。

 という事は、このゴリさんは、元々人間の世界にいたのか?


『すまない。挨拶が遅れたな。コディーだ』

『ゴリさんだ。そしてお久しぶりです。ヴァローナ様』


 ……おや? 今耳馴染みのない言葉が聞こえたな?

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