030
『ヴァローナ――
『おいコディー! 何だその言い草は! 痩せても枯れても私は神獣なんだぞ! ゴリさんの態度こそ真っ当だろう!』
『いいや! ゴリさんの態度に真っ青だね!』
『何を上手い事を!』
『よし! もっと褒めてくれ!』
『すごー……くない!』
ちっ、流石に頭の回転が速い。
「コデー、この人だあれ?」
おっと、確かにディーナには獣の言葉はわからないか。最近多少覚えてきたとはいえ、まだ人間の言葉も拙い状況だ、仕方ないだろう。
「この人はゴリさん。『ゴリさん、この子はディーナだ」』
『あ、あぁ……』
「ごりさんごりさーん! ディーナだよー!」
ゴリさんの周りをぴょんぴょんと跳ね、ディーナは自己紹介をしている。新たな友人を前に、嬉しいのだろう。当然、それはディーナ基準であって、ゴリさんがディーナの事を友人だと思ってはいないだろう。
しかし、可愛いディーナにはそんな事関係ないのだ。
『それで、ヴァローナ様。此度は何故こちらへ?』
『何、私たちが住む森に、移住して欲しいと頼むためにこうして足を延ばした次第さ』
『私たちを……ですか?』
『ここよりは圧倒的に住みやすいと保障するぞ』
考え込むゴリさん。確かに当然の反応だ。しかし、今この状況ならば、悪くない話ではあるのだろう。リベリオンドラゴンによる被害が、森を越え密林の方まで届いている。今も尚炎が燃え広がっている。これにより、少なからず生態系に異常が出るだろう。
『まぁいい。仲間と話し合ってくれ』
ヴァローナはゴリさんにそう言うと、俺の頭に乗った。そしてディーナもそれに続き俺の背に跨る。
『明朝もう一度来る。それまでに答えを決めておいてくれ』
『わかりました』
ゴリさんは目を伏せて了承の意をヴァローナに伝えた。そしてヴァローナもまた目を伏せたまま…………あれ? 動かないぞ?
「バローナ、どうしたのー?」
「どうしたんだ、ヴァローナ?」
ディーナと俺の問いに、ヴァローナは顔を背けたまま答えてくれなかった。やがて、不思議そうな顔をしながらゴリさんは俺たちに礼を述べてから去って行く。
そんなゴリさんの背中が見えなくなった頃――、
「おい! 何故あのタイミングで去らなかったのだ、ゴディー!」
「は?」
「『明朝もう一度来る。それまでに答えを決めておいてくれ』と言った時の話だ! どう考えてもスッと去って行くタイミングだろう!」
「はぁっ? 何で俺がその感覚をヴァローナと共有しなくちゃいけないんだよ!」
「あそこでゴリさんの前から去ってたらカッコイイだろう!」
「自己演出するのも結構だが、それに俺を巻き込むなって言ってるんだよ!」
「何ぃーっ? ディーナはどうなのだ!?」
ヴァローナからギンという目を向けられ、ディーナも珍しく困った様子だ。
まったく、本当どうでもいい事考えるよな、ヴァローナのヤツ。見栄っ張りなのは前から知っていたが、ここまでとはな。人間だとしたら厨二病を患っていたかもしれないな。
「え、えーっと、ディーナお腹減った……かな?」
ふむ、戦略的撤退か。まぁ悪くない判断だろうな。
「む! そうだな! 今日は私も食べたい気分だ!」
ちっ、鳥頭め。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝。
背中の上で目を擦るディーナ。そして俺の頭で羽づくろいをするヴァローナ。そして、落ちて来た羽をかわす俺。
「それにしても、ゴリさんを部下にするつもりなんじゃないのか?」
「するつもりなのはコディーだろう? 私はキッカケを与えたに過ぎない。今はどう説得するか考えておくといい」
いや、言ったのはお前なんだけどな。が、しかし、それもそうか。森の戦力増強にゴリさんが必要なのは確かだが、別に部下にしなくちゃいけない決まりはないのだ。だが、野生で暮らす獣となると、ある程度ルールがあるのも事実。
言われてみれば、ゴリさんが森を守ってもディーナを守ってくれる保障はないのだ。出来ればそこは何とかしたいものだ。
「ほぉ、悪くない返事は聞けそうだな」
頭の上でそう言ったヴァローナ。なるほど、そういう事か。
遠目に見えたゴリさんたち。そう、ゴリさん以外のゴリラたちもやって来たからだ。断るつもりならゴリさん一人でいいだろう。皆でやって来たという事は、前向きな返答を期待してもよさそうだ。
眼前までやってきたゴリさん以外は、俺の存在以上にディーナという存在に疑惑の視線のようなモノを向けている。当然と言われれば当然だ。
『待たせてしまいましたか?』
『いや、昨日来たとこだ』
ヴァローナなりの冗談なのだろうがイマイチ笑えない。
『それで、答えは決まったかな?』
この問いに、ゴリさんは一度背後にいる仲間たちを見た。数にして三十頭程だろうか。その中には当然雌のゴリラや子供もいる。
『一つ確認しておきたい事があります』
契約前の確認は必須だ。が、一体何を聞きたいのだろう。
『我々のリーダーは誰になるのでしょう?』
なるほど、そうきたか。
俺は頭の上にいるヴァローナを見る。しかし、ヴァローナが動く事はなかった。
『……ヴァローナ様の庇護下に入るのであれば、仲間も安心します。しかし、コディーがリーダーなのだとしたら、私はともかく仲間を納得させる必要があるのです』
まぁ、それも当然か。名のあるヴァローナはともかく、魔獣になったばかりの新参者がリーダーと言われて、付き従う事はしたくないだろう。
『どうすれば納得する?』
俺の問いに、ゴリさんの口元が緩む。
『我々は獣。野蛮なれどもリーダーの選出は古来から変わる事はない』
俺を見たゴリさんは、闘志溢れる表情を浮かべる。
やれやれ、リベリオンドラゴンと戦った翌日にこれか。
でも、獣の世界なんてこんなものかもしれないな。
『いいだろう、一つタイマンといこうじゃないか』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます