005

『ぷぅ、あー食べた食べた! 何と心地よい日か!』


 食べにも食べたり二十匹のオーク全て食べ切りやがった。

 その分、ヴァローナも大きくなっている。腹部……というより全体的に大きくなっている印象だ。

 一体どういうカラクリだ?


『それで? 少年は何しにこんなに危険なところへ?』

『隠れ家が欲しくてね』

『なるほど、多少なりとも知恵は回るようだね。けど、この森林はやめた方がいい』


 ヴァローナは森の方を向きながら言った。


『やっぱり危険なのか?』

『危険……というより、ここはモンスター共の縄張りだ。ここを棲家に選んでる獣はほとんどいないさ』

『ほとんど?』

『一部物好きな獣がいるんだが、まぁここに住めるだけの猛者ってところだな』


 なるほど、もしかしたら地球には見られなかった上位の獣もいるのかもしれない。


『ところで、俺たちは何故話せる?』

『へぇ、そこに気付くとはただの獣じゃないな? 簡単な話さ。獣の共通言語は決まっている。そしてそれは人間とモンスターにもあるもんだ』

『でも、俺は人間の言葉がわかるぞ? 喋れないけど』

『うぇっ? 人間の言葉がわかるのかっ!? そんなヤツ初めて会ったよ!』


 やっぱり前世が人間だったからか?

 これは俺だけの特性なのかもしれない。


『ハハハハ、こいつぁ面白いヒグマに会ったな!』

『やっぱりヒグマなのか、俺は』

『ツイているぞ。その中でも少年はヒグマの亜種。コディアックヒグマ、、、、、、、、、だと思われる。この乱世の時代だ。少しでも強い種に生まれたのは有難い事だと思うといい』


 はははと笑いつつ、ヴァローナは羽をバタつかせた。


『ところで君への礼についてだが……』

『礼なんていらないよ。火葬しようと思ってたのに助かったくらいだ』

『ほぉ、八咫烏からの礼を断ると』

『ただの烏にしか見えない』

『まったく、こんなに魔力、、を帯びた烏がいてたまるものか』


 はて、魔力? そういったものもこの世界には存在するのだろうか。

 まぁヴァローナが言ってるから、あるのかもしれないな。


『まぁいい。これは少年への借りという事にしておこう。少年がこの乱世を生き抜き、再び会う事が出来たのなら返すとしよう』

『行くのか?』

『あぁ、少年も早いところここを離れるべきだ。この森は深く行けば行く程強いモンスターがいるからな。出て来ないとも限らない。まだ人里が近い方が安全だ』

『わかった、ありがとう』

『礼はこちらの台詞だ。さぁ、もうすぐ陽も沈む。はやいところ安全な場所にでも行くんだな! ハハハハハ!』


 ……行ってしまったな。

 ヴァローナ、なんとも陽気なヤツだった。

 しかし、色々わかった事がある。

 獣、人間、モンスターにはそれぞれ共通言語があり、俺はコディアックヒグマだという事。

 魔力なるものが存在するという事。

 ん? って事は魔法とかあるのだろうか? もしかして俺も魔法とか使えるようになるのだろうか?

 ヒグマだしな。無理だろうな。

 俺は遠い目をしながら沈む夕日を見ていた。

 おっと、まずいまずい。早いところここから離れなくちゃ。

 折角ヴァローナが忠告してくれたんだ。とりあえず最初目を覚ましたところまで戻るか。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さて、戻ったはいいがもう暗い。

 眠気以上に心配事が多くて困ったものだが、どうしたものか。

 とりあえず枯れ枝でも集めるか。

 モンスターが火を怖がるかはわからないが、とりあえず野で生きるために火は必要だ。


『ふむ、こんなものか』


 枯れ枝やら流木を集め終えた俺は、辺りを見渡した。

 背後にはいつモスフロッグが跳び出てくるかわからない川。

 正面には見通しのいい平原。

 正直怖いが、先程の森以外隠れられそうな場所は存在しない。

 明日は、もっと良い場所が見つかるといいな。

 そう思い、俺は枯れ枝を擦り合わせた。


『むぎぃいいいいいいっ! ふぉおおおおおおおおっ! このこのこのこのこのぉおおおおおおっ!』


 火おこしの難しさを体感しながらも、俺は焚き火を完成させたのだ。

 枯草を用意しておけばもうちょっと上手くいったんだろうな。うん、反省反省。次回から気を付けよう。

 湿った流木は火の近くで乾かし、時間が経ったら使おう。

 俺は火の番をしながら、そしてウトウトしながら恐ろしい夜を過ごした。


『な、なるほど。これはキツイな……!』


 俺は今、目をとてつもなくギラギラとさせているに違いない。

 完全なる獣と言ってもいいかもしれない。

 色んな意味でハイだと思う。

 身体の疲れはあまりとれていないが、多少眠気はとれたようだ。


『ふんが!』


 集中しているせいか、それとも慣れたのか、俺は一瞬で魚を獲る事に成功した。


『そらそらそらぁああ!』


 何匹も魚が打ち上げられ、俺は内臓を取って焼き魚とした。


『くそぉ、脂はのってるがやっぱり塩が欲しいなぁ……』


 胃を満たし、またウトウトとする俺。

 川から聞こえる微かな水音、平原から聞こえる少しの風音が俺をいじめてきた。

 だが、それによって俺の感覚は研ぎ澄まされたのかもしれない。

 慣れとは恐ろしい。自然の音と異音の正体がわかるようになっていく程、俺の睡眠時間は過ぎていった。


『短いが……三時間くらい眠れたか?』


 太陽が顔を覗かせる頃、俺は生きているという事が、どれだけ有難いかを知った。

 これが毎日か。

 ……つらい。

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