宵街

keびん

宵街

午前1時。

夜の街も段々と人気がなくなっていく。


  もうじき終電だね 


優しい声が脳に響く。

いつもの帰り道も、君がいれば別世界になる。


少し細めの腕。

長い指。

ゴツゴツとした大きな手。

そのまま絡めとって、私のモノにしてしまいたい。

けれどもいまだ、攻めあぐねている。


  もうお別れだね 


気がつけば駅に着いていた。

彼の言葉は、少し寂しげだった気がする。


  まだ帰りたくない 


アルコールの力をもってしても、その言葉が言い出せない。


  またね 


ああ。

君が向こうに歩きだす。

呼び止めようとしても、声が出てこない。


時の残酷さが身に染みて判る。

あのまま、あの時のまま、止まってしまえば良かったのに。


過ぎた時間は取り戻せない。


街が私にそう伝えてるみたいだ。

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宵街 keびん @momo10nanami03

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