二十五
その日の夜、午前一時を過ぎても美名は布団に入って、充電の少なくなったスマホを操作し続けていた。寝ようと思っても、寝付けない。とにかく、何か情報に接していないと不安だった。
芸能ニュースや短いウェブ小説など、とにかく気軽に読めて何も考えなくてすむような情報のほうがいい。
そういえばこの前、莉乃がダウンロードしてた都市伝説アプリとはどんなものだったか。今はオバケや怪談などの情報には絶対に触れたくないが、バカバカしい陰謀論のようなことを書いてあった気がする。たしか「退職したから好きなことを書くスレ」というものに内部告発があったとか、なんとか。おそらく、仕事を辞めた人が会社の悪口を書いたり、内部告発をするための匿名掲示板なのだろう。
検索すると、その掲示板はすぐに見つかった。ざっと書き込みを見てみると、ほとんどの内容が、本当かどうかはわからないが、セクハラ上司をイニシャルや実名で非難したり、サービス残業の多さをまるで自慢するかのように書いてたりするものだった。
あのアプリに配信された都市伝説の発端である書き込みは、本当にあるのだろうか。
画面をスライドしながら見てると、SNSのメッセージ受信の通知が画面に表示された。
”まだ起きてる?”
園田からだった。
このメッセージを見た以上、既読があちら側についているだろうから、起きていることは既に知られているだろう。無視するわけにもいかない。
”まだ起きてるよ”と返信した。
30秒ほどすると、さらにメッセージがやってきた。
”この前のことなんだけど、そろそろ返事をしてほしいと思って”と顔文字付きであった。
美名は少し悩んだ後、
”わたしでいいの?”と送った。
”うん。城岡さんが好きです”
美名はその画面を見たまま、10分以上も考え込んでいた。
そして、息が苦しくなるほど高速で脈打つ心臓をパジャマの上から押さえながら、意を決して、
”わかった。お付き合いしましょう。お願いします”と送った。
すぐに、
”ありがとう、こちらこそよろしく”と返ってきた。
そのまま眠気を忘れて、しばらく布団のなかでお互いのことを尋ねたり答えたりするうちに、午前2時を過ぎた。もう充電がないから、という理由で、美名からひとまずメッセージを打ち切ることにした。
自分にとうとう恋人ができた。その実感はまだない。
SNSアプリを閉じると、開いたままにしておいたWEBブラウザが画面に出てきた。
眠気はすっかり吹き飛んでしまったため、その「退職したから好きなことを書くスレ」をぼんやり眺める。
そのうち、どうやら例の都市伝説の元ネタとなったらしい書き込みを発見した。
レス番号190
>>190
それじゃ、ヒントだけ。
テ○○○○○スY
Yは地名ね。
もうほとんどバラしちゃったみたいなもんだな。
これで書き込みは最後にする。それじゃ。
ぼんやり読んでいるなかに、そんな書き込みを見て、あやうく見過ごすところだった。
内部告白が示している、X県R市の10年前に建設されたマンション。
「これ、ひょっとしてウチのことなんじゃ……?」
美名の住んでいるマンションは、テンレジデンス山之井という。「テン」というのは分譲販売した会社の名前の「テンリアルエステート株式会社」から取ったもので、この会社が建てたマンションの共通するブランドとなっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます