if

舘口継人

Beginning

第1話 Neo

 忌々しい話だ。

 普通ならば、マッドサイエンティストの実験の被害者が増えることを嘆くべきなのかもしれない。或いは、目の前にいる2人のように危険な冒険の仲間が増えることを喜ぶべきなのかもしれない。

 とはいえ、スタッフにまんまと騙されている美麗みれいも、自ら進んでこの場に来た凛人りんとも、自分や、新たに迎える新入りを被害者だと思っているわけがない。揃いも揃って、まるで転校生と聞いてはしゃいでいる小学生のようだ。

 しかし、昴流すばるは違った。かといって新たな被害者が増えると嘆いているのではない。被害者が増えようが、2人が愚かであろうが、関係ない。むしろ、耳元で羽音を鳴らし続ける蠅が増えるような感覚だった。

 自分が実の父の被害者であり、その所為で自分は孤独である。昴流がこの施設に入れられてから向き合ってきたのは、その事実だけだった。


 研究所に新たな能力者が来ると昴流たちに知らされてから、数日して、その“転校生”ないし“蠅”はやってきた。その歓迎会……などというものは名ばかりで、いつもと変わらない、殺伐とした白一色の研究室の一室である。違う点と言えば、見慣れない顔が一人いたことくらいだ。

「初めまして。歌津うたつ空です。歳は18、この間までJKやってました。よろしくお願いします」

 溢れんばかりの笑顔。その輝きは、昴流には眩し過ぎる……はずだった。今まで、美麗のときも凛人のときも、感じるのは不快感だった。だが今回は違う。不思議と昴流は嫌な気がしなかった。まるで目の前の少女が、自分と同じ存在のように思えたのだ。暗い、陰の中にいるような存在。それが何故か…昴流には分からなかった。

 そんな昴流をよそに、お気楽な2人は自己紹介を始める。

「初めまして!あたしは登張とばり美麗、ピッチピチの14歳です!」

 甲高い声が昴流の耳をつんざく。

「俺は、弓座ゆざ凛人。歳的に君と同学年かな。よろしく。」

 新しく入った、さらにいえばそれなりに美人な異性の手前、落ち着いたように振る舞っているが……いや、そう振る舞う分、昴流に言わせればマシというものだ。

「よろしく。……君は?」

 空は昴流に向かって尋ねた……が、反応はない。

「悪いな、無愛想で。コイツは渡引わたびき昴流。イッコ下だ。」

「凛人と違って、お兄ちゃんはクールでカッコいいんだよ~♪」

 美麗は何故か、昴流のことをいつも『お兄ちゃん』と呼ぶ。美麗以外にはそれが謎で仕方ない。

「だあ!また呼び捨てかよ!4つも上なんだから少しは敬意を…」

「凛人うるさい」

 いつもの賑やかな――昴流にとってはうるさいだけの――光景だ。

 一方で、空は昴流の事が気になっていた。元からああいう性格…なのだろうか。美麗たちが騒ぎ出したのを確認して部屋を出て行く昴流の背を見ながら、空はそんなことを考えていた。

 しかしその考えも、次の美麗の言葉でかき消された。

「ねえねえ、お姉さんはどんな能力持ってるの?」

「……え?」ノウリョク。確かに今、彼女はそう言った。「…能力?」

「君もここに来たからには、何か特別な力を持ってるんだろう?俺は、念動力。いわゆるサイコキネシスってやつ」

「あたしは……詳しくはまだ分かんないんだけど…素晴らしい頭脳かな!」

 2人の声が遠くに聞こえる。

「私は……」

 空の頭の中で、この数日間の出来事がフラッシュバックする。

「私は……私は……」

 こめかみを抑えて空は目を強く瞑る。

「……お姉、さん?」「歌津さん?」

 その空の様子に、さっきまではしゃいでいた2人も困惑した様子だった。

「歌津さんは長旅で疲れてるだろうから。さ、寝泊りする部屋へ案内しよう」

 割って入った小田原という研究員が空を連れ出す。

 残された2人は、顔を見合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る