if
舘口継人
Beginning
第1話 Neo
忌々しい話だ。
普通ならば、マッドサイエンティストの実験の被害者が増えることを嘆くべきなのかもしれない。或いは、目の前にいる2人のように危険な冒険の仲間が増えることを喜ぶべきなのかもしれない。
とはいえ、スタッフにまんまと騙されている
しかし、
自分が実の父の被害者であり、その所為で自分は孤独である。昴流がこの施設に入れられてから向き合ってきたのは、その事実だけだった。
研究所に新たな能力者が来ると昴流たちに知らされてから、数日して、その“転校生”ないし“蠅”はやってきた。その歓迎会……などというものは名ばかりで、いつもと変わらない、殺伐とした白一色の研究室の一室である。違う点と言えば、見慣れない顔が一人いたことくらいだ。
「初めまして。
溢れんばかりの笑顔。その輝きは、昴流には眩し過ぎる……はずだった。今まで、美麗のときも凛人のときも、感じるのは不快感だった。だが今回は違う。不思議と昴流は嫌な気がしなかった。まるで目の前の少女が、自分と同じ存在のように思えたのだ。暗い、陰の中にいるような存在。それが何故か…昴流には分からなかった。
そんな昴流をよそに、お気楽な2人は自己紹介を始める。
「初めまして!あたしは
甲高い声が昴流の耳をつんざく。
「俺は、
新しく入った、さらにいえばそれなりに美人な異性の手前、落ち着いたように振る舞っているが……いや、そう振る舞う分、昴流に言わせればマシというものだ。
「よろしく。……君は?」
空は昴流に向かって尋ねた……が、反応はない。
「悪いな、無愛想で。コイツは
「凛人と違って、お兄ちゃんはクールでカッコいいんだよ~♪」
美麗は何故か、昴流のことをいつも『お兄ちゃん』と呼ぶ。美麗以外にはそれが謎で仕方ない。
「だあ!また呼び捨てかよ!4つも上なんだから少しは敬意を…」
「凛人うるさい」
いつもの賑やかな――昴流にとってはうるさいだけの――光景だ。
一方で、空は昴流の事が気になっていた。元からああいう性格…なのだろうか。美麗たちが騒ぎ出したのを確認して部屋を出て行く昴流の背を見ながら、空はそんなことを考えていた。
しかしその考えも、次の美麗の言葉でかき消された。
「ねえねえ、お姉さんはどんな能力持ってるの?」
「……え?」ノウリョク。確かに今、彼女はそう言った。「…能力?」
「君もここに来たからには、何か特別な力を持ってるんだろう?俺は、念動力。いわゆるサイコキネシスってやつ」
「あたしは……詳しくはまだ分かんないんだけど…素晴らしい頭脳かな!」
2人の声が遠くに聞こえる。
「私は……」
空の頭の中で、この数日間の出来事がフラッシュバックする。
「私は……私は……」
こめかみを抑えて空は目を強く瞑る。
「……お姉、さん?」「歌津さん?」
その空の様子に、さっきまではしゃいでいた2人も困惑した様子だった。
「歌津さんは長旅で疲れてるだろうから。さ、寝泊りする部屋へ案内しよう」
割って入った小田原という研究員が空を連れ出す。
残された2人は、顔を見合わせた。
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