第2話:完全な異世界救世も考えものなのかも知れない
「それは聞けないお願いだよ、悠馬!」
帰れと言ってもロナという女神がすんなりと引き下がらないことを俺は分かっている。もしそうだったのならどれほど俺は楽だっただろう。
なので俺はどの程度の効果があるかは不明だが説得を試みようとする。
決して無駄だとは思ってはいけない、百億分の一くらいの可能性だろうと可能性があるのならば挑戦して見る価値はある。俺の今後の人生のために。
「というか俺の嫁になるって自分の世界はどうすんだよ。それでまた滅亡寸前とかなったら笑えねぇぞ」
そもそも異世界を管理する女神が自分の世界を放っておいて俺の嫁になるなどという非常に自分勝手も甚だしい行動をとって良いはずがない。
最初にその辺りの事情をつついてみたのだが、ロナは俺の顔をじっと見つめ返す。
それには何らかの意図があるのだろうが俺としては全くの心当たりがない、ロナはそんな俺の様子を確認するとなにやら呟いた。
「……っちゃったの」
だがその言葉はあまりにも小さくて、聞き取ることが出来なかった。
この時のロナの表情は先程までとは打って変わってバツの悪そうな、あるいは恥ずかしいようなもの。ロナの頬が、白い肌が薄く朱に染まっているのだから。
しかしこのまま聞かないという選択肢は存在しない。なぁなぁに出来るような話ではないのだ。
「……なんだって?」
「悠馬が
そしてロナはそんなあまりにもあんまりな事を俺にぶちまけた。
流石にあのロナでも相当に恥ずかしいようで顔は真っ赤に染まっている。
確かにこれは言うことを躊躇うものではあるが……正直なところこれを言われて俺はどういう反応を返せばよいのだろうか。
とりあえず下手に反応して勘違いさせるもの良くないだろう、なので俺はここで当たり障りのない――
「はぁ……」
という気のない返事を返すぐらいだった。
ここで自分が呼ばれた原因を解決したことで不満を言われるなど理不尽にも程がある、と怒っても良かったのだがそれに対して俺は怒りを覚えることはなかった。
それはロナの口から
そうか……
「もう争いとか貧困だとかそういうのなくなっちゃってみんな幸せになって、これ以上ないくらいの結果を悠馬は出してくれたけど……」
ロナはその後の俺という個人では把握できなかった
最後の決戦は時空間が歪んだ空間内で行われ、魔王を倒した後は結界エネルギーを応用してそのまま
どうやら俺の関係者やら開発した技術を始めとした様々な上手く行き過ぎだと思うくらいに話が進んでおり順調に世界は平和になっていくらしい。
聞けば聞くほど、なにも問題がなく俺としてはいい事ずくめなわけだがそれはそれでロナとしてはあまりにも想定外の終わり方だったようだ。
「その結果、あたしが神としてやる仕事はぜーんぶ
「お、おう……」
「今後あるかどうかも分からない世界的危機を数百年、数千年をぼーっとただ眺めてるだけなんて考えるだけで……っ」
「え、えぇっと……な、なんか……その、悪かったな?」
大きな瞳に涙をためて、目尻を拭うロナを前にしてすっかり俺はロナのペースにはまってしまっていた。
そのあまりにもロナ自身には一切の責は自分にない、むしろ俺が悪いような空気を出してしまっているためなんかもう俺が悪いような気になっている。
こういうところもロナと関わりたくない部分である、本当に厄介なのだ。
とはいえこのままこの空気に流されてしまってはロナがここに居着くことになってしまう、なんとしてもそれだけは避けなければならない。
他に何かないかと俺は頭を巡らせてそう言えばと他の神々の事を思い出す。
「えーっと、アレだ! 他の神とかどうなってんだよ、魔王をブチのめして他の神様も戻ってきただろうしそんな勝手なことは……」
そこまで言って、ロナの方を見てみるがどうやらそうでもないらしい。
え、なにあいつら。魔王に封印されてたのに大丈夫だと分かるとそんなに自由になれんの?
「……どうしようもねぇな! だからあいつら魔王に封印されんだよッ!」
「まぁ、
「う……くそっ、後は――」
もう
だがそれでも俺の今後の人生のために諦めることは出来ない。
頑張れ俺。なにか思いつくはずだと色々と考えようとするが、悲しいかな時間切れらしい。
「――ということで悠馬が完璧に世界を救っちゃったせいなんだから責任をとってもらいます! いいよね?」
「そういうことに……なるのか? いや、これっておかしい……」
「なにもおかしくないから大丈夫、問題ない! と言う感じでよろしくね、悠馬っ」
「……よ、よろしく?」
ロナは一方的にまくし立てて俺の手を強く握ってくるのに対して俺はと言えば完全になすがままである。
我ながらなんと情けない姿だろうと惨めな気持ちになってしまう。
そんな自分に一つため息を吐いた時にそう言えばと、微妙に引っかかりを覚えていた部分に俺は気付いた。
「ん? いや、でもお前。それでも一年くらいは監視しろよ! なんで半日で飽きてんだよ! ――って、もういねえし!」
しかしそれに気付いた時はすでに時遅く、どうやら俺が考えている内にロナは俺の部屋から出ていってしまったようだ。
俺はロナの後を追うべく部屋を飛び出し、今のこの家の状況を思い出していく。
俺の主観時間における三年前の記憶が正しいのならば両親はこの家にはいない。確か父さんは単身赴任で母さんはそれについていったはずである。
そのため現在のこの家の中でロナに関する問題が起こる可能性は極めて低い、そう信じたい。これ以上、面倒なことになってほしくない。
ちなみに主観時間やらこの辺りの事情はややこしいのだがざっくりいうと俺は
勇者だった時は老化をしないらしいので学校内で周りから若さで浮くようなことがないのは助かる話であるのだが、俺の中では学生生活に三年間のブランクがある。
そのため本当に憂鬱なのだ、今はそんなことに気を割く余裕がないだけで。
そんな事を考えながら階段を降りて、周囲を見渡せば幸いにもロナはすぐに見つかった。
「あ、悠馬!」
「ロナ、勝手に家の中を――」
そう、確かにすぐに見つかったのだが。ロナは非常に厄介な状態にあった。
まぁ、神が頼りにならないことを知っている俺としては特定の存在に何かを祈ったわけではないのだが、それでももう少し手心を加えてくれてもいいだろう。
ちょうどロナと鉢合わせるように玄関に立っていたのは俺と同じ学校の制服で身を包む一人の少女だ。
今ではなければもっと会えたことに喜びを覚えていただろうその相手。
「悠馬……その子、誰?」
名前は
今、この状況で会いたくなかった人間の一人である。
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