第3話:幼馴染釈明会談 不純異性交遊は認めませんっ
目の前にいる雫の佇まいは俺の三年前の記憶にある通りの三名瀬雫そのものだった。
その今どきの女子だと言うのに髪型や制服の着こなしは校則規定通りのいかにも真面目な優等生といった姿。
だが校則通りといえど決して野暮ったいモノではなく、それらを自身の魅力に出来る顔立ちの良さと雰囲気は懐かしく思う。
身内贔屓を抜きにしても雫は十分に美少女に入るだろう。ロナとは違うタイプの美少女だ。
しかしながら今の雫は俺に対する不信感だとか不満だとかが目に見えるようにだだ漏れしており、その眉目秀麗な顔立ちも台無しである。
とはいえ雫がそのようになるのも無理はない話だろう。
確かこの時の俺は気分が悪くなって学校から早退して家に帰った、そのような流れだった気がする。
それを心配して家に行ってみれば当の俺が知らない女を家に連れ込んでいるなど真面目な優等生であり、さらに俺の両親から気にかけてほしいとも言われていた雫ならば当然の話である。
ということで下手な事は言えないし、その辺りのことは気をつけねばならないだろう……そのはずなんだが。
「ねぇ、悠馬。その……いまあなたの腕にくっついている女の子は誰なの?」
そう、雫の言葉の通りに俺の腕にはロナが抱きついている。
ちょうど雫と対面になるようにして隣に座らせたのだがあろうことかロナはそのまま腕を絡ませてきたのだ。雫の視線が刺さって痛い。
なお雫の視線の先を厳密に言うのならば、それは組まれている俺の腕……というか腕に押し当てるようになっているロナの胸である。
俺の腕に押し当てられている胸は形を歪めており、雫にとってはかなり刺激の強いものだろう。
なお俺の腕に柔らかな弾力が伝わってきているが俺に全くその余裕や嬉しさなどはない。
この胸の主はロナであるのもあるし、対面には険しい顔の雫がいるのだから。
「雫。これにはふかーい訳があってだな――」
俺は雫に話しながらも、慎重に言葉を選び、俺の主観時間で三年もの
正直なところさっさとロナを
なので俺としてはロナを適当に飽きるまで過ごさせて自主的にお帰り願うくらいが良いだろうと考えをまとめていたのだが――
ここでロナは俺の話を遮って大暴投とも言える言葉を繰り出した来たのである。
「あたしはロナ、悠馬のお嫁さんでーす! よろしくねっ!」
「ど、どうも私は三名瀬雫です……――って、よ、嫁っ!?」
ロナの嫁発言には雫も驚いたようで、綺麗な黒い瞳が大きく見開いている。突然、自分の幼馴染の嫁だと言ってくる美少女がいたらそりゃ驚くだろう。
また俺もいきなりこんな戯けた事を言ったことロナに驚いて言葉を失っていた。
しかしロナの発言はこれだけで終わりではない。
俺と雫が驚いている隙をついてさらなる爆弾を、火に油を注ぐような燃料発言を続けるのだった。
「そう、あたしは悠馬のお嫁さんになるためにこっちに来ました! もう悠馬とはお互いに色んな恥ずかしいところを知って知られる関係で……むぐむぐ――っ!」
「ステイ、ストップ、止めろ! お前もうはなにも喋るな!? お願いだからっ!」
「よ、嫁……悠馬のお嫁さん……」
放置していれば修正不可能な事態になる危険性を感じた俺は慌ててロナの口を塞いで話を中断させる。
実際には俺もロナも互いにそういった部分を知っているのは確かな話であるのだが、それが男女の関係を表すものではないことははっきりと明言しておこう。
俺は恐る恐る雫を見たがとロナの嫁発言のショックで大きかったようでなにやらぶつぶつと呟いていた。
その雫の隙をついて俺は限りなく小声でかつ、しっかりとロナの耳に届くように忠告する。
「今から俺が説明するから! お前は余計なこと言うなよ……っ! いいなっ!」
「む、むぐぅ……」
ロナの俺を見る目は不満があったが、俺のただならぬ雰囲気を理解したのかこくこくと頷いて理解を示してくれた。俺はロナの口から手を離して解放する。
こういう余計な事を言って事態を拗らせるのもロナの厄介なところである。
俺は過去に何度も余計な発言のせいで数々の苦労をしてきたのは言うまでもない。
龍焔山に住まう
とりあえずこれ以上の被害拡大を抑えられたがまだ問題は残っている。
それはいつの間にか立ち直り、俺達の様子を見て笑みを浮かべている雫だ。
「……随分と仲が良いのね? 悠馬」
「おっと、きっとお前はすごい誤解をしている! まずはこいつの話を一度スパッと忘れてから話を聞いてくれ!」
「いいわ……とにかく話してみて」
なるべく俺は記憶の中にある三年前の自分を思い出しつつ、あまり深刻にならずに必死に弁明とロナと俺との関係を説明した。
とはいえ当然ながら俺が異世界転移した勇者であり、ロナが異世界の女神などとは話せない。そんな事を言ったら病院を紹介されるのは間違いない。
だから俺がここで話したのはいま俺が考えたこの世界における設定である。
ロナは父さんが仕事で知り合った外国の友達の娘、日本に興味があって父さんはそれを承諾。しかし急な単身赴任で入れ違うようにこの家にやってきたのだ。
俺としては色々と話が落ち着くまではロナを家族として扱い、そこに一切の下心などがないとも伝えておいた。
ちなみにフルネームはロナ・フォーリナーとした。
まぁ、なんというか我ながらガバガバでツッコミどころがあるがそういった部分は家庭の事情やら、ロナの家にも考えがあるということでゴリ押しした。
確実に両親が帰ってきた時にこのツケは払うことになるのだが、その間にこの問題を解決すればなにも問題はないだろう。
俺はそうやって数々の窮地を脱してきたのだから今回もなんとかなるはずだ、そうしてみせる……そうなってほしいなぁ。
「……そうなの? ロナ……さん」
「うん、……むぅ、悠馬の説明で合ってるよ」
「そう……うーん……」
自身の艷やかで形の良い唇に指をあてて雫はなにやら考え込む。
俺の説明に訝しげな雫だが本人から問題ないと言われてしまってはなにも言うことは出来ないだろう。
そしてロナはと言えば俺が嫁扱いしなかったことに不満そうであったが気にしてはいけない。第一そんな要望を考慮などしたら誤魔化す意味がないのだから。
「という訳なんだ、お前に話さなかったのは悪いと思ってる。急な話だったから本当にすまんっ!」
そして俺は雫に対して思いっきり頭を下げた。
これで駄目なら幼馴染からの信頼を失った俺は遊び人扱いされるのを受け入れなければならないだろう、こういったことは協力者が居なければどうしてもそのように見られるものなのだから。
とはいえ正直なところ雫を騙しているのでそうなっても仕方がない話なのではある、全ては雫次第だ。
「……別に謝らなくていいわ、そういう話なんでしょう?」
と、雫は一つため息を吐いてからそう納得してくれた。あんな怪しげな話を信じてくれた雫には感謝しなければならない。
ついでに
「そうか! 助かるぜ、雫!」
こうして俺は一つの難題を終えたことでほっと胸を撫で下ろそうとしたが、そこで一つの見落としをしていたことを気付かされるのだった。
これに関してはまったくの言い逃れは出来ないミスなのだが、これに関しては全く考えたくなかった事である。
「でも一つだけ確認したいんだけど……悠馬、その話だとロナさんとこの家で同棲するってことよね?」
「……うん……まぁ、そうなる……のかな」
そう、よくよく考えるまでもなく俺とロナは同棲関係になるのだった。
先程の話でよく分からない女を家に連れ込む男から、ひとつ屋根の下で美少女と同棲している男くらいにしか変わってはないのだ。事態は全く解決していない。
俺としてはロナ相手にどうこうするだとか、どうにかなるだとかそんなことは思ってはいないからすっぽり抜け落ちていた部分なのだった。
そしてもうひとりの当事者でもあるロナはと言えば――
「二人の愛の巣だよ悠馬! えへへっ!」
「えへへっじゃねえっつーの! 別にそういうのするつもりねえからな!?」
「…………」
などと戯けた事をほざいていたため、しっかりと釘を刺しておく。
しかしこの問題は大きい、俺としては普通の生活を送りたいが勝手に爛れた生活を送っていると思われたくはないのだ。
誰かにそういった証言をしてもらうのが一番なんだろうがなかなか難しい話だ。
などと俺が考えていたその時である、何かを考えていた雫が意を決して言葉を発したのは。
「…………それなら!」
「うぉっ!? いきなりどうした、雫」
「それなら私が二人の生活を見守るわ。別に悠馬が誰と付き合おうと勝手だけど私には責任があるから……!」
ぐっと両手を握った雫は俺とロナを交互に見てからそう宣言した。
雫がそのように証言してくれるのならば俺としては助かる話ではあるが、そこまで面倒をかけて良いものだろうかと思う。
すでにこんな風に雫を話に巻き込んでおいて今更な話ではあるのだが。
「お、おう……俺としては良いんだが大丈夫なのか……?」
「えぇ……高校生という若さを持て余してなにか間違いが起こっちゃいけないもの……っ!」
ある種の使命感に燃える雫を見て俺は失敗したような、新しい面倒事を抱えたような気配を感じた。
この様子からどうやら雫はありもしない俺とロナとの男女的な関係性の疑っているのだが俺に出来ることはないだろう。
なのではやく雫が真実に気付いてくれることを祈るばかりである。
いや、本当にいつになったら俺は休めるんだろうか。
俺の人生にクリアボーナスは必要ないっ! 大塚零 @otuka0
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