参謀パパと魔王少女の日常

コークミルク

第0話 復讐の連鎖

これは今の平和な世が来る前の、悲しき戦いの記憶だ。


人間と魔族はお互いを排除せんと、殺し合っていた。

本来戦争と言うものは長い間続くものではない。


しかし、最後の戦争はそうはいかなかった。


その理由を述べる前に、知っておかなければいけないことが一つある。

魔族と人間は昔から何度も戦争をしている。

しかしこれまでの戦争は毎度2,3年ほどで決着がついていた。


そして最後の大戦争にうずまく狂気と憎悪の原因が一つ前の戦争にあった。


「戦争が終わった」この情報は魔族と人間の共通認識だったのだが、その理由に関しての見解は異なるものだった。


終わった理由が異なるのは上層部の連中が情報を操作しているからだ。

人間側は国民に戦争が終わった理由は魔王を討伐したから、と伝達している。

そして魔族側は国民に、勇者を討伐したから、と伝達している。


これだけ聞くと、どちらが嘘をついているか、すぐにわかるのではないだろうか。人間側だ。


魔族は人間よりも圧倒的に魔力量に優れている。

身体能力は魔族の種族によるが、人間より劣っているものもある。


しかし魔力量が多ければ身体能力強化の魔法をその分使えるので、結局のところ魔力量がすべてだ。


もしこの条件だけなら、人間側が勝つことはまずない。

ではなぜ戦ってこれたのか。

人間は数が多かった。


魔族は長年生きるが、数が少なく、繁殖能力も低い。

だから人間は数をもって魔族を制してきた。


しかし、人間は魔王を倒すどころか、今まで歴代の魔王を見たことすらなかった。

だから、間違いなく嘘をついているのは人間側と判断できる。


戦争中は国民全員が国のために一生懸命働く。

それは来るべき勝利のためにだ。


その勝利が訪れないとないとなると、最悪、国家が転覆する。

だからそれを防ぐためについた嘘。

これで納得できる。


しかし人間側は嘘をついていない。


嘘をついているのは魔族側だ。


真実は魔王とその直轄の臣下が魔皇一人を残して全員殺された、だ。

魔王は討伐された。


病や臣下の裏切りなどではなく、人間の手によって。


当時の魔王はどうにかして人間と和平を結ぼうと考えていた。

そこで魔皇たち4人に相談したところ、勇者を殺し聖剣を壊し、人間の勢いを完全にそいでから、和平を持ちかけるのはどうだろうという意見がある魔皇からでた。


ほぼ全員が賛同した。

しかしそれに反対した魔皇がいた。


その魔皇は人間が罠を仕掛けて待ち構えているかもしれない、それに暴力で従わせるとまた必ず戦争が起こるといった。

魔皇たちは怪訝そうな表情をしていたが、魔王はその意見に共感した。


魔王はその魔皇にどうするのかを聞いた。

魔皇は、人間の王宮に忍び入り、転移座標を設置し魔王だけを転移させてから、絶縁結界という魔法を完全に無効化する結界を展開し、自分たちと相手の魔法を封じ、対等な状態で、一対一で話し合うといった。


他の魔皇は反対したが、魔王はその案に賛同した。

魔王の決定は全員の決定だ。


忍び込むのは案を出した本人になった。

そして魔王は最後に一つ、ある魔法を行使した。

もし失敗したとき、過去に恨みを残さぬように全員に自決する魔法かけたのだった。


作戦はうまくいき、座標を置くために人間の王宮に忍び込んだ魔皇は魔王を転移で呼び出すところまで全て完璧にこなした。

人間の王が部屋で一人になる時刻を魔王に伝え、一対一でないといけないので、その魔皇は近くの茂みで待機した。


計画通りの定時刻で魔王は絶縁結界を作動した。

魔王と人間の王の会談が始まった。

それから数十分経って魔皇は、そろそろ終わるか?と思い、隠れている茂みから部屋に近づこうとすると、王の自室の扉が勢いよく開き、何かが放り出された。


驚いてとっさに身を隠す。


何か重たいものを投げ、それが扉に衝突したはずみに扉が開いたらしい。

扉が開いたせいで中の声が聞こえてしまうけど大丈夫か?などと魔皇は考えていると、部屋から王の笑い声が聞こえた。


しかし、その笑い方が異常ではなかった。

まるで何かにとりつかれたかのように狂い笑っている。


魔皇は何を投げたのか気になり、のぞいてみると、そこには血まみれの魔王の体があった。


肘から先がなくなった腕からは血が溢れ、体の真ん中に深々と開いた大穴からはぐしゃぐしゃになった内臓が飛び出て流れる場所を失った血が、胸の穴に血だまりを作っている。


魔皇は反射的に魔法を使おうとした。

しかし絶縁結界があるのに気づき、構築をやめ、茂みから飛び出そうとするが、足に何かが引っ掛かっている。

見てみると、魔法のツタが絡まっていた。

しかしこの優しさをはらんだ純黒の魔法色は見たことがあった。

魔王の魔法だった。


魔王は絶縁結界をもうすでに解いていたが、それを誰にも悟らせないようにしていた。

魔王は最後の力でその魔皇の自決魔法を解いて継承魔法と思考共有魔法を行使し、その男に自分の魔王としての力と権限、そして自分の思い描いていた人間と和平を結んだ後の理想を継承した。


人間の王は魔王に近づき、その手に握る鮮やかな赤で輝く凶剣を振った。

その剣は魔王の肉体を切り裂き、中心にある核を砕いた。

魔王は力尽きた。



魔皇は国に帰ったのち、魔族が復讐の連鎖に取り込まれないように嘘をついた。

悲しい悲しい嘘を。

その嘘は数年後、国民たちにどこからか情報が洩れ、この世の終わりとまで言われた最後の戦争を引き起こした。


最後の戦争は結果的には人間側の敗走となった。

しかし魔族側はかつてないほどの被害を出し戦争はしばらくの間できなくなった。

人間側もとある理由により、戦争ができなくなった。


そうして訪れたのが、皮肉にも「平和」だった。

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