子供でいられなかった大人の話
綾辻 言葉
第1話
大人になって初めて気付く事がある。
それはもう二度と取り戻せないもので、どんなに願っても時間は戻らない。
彼女は満たされない想いを感じていた。 誰かに認めて欲しい。 誰かに見て欲しい。 誰かに側にいて欲しい。
誰もが抱く感情だけれど、彼女はどんなにそれを受け取っても満たされない。
少女時代、彼女は誰もが認める才女だった。
勉強は自分の年齢より、数年上のレベルを楽々とこなし、運動神経も人並み以上。
何をやらせても結果を残す。それは彼女にとって小さな誇りでもあった。
しかしそれは、望まれているものでは無かったのだ。
少女には出来の悪い姉がいた。
何をしてもうまくいかない姉は、いつも少女に先を越されてしまう。
同じように勉強をしても、自分の妹が常に先を行くその悔しさに何度も涙しながら、それでも努力することを諦めない人だった。
母親はそんな二人をみて、少女に言うのだ。
「お姉ちゃんが頑張ってるんだから、お姉ちゃんの邪魔をしちゃダメよ。」と。
少女はただ、自分の頑張りを見て欲しかっただけだったはずなのに。
少女に母親は、出来の悪い姉の心配ばかり。
それでも少女は姉のように努力を続けた。
いつか、自分を見てもらえるように。頑張ったねと褒めてもらいたくて。
彼女は誰よりも器用に幼少期を生きてきた。
誰より先を行くために、誰より大人になるために。
ただあの人に見てもらいたくて。
それでも少女の願いは叶わない。
少女の努力は誰にも認められず、誰に見られることもなく。
彼女が認めてもらいたかった人からは
「あなたなら出来て当たり前よね?」
……少女は頑張るのを止めた。
姉のように出来が悪ければきっと応援してもらえると思ったから。
それでも……少女は認めてもらえない。
「昔はあんなによくできた子だったのに。」
少女は誰からも見捨てられるようになった。
誰よりも早く大人になってしまったがために、誰よりも子供のまま。
誰にも認められない少女は、大人になっても求めている。
誰かが認めてくれることを。
子供の頃に求めたものを、大人になっても求め続ける。
しかしそれは、もう手に入らない。彼女は頑張るのをやめてしまったから。
大人になってしまった子供は永遠に求め続けるのだ。
心だけは少女のままに。
頑張ったねを聞きたくて。
子供でいられなかった大人の話 綾辻 言葉 @Ayane_0816
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