大切なモノ

あの時から変わった。

 何もかも。

 学校での俺は一人じゃなくなった。いつも隣に七海が居る。

 一人、また一人。毎日増える周りの人数。


 その中で七海かのじょはいつも俺に最高の笑顔を見せてくれていた。

 毎日、ほとんど一緒にいることが多くなっていく。



「 ねぇ? 」

「 うん? 」


 いつも一緒に帰っていた帰り道で七海が突然振り返る。

 いつもの笑顔に少し戸惑いが見える。まいた事のない表情に俺はドキッとした。


「 勇樹は好き? 」

「 え!? 」

「 勇樹は…私が本当に好き? 」

「 …うん。もちろん。好きだよ 」


 ようやく心が一つになった特別な日は、割と突然に普通の日のようにやってきた。


 恋人同士になった日…。


 それからは本当に信じられないくらい楽しい学校生活が待っていた。

 それまでは一緒にいる事もずっとただの友達だと言い張っていた。それがいきなり恋人同士になったんだから初めは大変だった。

 俺はどちらかというとモテないと思われてたから男子から凄い視線を感じるようになったし、七海は女子から「何で彼なの?」って聞かれることも度々あった…いや毎日言われてたみたいだ。


 でも今、七海は俺の手をギュッと握りながら隣に座っている。

 ちょうど帰り道には海岸線を通る場所がある。

 そこにはベンチもあって、良く仲のいい男女が座ってるのを見ていた。その場所に今は俺が女の子と一緒に座ってるんだからわからないもんだ。


「 ねぇ、走ろう!! 」

「 走るって…うわぁ!! ちょっと待て!! 」


 ベンチを突然立ち上がった七海は浜辺へと走り出した。もちろんつないでいた手を放すなんてことはしない。俺も途中で転びそうになりながらなんとか七海の後ろを走って追いかけていく。

 全力で走ったらすぐに追いつけるけど、七海の好きなように引かれるだけ引っ張られるだけ一緒に走る。

 七海に引かれる…同時にだいぶ俺も七海に惹かれていった。

 磁石がひかれあうように俺と七海には同じような引力があると感じていた。


「 おい!! そっちに行ったらもう海だぞ!! 」

「 いいよぉ、入ろうよぉ 」

「 いやまだ寒いって 」


 ばっしゃ~ん!!


 なぜか俺が海の水を一杯にかぶっている。

 モチロン犯人は向かい側にいる七海だ。


「 やったな!! おりゃ!! 」

「 きゃぁ~!! あぁ~ん、びしょびしょだよぉ~ 」

 夏の少し前にある衣替え。それが三日前にあったばかりで、今七海は目の前でびしょびしょになっている。

 そう透けてしまっているのだ。

 わざとじゃなかったけど、ここは誤っておかないと、変な誤解を生みかねない。


「 ご、ごめん七海。そんなにかけるつもりじゃなかったんだ 」

「 今、なんて言った? 」

「 え? かけるつもりじゃ? 」

「 その前!! 」

「 ゴメン七海? 」

「 えへへ 」


 突然怒った表情をしたと思ったらいつもの笑顔に戻った。

 俺は何か言ったのかな?


「 勇樹が七海って呼んでくれた 」

「 そ、それだけ? 」

「 それだけじゃないもん!! 学校でも呼んでくれないし。私はずっと勇樹って呼んでるのにさ、全然呼んでくれないんだもん!! 遠野さんとかなんか心が離れてるみたいでヤダよ 」


 今度は下を向いて大粒の涙を流し始める七海。


 こういう時どうしたらいい?

「 寒くない? 」とか言った言った方がいいのかな? くそ!! こんなことならクラスのモテるやつから話を聞いておくんだった。


 でもそのままにしておくわけもいかないし…。


 俺は泣きやみそうもない七海の側にいって何も言わずにギュッと抱きしめた。


 七海はひゅっと息を吸い込むと同時位にビックリした顔を俺に向けてきた。

 そしていつもの笑顔に変わる。

 俺の顔が恥ずかしさで真っ赤になっていたからだろうな。



 それからはどちらから動いたのかはわからない。


 もうすぐ落ちる夕日の前で俺と七海のシルエットは一つに重なり合った。太陽が落ちていくたびにそのシルエットは長く長く海岸線まで伸びていった。


 この日触れあった七海の唇は涙にぬれてたけど、凄く柔らかかったのを覚えている。

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