黒狼の花婿と女子高生の花嫁〜こんな愛情アリですか?〜

ドーナツパンダ

第一話「雨の音」

「え?」

大雨だった。


大雨で、青いセーラー服が濡れる少女は、突然泣き出した。


突然過ぎる両親の死。


血だらけの死体。

いくつものナイフが差し込んでる体。


嗚咽してる小さな体を誰も抱きしめる事はできなかった。


「もう…死にたい…!!学校やめたい…!!」

少女はそう思った。

「天満」

突然声が聞こえた。

「天満。俺の可愛い花嫁。君を俺の花嫁として迎えに来たよ」

その一言が少女…天満を救ったのだ。

「どなた様ですか…?」


「学校やめたいのか…?」

「はい…」

「学校はいい所だ」

「はい。でも…」

目が赤く腫れているのに気がついた黒狼は、優しく天満の頭を撫でた。

ぎゅっと強く抱きしめた。

「!!」

「俺の名前は銀だ」

「銀様…」

「君は俺の花嫁だ。俺の愛しい花嫁。まだやめるな。君の未来はまだ輝いている。こんな可愛くて愛しい花嫁を失うわけにはいかない…」

優しすぎる言葉だった。


今でも思い出すたびに涙が溢れ出すくらい。

「天満」

「銀様」

「今日はゆっくり休め」


両親の死体の始末と葬式は、即座に行われた。

簡単な葬式だった。


親戚がいない。いたとしても天満に対しては無関心だった。

「天満?」

「銀様、本当にありがとうございます」

「当たり前のことをしただけだ。君の両親の死は、俺が必ず明らかにさせるよ」

暖かくて優しい言葉。

黒狼の銀は、天満よりずっと年上だ。

(黒狼の銀様は、どうして…私のこと知ってるんだろう)

「おやすみ。天満」

天満は、暖かい温もりに包まれた手を握り、その夜を優しく切なく過ごした。


翌朝。

朝早くから、銀は思った。

天満の両親は殺された。

なぜ殺されたのかは、未だに検討がつかない。

「うーん」

銀は大きくて黒くてモフモフしてる尻尾をフリフリしながら深く考えた。

「フリフリしてる…」

ジーと見つめる天満を見た銀は、そっと優しく頬に触れた。

「?」

(無理してるな…)

「銀様…?」

少しドキドキした。

人間の姿になった銀は、スーツ姿に着替えた。

右耳の銀に包まれた紅い宝石が嵌められてるイヤークリップがお似合いだ。

「じゃあ仕事に行くからな」

ポンと頭を撫でた。

「いってらしゃい」


今日は休日。

(ちょっと出かけようかな)

「天満?大丈夫?」

クリスだ。

金髪に水色の瞳。いつもウィンディングドレスを着ているのは吸血鬼の花嫁である証拠のためだ。

「魔界にいるんじゃ…?」

「テル様から天満の両親が昨日殺されたって聞いて…」

親友にまで心配をかかせてしまった。

テルはクリスの夫だ。


「テル様は知ってる?」

「うん、知ってるよ」

「そっか…。銀様って知ってる?」

「銀様?黒狼の?」

「うん」

「知ってる!黒狼の銀様でしょ?魔界のS級ハンターとして有名だよ!どうしたの?」

「うん。実は…」


「え?!花嫁!?」

「うん。昨日ね『花嫁として迎え来たよ』って銀様が言ったの」

「へえー、プロポーズ?いいな」

「プロポーズなの?」

「え?」

恋すらしたことない天満は、『プロポーズ』という言葉に疑問を持った。


ザァーと大雨が降り、傘は差したが、ずぶ濡れになった。

「大丈夫?」

「テル様?」

「ウィンディングドレスだと、動きにくいだろ?」

フワッとテルはクリスをお姫様抱っこした。

きれいでキラキラしてる恋愛だと思い、天満もそういう恋をしたいと心の中で願った。

「ドキドキするってこんな感じかな?」


「テル様、下ろしてくださいよ!」

「嫌だ」

「もう!」

バシバシと手を叩きながら、少し照れくそうにやりとりをする二人だった。

(…幸せってこんな感じなのかな)

少しズキズキする心の痛みを感じた。

「じゃあ、またね!天満!」

「うん!またね」



「お父さん、お母さん…」

涙を流すのが止まらなかった。

(痛いよ…辛いよ)

「天満?」

ギイィとドアに光が差し込まれた。

「風邪、ひくぞ」

銀は白いタオルで、雨に濡れた天満の髪の毛を優しく拭いた。

「銀様…」

「なんだ?」

「お父さんとお母さん…どうして…殺されたんでしょうか?」

グサッと来た。

(もしかしたら、あの連中かもしれない)

少し深刻そうな目つきをしていることに気がついた。

「銀様?」

「どうした?」

「抱いてくれませんか?」

(どうして、君は…)

「よせ。早く寝ろよ」

「…分かりました」


大雨に包まれたのは、銀の心だけではなく、天満の両親の死の真相だ。


雨が強く降るたびに、悲しみの音が聞こえる気がした。

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