第10話 昇級

 地下墓地での激戦から一夜。

 貴族の護衛報酬20万ナディを受け取ったシナアとソレイユの二人は、しっかりと朝食をとり、ギルドへと赴くことにした。

 昨日のゴールドアメジスト級冒険者の暴挙についての説明があるからだ。


 二人はギルドへの扉を開け、受付へと向かう。

 受付の前に到着すると、


「ソレイユ様、シナア様、昨日の件についてご説明いたしますので、お手数おかけしますが別室の方へとご案内いたします。」


 受付のお姉さんの後に続きギルドの奥へと進む。

 少し歩くと一つの扉の前に到着した。

 扉の横には来賓室と書かれたプレートが張り付けられている。


「こちらの部屋になります。中にお入りください。」


 受付のお姉さんが開けた扉をくぐると中には初老の男性がソファに腰かけていた。

 その男性を見たソレイユは、


「あれ!?」


 と、素っ頓狂な声を出した。

 この男性と面識があるのだろう。


「久しいなソレイユ。まあ、いつまでも突っ立ってないで座ったらどうだ。隣のお嬢ちゃんも。」


 男性に促されるままソレイユとシナアの二人は対面のソファに腰かける。


「今回は迷惑かけちまったようですまなかったな。ゴールドアメジスト級冒険者の暴挙についての報告は聞いてるよ。報告にあった遺跡でそいつらを捕縛して、事実確認もできてる。あんな奴らに分不相応な身分を与えちまった、俺たち冒険者ギルドの落ち度だ。改めて謝罪させてもらう。すまなかった。」


 初老の男性は謝罪の言葉を述べると二人に対して頭を下げる。


「いえいえ、私たちは大丈夫ですから、頭を上げてください!」


 恐縮だと言わんばかりにソレイユは男性に頭を上げるように要求する。

 そんな二人のやりとりを見て、


「……ソレイユ。この人だれ?」


 シナアはもっともな疑問を口にしたのだった。


「ガハハハッ! すまねぇ! ソレイユとは面識があったもんだからすっかり自己紹介を忘れちまってたな。俺の名前はシグムンド。冒険者ギルドのギルド長をやってる。」

「ギルド長……それってスゴイ?」

「この人はスゴイ人だよ! 世界中にいる冒険者全員を統括する立場の人なんだから! めちゃくちゃ強いしね!」


 ソレイユとシナアの前にいる男性は冒険者ギルドのギルド長だった。

 冒険者ギルドは世界中に大きな影響を与える一大組織であるため、その組織の長ともなれば世界に与える影響力は国王に匹敵すると考えることができる。


「でも、どうしてシグムンド様が直々にお出でになったんですか? 今回の件が冒険者ギルドの不始末だったとしても、わざわざギルド長自らというのは……。」

「久方ぶりにお前の顔を見ようと思ってな。元気にやっているようで何よりだ。カワイイ相棒も見つかったみたいだしな。」

「……カワイイ。」

「私の顔を見に来たなんて嘘ばっかり。それと、シナアちゃんへのセクハラは止めてください。」

「まあ、本来の目的はお前たちが達成した依頼について話しを聞こうと思ってな。流暢に人語を話す魔物が現れたとの報告があったが本当か?」

「ええ、事実です。死者を使役するネクロマンサーだったのですが、私たちとの会話が成立していました。」

「なるほど……人語を理解する魔物の報告はいくつもあったが会話に至るまでとはな。」


 ギルド長が来訪した真の目的は人語を理解するネクロマンサーについての話を聞くためだった。

 魔物は魔物独自の言語を使っていると考えられているが、ここ最近は人語を理解するものが急増している。

 しかし、今までの人語を理解する魔物はオウム返しのように意味もなく発言するものばかりだった。

 なので今回ソレイユたちが遭遇した魔物がかなり特異なものであるということだ。


「まあ、人語を理解する魔物については今後も調査していく。今回は情報提供感謝する。」

「感謝されるようなことはしてません。当然のことをしただけですから。それより、何か手伝えることがあれば手伝わせてください。」

「手伝うことと言ってもな~大した情報がないから打つ手なしだ。まあ、今後依頼をこなすなかで、今回みたいに特異な魔物に遭遇したら報告してくれ。」

「分かりました。」

「それにお前。隣で退屈そうにしてる獣人の女の子と今後について話しでもしてるんじゃないのか? 聞いたぞ、オークションでとんでもない額が出たってな。」


 ソレイユはシグムンドに指摘され、隣に座っているシナアを見てみると、今にも寝てしまいそうな表情をしていた。


「ごめんね、シナアちゃん! 退屈だったよね?」

「……お話し終わった?」

「まだなの! もうちょっとだけ待っててね」

「うん。」


 ソレイユはシナアと言葉を交わすと再びシグムンドに向き直る。


「シグムンド様。オークションのことなのですが、人身売買は犯罪なのではありませんか? このハトラーダの街では日常的に行われているようですが。」

「まあ、俺やお前の故郷である王国領では犯罪にあたる。この砂漠都市ハトラーダは独立自治区だからな。そういうことだ。」

「合法ということですか。」

「お前が怒りたくなる気持ちはよく分かるが、今どうこうできる話しじゃない。いずれ解決すべき問題。王国ではそういう風に判断されてる。」

「……分かりました。」

「それで、その子どうするつもりだ? 奴隷にするために買ったのか?」

「故郷に連れて行ってあげるつもりです。」

「お前ならそう言うと思ったよ。変わんねえな昔から。話しはこれで終わりだ。手間かけて悪かったな。」


 ギルド長シグムンドとの会談が終わった。

 ソレイユとシナアは席を立ち部屋を出るため扉を開ける。


「失礼します。シグムンド様。」

「……バイバイ、ギルド長。」


 退室の際にシグムンドへ挨拶をおこなう。


「お疲れさん。まあ、また会うこともあるだろう。それから帰る前に受付に寄って行ってくれ、渡すものがある。」


 部屋を出た二人はシグムンドの言葉通り受付へと向かう。

 受付に着くと袋が用意されていた。


「ソレイユ様、シナア様、お疲れさまでした。こちらの袋をお持ち帰りください、ギルド長からの餞別とのことです。」


 袋の中には回復薬などの消耗品とかなり正確な世界地図が入れられていた。

 通常出回っている地図には人間が生活する街などしか記載されていない。

 しかし、この地図は人間以外のいわゆる亜人が住まう所も記載されているかなり希少な地図だ。

 この地図を頼りに進めばシナアの故郷にも辿り着くことができるだろう。


「ありがたく使わせて頂きます、とギルド長に伝えておいてください!」

「分かりました。キチンとお伝えします。それからお二人にもう一つ渡すものがあります。」

「まだ何か頂けるんですか?」

「今回の様々な件を総合してお二人をゴールドアメジスト級冒険者への昇級とさせていただきます。こちらの新しいドッグタグをお持ちください。」

「飛び級ですよ!? 大丈夫なんですか?」

「ゴールドアメジスト級の冒険者を撃退したわけですのでそれに見合うだけの実力はあると判断させて頂きました。」


 こうしてソレイユとシナアはゴールドアメジスト級冒険者へと昇格した。

 特にシナアの異例の速さの昇級は瞬く間に冒険者たちの間に広まった。

 とんでもなく強い獣人の冒険者が現れたと。

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