第9話 襲撃

 ネクロマンサーとの戦いを終えたソレイユとシナアの二人。

 転がっているネクロマンサーの核を入手し、依頼達成を報告するためにハトラーダの街に帰ることになった。


「これでこの遺跡にも平穏が戻るわね! 縛られていた魂たちも解放されたみたいだし、なんだかスッゴクいいことをした気分だわ!」

「ソレイユ、元気だね。あんなに戦ったのに。」

「疲れてるよー! でも今から5万ナディが手に入るんだし、美味しいもの食べに行こ!」

「いっぱい食べる。」

「……ほどほどでお願い。」


 シナアの食べっぷりを思い出したソレイユは苦笑いを浮かべながら言うのだった。


 その後も他愛のない会話を交わしながら歩き、地下墓地の出口に到着した。

 この螺旋状の階段を上れば遺跡の出口はもうすぐだ。

 二人が階段を上ろうとすると階段の上の方からガラの悪い男たちが降りてきた。


「ターゲットはこの二人で間違いないよなぁ」

「ああ。だが殺してもいいのは人間の方だけだ。獣人の方には間違っても傷つけんなよ。」

「少しくらい楽しませてもらってもいいだろ? なあ貴族様!」


 ガラの悪い男たちに続いて、オークション会場で見かけた男が降りてくる。

 この男のことをオークション会場にいた住民たちは、貴族と言っていたが、どうやら本当に貴族だったようだ。


「何の用かしら。遺跡に現れるゾンビの依頼は私たちが解決したわよ。一足遅かったわね」

「そんな目的ではない。黙ってその獣人の娘を私に引き渡せ。」

「お断りよ」


 どうやらこの貴族様はシナアにそうとうご執心のようだ。


「そうか。お前たち獣人の娘を連れてこい。そっちの冒険者は殺すなり犯すなり好きにしていい」

「その言葉待ってたぜぇ。じゃあお姉ちゃんあんまり暴れるなよ! 俺たちもキレイな状態でアソビたいからよぉ!」


 下卑た笑みを顔面に張り付けガラの悪い男たちが距離を詰めてくる。

 貴族の男は階段を上っていく。

 ことの結果を上で待つようだ。


「近寄るな、ゲスが。」

「乱暴な言葉だねぇ。今から楽しいことしようってだけなのに。」

「まぁ、こういう気の強い女も悪かねえけどな!」


 ソレイユはシナアを守るように男たちに立ちはだかると剣を構える。


「おいおい俺たちと戦うつもりか? 分かってないね~実力が。」

「俺たちの人数見てみろよ? それになぁ、お前の冒険者のランクはゴールド級だろ? 後ろにいる獣人の娘もシルバー級。」

「俺たちはなぁ、ゴールドアメジスト級冒険者なんだよ。ゴールド級より2ランクも上のな!」


 男たちはソレイユよりも2ランク上のゴールドアメジスト級冒険者のようだ。

 それは首から下げているドッグタグも物語っている。

 一般的に冒険者のランクが一つ違うと実力にかなり差が出るといわれている。

 なのでこの状況はランクからすればソレイユたちが圧倒的に不利、いや、勝てるはずがない戦いなのだ。


「冒険者の風上にも置けないクズどもだな。」

「武勲を残しているからこのランクなんだぜ?

 俺たちは人様の役に立ってるさ。

 なんせ、冒険者ギルドが昇級を認めてるんだからなぁ!」


 男の一人がソレイユへ斬りかかる。


 その頃一足先に地上へと戻っていた貴族はイライラしていた。


(あいつらいつまで時間をかけるつもりだ!)


 貴族が地上に出て数十分が経過していた。

 ゴールドアメジスト級というそこそこのランクの冒険者を雇ったのだ、この男はそれほどまでにシナアを手に入れたいようだ。


 シルバー級、ゴールド級の冒険者はかなり多くいるのだが、それから一つ上のシルバーアメジスト級以上となるとかなり数が減ってしまう。

 さらに高ランクの冒険者になればこのような汚れ仕事を引き受けるものも少ない。

 なので、あのガラの悪い男たちは貴族がようやく見つけた適任者だったのだ。


(まだなのか! 早くあの娘を連れてこい!)


 イライラからなのか貴族が貧乏ゆすりを始めたとき、


 コツコツ


 階段を上ってくる足音が聞こえてきた。


「ようやく連れてきたか。時間をかけ過ぎだ……ぞ……」


 上ってきた人物を視認して貴族は息を呑んだ。


「なぜお前が上ってくるのだ!? おかしいではないか、あの者たちはゴールドアメジスト級冒険者だったのだぞ!?」


 貴族の眼前に現れたのはソレイユとシナアだったのだ。


「あの冒険者たちなら下で寝てるわ。貴族さん。少し話しをしましょうか。」

「ひぃぃ」


 シナアを遺跡の入り口付近に残し、ソレイユは貴族を引きずっていった。

 遺跡の陰で大人の話し合いがあるようだ。


 数分後シナアのもとにソレイユと顔面蒼白な貴族が戻ってきた。


「待たせちゃってごめんね、シナアちゃん。さっ帰ろ!」


 こうして、ようやく二人はハトラーダの街に帰ることができたのだ。

 遺跡から帰る際に、ゴールドアメジスト級の冒険者が出てこられないように地下墓地の階段に石碑で蓋をしておいた。

 冒険者ギルドに報告したときに行方を眩ませないようにだ。

 そして顔面蒼白の貴族は一緒に街へ連れ帰ることにした。

 貴族の男は戦闘能力がまるでなく、このまま遺跡に取り残しておけば間違いなく死んでしまうからだ。


 街へ到着した二人はギルドへ依頼の達成報告と貴族との一件を報告した。

 依頼報酬はその場で受け取ったが、ゴールドアメジスト級の暴挙についての処遇などは後日に改めて報告すると言われた。

 事実確認があるのだろう。


 そうして豪勢な夕食を終えグッスリと眠りにつくのだった。

 一つのベッドで。


 翌朝、ソレイユたちの部屋に来客があった。

 どうやら貴族に仕えるもののようだ。

 手に持っていた袋を手渡すと足早に去っていった。


「その袋は?」

「気になる? これはねぇ、依頼の報酬よ! 貴族様を街へ送り届けるって依頼の!」


 ソレイユが貴族へ提示していたのは、


「街へ生きて帰りたいならば私たちに依頼しなさい」


 というものだった。


「20万ナディもあるのよ! まあ、あんなことがあったしこれくらいが妥当な金額よね!」


 意外な結果で大金を手にした二人。

 喜ぶソレイユを横目に、シナアはソレイユだけは怒らせてはいけないと肝に銘じるのだった。

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