世界に光をもたらすのは奴隷の猫娘と最強の女冒険者でした
Tea
第1話 運命は動き出す
薄暗くどんよりとした空気に包まれた空間が私の生きるスペースだ。
四方を石造りの壁と鉄格子に囲まれており、鉄格子の向こう側には通路がある。
その通路には頻度こそ多くないものの人間が通る。
様々な人間が通っていくが皆一つの共通点がある。
気持ちの悪い視線を私に向けるということだ。
値踏みをするかのように私の全身を舐めるように見回す。
初めのころは嫌で嫌で仕方が無かったが最近では考えるだけ無駄だと悟った。
ここでの生活はとにかく酷いものだ。
食事は一日に一回。
それもまともな食事ではなく、腐っているようなものばかりだ。
しかし、空腹には抗えない。
ただでさえ少ない食事なのに、食事を抜かれる時だってあるのだ。
水浴びは週に一度、それも監視されながら行う。
気持ちの悪い人間たちが集まり鑑賞会のようなものが行われることすらある。
触られることだってあるのだ。
運が良いと言っていいのか分からないが一線を越えるようなことはまだない。
そしてこの部屋には窓がない。
常に薄暗いこの部屋では時間の感覚すら分からなくなってくる。
時間の感覚を失い、まるで時間が止まってしまった無間の牢獄に閉じ込められているかのようだ。
室温が高くなってきているから今は昼ごろだろうか……。
こんな風に予想することしかできない。
そう言えば最期に日の光を浴びたのはいつだっただろう。
私がそんなことを考えていると、
「今日こそは売れろよな~」
と鉄格子の向こう側の通路から声を掛けられる。
いつの間にか人が来ていたようだ。
しかしこの声はもう聞き慣れた。
「お前がここに来てから半年、いつまで居座るつもりだよ~。居心地良くなっちまったか? ギャハハハ!」
笑い声が空間に反響している。
何が面白いのだろう。
私には全く理解できない。
目の前で下卑た笑みを浮かべているのは奴隷商人の……名前は覚えてないけどクソやろうだ。
私の人生をメチャクチャにしたやつだ。
半年前、私の人生は大きく変わってしまった。
今、目の前にいる男に捕まってしまったのだ。
半年前のあの日、故郷のいつも通る道を歩いていたら馬車を引いた商人に出会った。
私の故郷は亜人族が生活する領域にあり、人間は住んでいない。
だからその道を人間が通ることなど滅多にないことだった。
「面白い商品があるんだ、見ていかないかい?」
男はそう声を掛けてきた。
滅多に見ない人間、それも面白い商品があると言われ好奇心からつい近づいてしまったのだ。
今思えばもっと警戒するべきだったと後悔している。
私が商品を見ようと商人に近づいた時、いきなり良く分からない煙を浴びせられ意識がプツリと途絶えた。
その後、気づいたら首に鎖を繋がれ奴隷になってしまったのだ。
いや、厳密に言えばまだ奴隷にはなっていない。
私は商品なのだから。
最悪だった。
このまま誰かの奴隷になるくらいなら舌でも噛み切ろうかと何度も考えた。
でも結局行動に移すことは出来なかった。
自分の命を絶つ。
考えるのは簡単だが、いざというときなかなか行動できないものだ。
死ぬのは怖い、生きていればまだ希望はあるんじゃないか、そんな思考が頭の中を巡るのだ。
そのような理由があり、私は死ぬことも出来ず、商品として半年間ここにいる。
「……い……おい! 聞いてんのか! 奴隷!」
私が物思いにふけっている間、クソやろうは話し続けていたみたいだ。
「……何か用事でもあるの。」
「聞いてなかったのか! この売れ残りが! もう一度だけ言うから良く聞いておけよ。この後お前はオークションに出される。初期金額は特に設けないから、確実に今日売れるだろう。せいぜい良いゴシュジンサマに買ってもらうんだな!」
そう言い放つとクソやろうは檻のそばから離れて行った。
先ほど言っていたオークションとやらの準備でもあるのだろう。
知ったことではないが。
オークション……。
私がオークションに出品されるというのは初めてのことだ。
今までは直接店に訪れた人に対して売り込みをされていたらしい。
しかし、運が良いのか悪いのか私が売れることはなかった。
そうとう高額で取引されていたのかもしれない。
自分の値段がいくらだったかなんて知らないし知りたくないけど。
それが今回はオークション、それも初期金額ゼロならアイツが言っていたように今日誰かに買われるのだろう。
極端な話し最低単価の1ナディでも売れるわけなのだから。
今日でここともおさらばか……。
いざ離れることになると思うと、こんな最悪なところでさえ名残惜しく感じてしまう。
いったいどんなヤツに買われるのか今から不安で不安でしょうがない。
せめて今より良い待遇でありますように……。
私にはそう祈るしかなかった。
「おい! 奴隷! お前の出番だぞ!」
クソやろうからお呼びが掛かった。
ついに私の順番が回ってきたみたいだ。
檻の扉が開けられ連れていかれる。
私の運命を決める大舞台に上がるときが来たようだ。
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