第3話


『まもなく、新宿ー新宿ー。お忘れものなさいませんよう、お気をつけてお降りくださいーー』


朝の通勤ラッシュほどつらいものはないと思う。

身動きがとれないほどの密度。

冷房は効いているはずなのに、それがまったく感じない熱。

荷物とかで体がギュウギュウになり、息をするのが苦しくなる。

そして、やっと目的の駅に着いたと思ったら、今度は人の川に揉まれながら改札機へと向かう。


『ーーーピンホーン』

(・・・またか)


アオイは、赤くなった改札機のランプを見ながらため息をはいた。

自分が使っている定期カードの期限が切れた訳でもないし、金額だって十分入っている。

でも、自分がいざ改札機を通ろうとしたら高い確率で赤いランプが光って一旦止まってしまう。

原因はわかっている。

アオイではなく、その前にいた人。

その人が何らかの原因でランプが点いてしまい、その次に通るはずだったアオイで止まってしまうのだ。


(まぁいいか。別に急いでいる訳でもないし。)


時間に余裕をもって来ているのだ。

たかが数秒待つだけで、会社に何十分も遅れる訳ではない。

再び青いランプが光だした改札機を通り、様々なビルが建ち並ぶオフィス街へと進んでいった。


『ーーー昨夜、東京都渋谷区内にて女性の遺体が発見されました。警察は遺体の状況から、連日発生しいている事件との関連していると見ております。次に・・・』


「やっべー。また、この事件かよ。」

「まじ、すごくね?これ。」

「それよりもさー。明日どうするー?」

「えー?」


新宿駅前にある高層ビルに設置されている大型テレビに、連日発生している事件が報道されていた。

『切り裂きジャック事件』

1888年イギリスで発生した連続猟奇殺人事件。

売春婦5人をバラバラに切り裂き、イギリス中に恐怖を陥れた有名な事件である。

連日発生している事件が、この切り裂きジャック事件と共通点が多いことから、現代の切り裂きジャック事件とも呼んでいる人もいる。

犯人も男なのか女なのか、未だに不明。

証拠もほとんどなく、警察はテレビで、夜中、外を出歩く際には警戒をするようにと注意勧告しか出来なかった。


あの時は、早く捕まってほしいなと、他人事しか思ってなかったが、まさか自分自身が関わるとは、思っても見なかった。

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