第17話 自称天才学者
グランたちと別れたシルト、ロゼ、リヒトはスライムの森の中で薬草採取をし始めた。
たくさん生えている草木の中から薬草を見つけるのは意外に大変なようで、薬草図鑑を片手にどれが薬草なのか一枚一枚葉っぱを調べていく。
ある程度の薬草の知識は師匠から与えられてはいるが、数種類の薬草だけ集めていたのではお金にならない。
そのため、珍しい薬草などを採取することが重要なのだ。
「これは、普通の葉っぱ。これは……普通の葉っぱか」
「なかなか見つからないね」
「もうちょっと薬草って分かりやすいと思ったんだけどな~」
「森は広いから仕方ないわね。根気よく探しましょう」
愚痴を言いながらも黙々と薬草採取をする。
スライムの森にはかなりたくさんの種類の植物が生えている。
そして、かなり広大な森のため全貌は解明されていないという。
そのため、植物学者たちはこぞって調査に来たりするのだ。
もしかすると、歴史的大発見があるかもしれないという夢を追い求めて。
シルトたちが薬草採取を始めてから2時間程が経過した。
2時間も集め続ければそれなりの量が集まるものだ。
シルトたちは持ってきていた袋いっぱいに薬草を採ったようである。
「結構集まったな」
「量は多いけど、この種類の薬草ならこれだけあっても大したお金にはならないでしょうね……」
「仕方ないよ、ロゼ姉。薬草採取は普通儲からないものらしいし」
三人はかなり疲れた様子だが、ロゼの言うように集めた薬草を冒険者ギルドに提出しても大した稼ぎにはならない。
三人が集めた薬草は低級の回復薬の材料などに使われる、とてもポピュラーなものだ。
そのため単価がとても安く、袋いっぱいに集めても、報酬を三人で使うとなると宿に数日泊まれる程度のお金にしかならない。
時間の割に対価が少ないため、やりたがる冒険者が少ない依頼なのだ。
「これぐらいで帰るか。夜中の森には良い思い出もないしな」
「そうね。無理しても仕方ないものね」
そろそろ夜も近づいてきているので森から出ることにした三人。
前回グランスライムに出くわしたことを教訓にしているようだ。
冒険者とは常に学びながら成長していくことが大事なのである。
比較的森の浅いところで採取していたため、森から出るのに迷うことはなさそうだ。
特に危険なこともなく森の出口に辿り着くことができた。
しかし、
「キャー」
という悲鳴が森の中から聞こえてくる。
割と近いところからの声のようだ。
どうやらこの三人は行く先々でトラブルに巻き込まれるという天性の才能があるのだろう。
「悲鳴が聞こえたぞ!」
「近いわね!」
「助けに行かなきゃ!」
三人は先ほど出てきたばかりの森の中に躊躇いなく入っていく。
人を助けることに躊躇しない。
これも三人の天性の才能なのだろう。
森の中で悲鳴の主を見つけるというのはかなり難航すると思われたが、定期的に、キャー、助けてー、と悲鳴が聞こえてくるため、案外簡単に見つけることが出来た。
一匹の魔物に襲われている女の子がいたのだ。
何だか幼い見た目をしている白衣を着た女の子が悲鳴の主だったようだ。
なぜ森の中に女の子が一人でいるのだろう、という疑問も浮かぶところではあるが、シルトたちはまずは女の子を助けることにした。
「大丈夫か!? 今、助けるからな!」
シルトは槍を構えて魔物と女の子の間に割って入る。
魔物は狼のような見た目をしていることから、おそらくシャドウファングと呼ばれる魔物であると考えられる。
主に森などに生息する魔物であり、影から一撃で命を奪う暗殺者として知られている魔物だ。
女の子が現在も生き延びているのはかなり運が良いと言えるだろう。
「誰だ!? お前たちは!?」
「大丈夫、敵じゃないわ! 話しは後にして今は私たちの後ろに隠れていて!」
「すぐ倒すからね!」
シルトとリヒトは武器を構えてシャドウファングとの距離を詰める。
相手の実力が分からないので無理に攻めるようなことはしない。
それはシャドウファングも同じようで、一定の距離を保つように後退している。
突然の乱入者との距離感を測っているのだろう。
もしくは確実に仕留めるにはどうすれば良いかを考えているのかもしれない。
両者の間に緊張感が漂う。
ジリジリと距離が詰まり、先に動いたのはシルトだった。
槍のリーチを生かした一突きを繰り出す。
しかし鋭い一突きは空を切ることになる。
シャドウファングが軽やかなステップで槍を躱したのだ。
そして躱した状態から攻撃へと転じる。
素早く地を駆け、シルトの懐へと飛び込むと鋭い牙で噛みつこうと大きく口を開ける。
「危ない、シルト兄!」
間一髪のところでリヒトが剣を振るう。
しかし、この攻撃もひらりと躱される。
瞬発力と身体能力があるからこそ為せる動きだろう。
再び距離を取ったシャドウファングはグルルと唸り声を上げる。
二人を相手に攻めあぐねているのだろう。
目線を左右させたかと思うと、突如近くの茂みへと飛び込んだ。
「逃げたか……!?」
「いや、茂みから狙ってるんだと思うよ」
シャドウファングは真っ向勝負を諦め、影からの奇襲を行うことにしたようだ。
森というフィールドにおいてはシャドウファングに分があるだろう。
気を抜けば鋭い牙の餌食になってしまう。
シルトたちは周りの茂みに意識を集中させる。
しかし、流石は暗殺者といったところでまったく足音や茂みが動く音がしない。
完全に見失ってしまっていた。
「どうなってるんだ? もう大丈夫なのか?」
耐え兼ねた女の子が声を荒げる。
その一瞬、シルトたちは女の子へ集中を向けてしまった。
『グルゥァ』
木の上からシャドウファングが飛び掛かる。
シャドウファングは音もたてずに木に登っていたようだ。
必殺の牙をシルトへと向ける。
「オラァ!!」
シルトは頭上のシャドウファングへ向けて槍を放つ。
ズシャという生々しい音が森に響いた。
間一髪シルトの槍が早かったのだ。
シャドウファングは口から槍を突き入れられて串刺しにされ、絶命した。
「危なかった~。死んだかと思ったぜ」
シルトは槍に刺さったシャドウファングを処理しながら先ほどの状況について振り返る。
「ヒヤヒヤさせないでよ!」
「怖かったよ、シルト兄!」
ロゼとリヒトもホッとしながらも危険だった状況を振り返った。
しかし、何はともあれ勝利することができたという事実に変わりはないのだ。
無事に女の子も助けることができた。
「お嬢ちゃん大丈夫か?」
シルトは女の子に視線を向けながら無事を確認する。
「誰がお嬢ちゃんだ! これでも20歳は越えてるんだぞ!」
「え!? 年上!?」
どうやら女の子だと思っていた女性はシルトたちよりも年上だったようだ。
なんという童顔。
シルトたちが唖然としていると、
「そんなに私は幼く見えるのか……。どこに行っても同じ反応だ。」
女性は少し悲しげに語り出した。
「研究所では子供とバカにされるし、酒場では追い返されるし……」
次々と悲しいエピソードが飛び出してくる。
相当いろいろな経験をしてきたのだろう。
シルトたちは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ただ、助けてくれてありがとう。感謝してるよ」
感謝を述べた女性はペコリと頭を下げる。
その仕草も幼く、可愛らしく見えるのだがシルトたちは口にするのをグッと我慢した。
「私はメディーカ。天才学者だ!」
エッヘンと腰に手を当てて胸を逸らしながら自信満々に自己紹介をするメディーカ。
自分で天才と言ってしまうほどの自信があるらしい。
メディーカの自己紹介を受けて、シルトたちも自己紹介を行う。
「俺はシルト。こっちにいるのがロゼ。こっちのちっこいのがリヒト! よろしくお願いします!」
そう言って手を差し出すと、メディーカが握手に応じた。
お互いに自己紹介が終わり、交流が図れたところで、
「ありがとうシルト、ロゼ、リヒト。助けてもらったお礼がしたいから家に来てくれ! すぐ近くなんだ!」
そういうとメディーカは歩き始める。
「そっちは森の出口じゃないですよ?」
「いいんだよ、こっちで。」
三人は出口とは逆方向に進むメディーカに疑問を感じながらも後をついていくのだった。
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