第16話 シルバートパーズ級冒険者
ビギナー武器を手に入れたシルト、ロゼ、リヒトの三人は晴れてビギナー冒険者になった。
心持ち新たに冒険者として活動しようと決めた三人は、まずは初心者向けの依頼を地道にこなしていくことにしたようだ。
武器屋を後にして冒険者ギルドを訪れた三人は、依頼が張り付けられているクエストボードの前で依頼を探している。
現在いろいろな依頼が張り付けられている。
やはり魔物の増加に伴って日々依頼は増える一方だ。
特に魔物の討伐依頼というのが目につく。
魔物の討伐は報奨金が良いため冒険者がこぞって依頼を受けるのだが、それでもまだまだ討伐依頼が残っている。
世界情勢が徐々に魔物に押されているということなのだろう。
冒険者にとっては稼げるチャンスともいえるが、やはり良いことではない。
人類の絶滅が近づいているということなのだから。
「討伐依頼ばっかりだな~」
「そうね、どうする? いっそのこと討伐依頼を受ける?」
「う~ん。魔物との戦闘には良い思い出がないからな~」
「確かにそうね。できれば別の依頼を一回受けたいところよね」
シルトたちはクエストボードの前で唸っている。
グランスライム、ドラゴン、ゴブリンジェネラル、強敵たちが頭をよぎってしまい、なかなか依頼を選べずにいたのだ。
どうしようかと悩んでいると、
「あっ! シルト兄、ロゼ姉、これなんてどう?」
とリヒトが一つの依頼書を指さす。
「どれどれ……薬草採取か。確かにこれならいけるかもな」
「でも、場所がスライムの森になってるわよ?」
「まあ、仕方ないだろ。いつまでもあの場所を避けては通れないってことだよ」
ということでスライムの森での薬草採取を受けることにした三人。
さっそく受付に依頼書を持っていく。
「こちらの依頼ですね」
「はい」
「薬草採取は取ってきた薬草の数や種類に応じて報奨金を支払いますので頑張って集めてきてくださいね!」
「分かりました!」
シルトたちはスライムの森に向かおうとする。
しかし、そういえばあのことを伝えてなかったなと思い出して、受付のお姉さんに声を掛ける。
「すいません」
「はい、どうしましたか?」
「前回スライムの森に行ったときグランスライムに遭遇したんですけど、あの森には普通に出るものなんですか?」
「グランスライムですか!?」
「えっ、そうですけど……」
「なんで早く言ってくれないんですか! そんな危ない魔物が出たなら、危険だと冒険者や街の人たちに伝えなければいけないのに!」
「すいません……」
受付のお姉さんはちょっと怒った様子で慌ただしく行動し始めた。
スライムの森が危険だということを伝えるのだろう。
なんだか立ち去ったらいけないような気がした三人はギルドの中で一段落するまで待つことにした。
数十分後、受付のお姉さんがシルトたちのところへやってきた。
お姉さんの後ろには見慣れない4人の冒険者がいる。
「シルト様。」
「はい」
「この冒険者の方々とグランスライムを目撃したところまで行ってもらえませんか? 早急に対処するべきことだと判断しましたので」
「分かりました」
ということで見知らぬ冒険者パーティーとスライムの森まで赴くことになったのだ。
道中でお互いに自己紹介を行うことにした。
シルトたちが一通り自己紹介を済ませると4人組の冒険者が自己紹介を始めた。
まず自己紹介を行ったのは、リーダーと思われる男性だ。
「僕の名前はグラン・フォーゲル。このバーティのリーダーを務めてる。剣士をやってるんだ。よろしく頼むよ」
グランは爽やかに挨拶を行うと握手を求めてきた。
その何気ない行動からリーダーとしての風格が漂っている。
次に自己紹介を行ったのは魔法使いらしい外見をしている女性だ。
「私はミスカ・アルマ。魔法使い。よろしく」
素っ気なく挨拶を済ませるとプイとそっぽを向いてしまった。
でも悪い人じゃないんだろうなと思わせるような仕草だ。
「ごめんね~、ミスカちゃん恥ずかしがり屋さんだから。本当はとっても良い子だから仲良くしてあげてね」
「ちょっ……メルティ!? 変なこと言わないでよ!」
ミスカのフォローをしたなんともポワポワとした雰囲気が漂う女性はメルティと言うらしい。
ローブを纏い、ロッドを持っていることからヒーラーであることが推測できる。
「あ~、私の自己紹介してないよね。私はメルティ・フルール。ヒーラーをやってるの。よろしくね!」
メルティは大方の予想通りヒーラーのようだ。
ヒーラーとは名前の通り、回復を専門に行う人のことを指す。
ただ、回復専任というよりも回復意外に身体能力上昇などの補助魔法を扱うものが多い役職である。
パーティーを支える重要な役割なのだ。
まだ自己紹介をしていないのはクールなオーラを漂わせている拳闘士風の男性だ。
「俺は、ウェントゥス・アルバロッサ! このパーティーで拳闘士をやっている! よろしく頼む!」
ガシッとシルトの肩を掴む。
見た目はクールなのだが、メチャクチャ熱い人の様だ。
「僕たちはこの4人でパーティーを組んでる。ちなみに冒険者ランクはシルバートパーズ級だ。改めてよろしく頼むよ!」
グランと改めて握手を交わしたシルト。
年齢で言うと4人ともシルトたちとさほど変わらなく見える。
その年齢でシルバートパーズ級冒険者ということは相当の実力を持っているということだろう。
シルバートパーズ級というのは冒険者ならまずはそこを目標にするランクだ。
シルバートパーズ級冒険者になると、王都へと招待され国王や王国騎士元帥といった国の権力者たちと謁見をすることができる。
国の戦力であると直々に認められることとなり、王国からの特別依頼を受けることになったり、他の冒険者よりも様々なところで優遇されるのだ。
なので、ゴールドダイヤモンド級という最上位の存在を目指すための重要な通過点となるということだ。
シルト、ロゼ、リヒトとグランたちは色々と話しをしながらスライムの森を目指して歩く。
話しといっても、シルトたちが一方的に質問やアドバイスを聞いていただけではあるのだが、グランたちは快く答えてくれているので、とても良い人が集まったパーティーなのだろう。
スライムの森着くころにはすっかり仲良くなっていた。
「それで、シルトたちがグランスライムを見たのはどの辺なんだい?」
「それが、あの時は無我夢中だったので、正直どこら辺なのか分からないんですよね~」
「まあ、最初の試験でグランスライムに遭遇したとなればそれも当然だよ」
「そうよ。生きてただけでも凄いことなんだから」
場所が分からないと言ってもグランたちは納得してくれる。
自分たちも冒険者の試験を通過して、今までに強敵と戦ってきたからこそグランスライムを相手に生き延びたシルトたちを評価しているのだろう。
「じゃあ、シルトたちとはここでお別れかな。グランスライムが出るってことはそれなりに森の奥のはずだ。シルトたちは薬草採取頑張りなよ!」
「頑張れよ! お前たち!」
「頑張ってね~。またお話ししようね~」
「……頑張りなさいよね! 次会う時までに強くなりなさいよ!」
グラン、ウェントゥス、メルティ、ミスカはそれぞれ激励の言葉を口にしてスライムの森の奥地へと進んでいく。
いずれ肩を並べて戦える日を夢見て、シルトたちは薬草採取へと向かうのだった。
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