『ヤンデルとグレテル』

やましん(テンパー)

 『ヤンデルとグレテル』

 ヤンデルとグレテルは、とても仲の良い兄妹でした。


 そのころ、世界はもう、ロボットたちが、大体は征服していて、人間は支配されるように、なってきておりました。


 ふたりのお父さんは漁師で、海に漁に出ると、二月くらいは帰ってきませんでした。


 お母さんは、他所のお家に行ったきりでした。


 ふたりのお家には『キューさん』という、少し旧式のロボットさんが家庭教師として、勉強を教えに来ておりました。


 キューさんは、とても優しく、丁寧で、親切で、ロボットと人間の分け隔てをしませんでした。



 *****



 ロボットたちは、かつてアシモフさんという人間が作った『ロボット三原則』をもじった、『人間三原則』を定めていました。


1 人間はロボットに危害を加えてはならない。また、その危険を見過ごしてはならない。


2 人間は、ロボットに与えられた命令に服従しなければならない。ただし、その命令が1に反する場合は除く。


3 人間は、1または2に反しない限りにおいて、自己を守ることができる。



 *****



 二人が住んでいた、このアフリカの海沿いの小国の首都でも、まだ、ときたま、人間たちによるロボット政府への抗議デモ行進が、行われておりました。


 それは、さまざまなプラカードを掲げて、平和的に行進するだけのものだったのですけれども。


 ところが、ある日、その中に過激な人たちが紛れ込んでおりました。


 彼らは叫びました。


『ロボットを粉砕せよ!』


『打倒! ロボット政権!』


『ロボットを創造したのは我々人間だ!』


 そうして、こうした大きなプラカードも掲げて、最初は大人しく行進していましたが、やがて投石したり、商店のショーウインドウをたたき割ったりし始めたのです。


 それに対して、ロボット警官隊が、催涙ガスを撃ったり、強力な放水機でお水をぶっつけたりしました。


 ところが、あるビルの上から、突然銃撃が始まったのです。


 それは、平和的に行進していた人たちをも、区別なく攻撃してきたのです。


 あたりは、真っ赤に染まりました。


 ヤンデルとグレテルは、たまたま、その様子を見に行っていたのです。



   *******  



 キューさんが駆けつけた時には、もうふたりは、息絶えていました。


 キューさんはロボットですが、嘆き、叫びました。


 彼は、実は『Q式ロボット』と呼ばれた、特殊な戦闘用ロボットだったのです。


 しかし、製造したロボット技師たちが考えた以上に、恐ろしい性能を持っていました。


 しかも、設計上、かならずしもロボットたちにだけ、忠実ではないことがわかり、すぐに生産は中止されました。


 ところが、ほんの少しだけ、横流しされた個体があったのです。


 それは、戦闘モードにはなっていない状態で、闇市場で売られました。


 キューさんは、そのうちの一体だったのです。


 古いタイプなので、今から見れば、弱点もあるのですが、身体は丈夫で、普通の銃撃などにはびくともしません。


 戦闘モードではなくても、暴れ出したら、けっこう厄介なのです。


 キューさんは、警察署に行き、抗議しましたが、相手にしてくれません。


 心ならずも、キューさんは警官を十体くらいは破壊し、逃走し、お尋ね者になりました。


 それから、彼は密航して、世界各地を巡り、やがて極東の小さな国にたどり着いたのです。


 世界は、ますますロボットに支配されてゆき、デモ行進なども、事実上、もうできなくなって、しまったのでした。


 また、人間たちも、抗うよりも、ロボットに従って、平和を享受する方が、ましだと思うようになりました。


             そうして、今がやって来たのです・・・・。






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 『ヤンデルとグレテル』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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