『ヤンデルとグレテル』
やましん(テンパー)
『ヤンデルとグレテル』
ヤンデルとグレテルは、とても仲の良い兄妹でした。
そのころ、世界はもう、ロボットたちが、大体は征服していて、人間は支配されるように、なってきておりました。
ふたりのお父さんは漁師で、海に漁に出ると、二月くらいは帰ってきませんでした。
お母さんは、他所のお家に行ったきりでした。
ふたりのお家には『キューさん』という、少し旧式のロボットさんが家庭教師として、勉強を教えに来ておりました。
キューさんは、とても優しく、丁寧で、親切で、ロボットと人間の分け隔てをしませんでした。
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ロボットたちは、かつてアシモフさんという人間が作った『ロボット三原則』をもじった、『人間三原則』を定めていました。
1 人間はロボットに危害を加えてはならない。また、その危険を見過ごしてはならない。
2 人間は、ロボットに与えられた命令に服従しなければならない。ただし、その命令が1に反する場合は除く。
3 人間は、1または2に反しない限りにおいて、自己を守ることができる。
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二人が住んでいた、このアフリカの海沿いの小国の首都でも、まだ、ときたま、人間たちによるロボット政府への抗議デモ行進が、行われておりました。
それは、さまざまなプラカードを掲げて、平和的に行進するだけのものだったのですけれども。
ところが、ある日、その中に過激な人たちが紛れ込んでおりました。
彼らは叫びました。
『ロボットを粉砕せよ!』
『打倒! ロボット政権!』
『ロボットを創造したのは我々人間だ!』
そうして、こうした大きなプラカードも掲げて、最初は大人しく行進していましたが、やがて投石したり、商店のショーウインドウをたたき割ったりし始めたのです。
それに対して、ロボット警官隊が、催涙ガスを撃ったり、強力な放水機でお水をぶっつけたりしました。
ところが、あるビルの上から、突然銃撃が始まったのです。
それは、平和的に行進していた人たちをも、区別なく攻撃してきたのです。
あたりは、真っ赤に染まりました。
ヤンデルとグレテルは、たまたま、その様子を見に行っていたのです。
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キューさんが駆けつけた時には、もうふたりは、息絶えていました。
キューさんはロボットですが、嘆き、叫びました。
彼は、実は『Q式ロボット』と呼ばれた、特殊な戦闘用ロボットだったのです。
しかし、製造したロボット技師たちが考えた以上に、恐ろしい性能を持っていました。
しかも、設計上、かならずしもロボットたちにだけ、忠実ではないことがわかり、すぐに生産は中止されました。
ところが、ほんの少しだけ、横流しされた個体があったのです。
それは、戦闘モードにはなっていない状態で、闇市場で売られました。
キューさんは、そのうちの一体だったのです。
古いタイプなので、今から見れば、弱点もあるのですが、身体は丈夫で、普通の銃撃などにはびくともしません。
戦闘モードではなくても、暴れ出したら、けっこう厄介なのです。
キューさんは、警察署に行き、抗議しましたが、相手にしてくれません。
心ならずも、キューさんは警官を十体くらいは破壊し、逃走し、お尋ね者になりました。
それから、彼は密航して、世界各地を巡り、やがて極東の小さな国にたどり着いたのです。
世界は、ますますロボットに支配されてゆき、デモ行進なども、事実上、もうできなくなって、しまったのでした。
また、人間たちも、抗うよりも、ロボットに従って、平和を享受する方が、ましだと思うようになりました。
そうして、今がやって来たのです・・・・。
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『ヤンデルとグレテル』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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