第12話 終わりの始まり


‶ビ~、ビ~、ビ~、ビ~、ビ~″

その時、けたたましいサイレンが鳴り響いた。


〔緊急警報、ただ今、北極と南極の両極点で磁力震が観測され、GOTUNよりブロッケン警報が発令されました。繰り返します。ただ今ブロッケン警報が発令されました〕

〔コードアルファを発動、第1種戦闘配備〕

〔了解、コードアルファ、発動します〕

サンドラに続いてオペレーターの少女の言葉が聞こえてきたのと同時に、マイの前からスクリーンが消えていた。

「司令」マイが叫ぶ。

だが、その声はもうサンドラに届くことはなかった。


その頃サンドラには、オペレーターの少女たちから次々に報告が入っていた。

「司令、両極点の磁力震なおも増大中」

「ヘルゲートは?」

「映像、メインスクリーンにだします」

メインスクリーンに映し出された両極のヘルゲートは、内側から押し寄せるように渦巻く漆黒のを必死に押しとどめ、抑え込もうとしていた。

「ヘルゲート出力最大。ですが、このままでは長くはもちません」

オペレーターの少女の言葉通り、圧倒的過ぎる力によってリングが内側から押し広げられていく。

そしてヘルゲートはあっけなく崩壊し、に出現したのは‶穴″だった。

そしてその中から、何かが姿をあらわした。

それは、穴の大きさからは想像も出来ないほど不釣り合いな、超巨大な物体だった。

「あれは、まさか?」

穴から上に向けてひたすら伸び続けるにサンドラは見覚えがあった。

それは、大きすぎることを除けば、つい数日前にガリレオを串刺しにした、あの蜘蛛の脚のようなブロッケンにそっくりだった。

「今度は何をするつもりだ?出撃可能なギアを全て出させろ。あれを破壊する」

「司令、ブロッケン急速接近、迎撃間に合いま・・・」

‶ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガっ″

次の瞬間、オペレーターの少女の悲痛な叫びを掻き消すかのように、何かに摑まっていなければ立っていられないほどの激し揺れがガリレオを襲っていた。

「現状報告、映像だせ」

メインスクリーンに次々に映像が映し出されていく。

「なんだこれは?」

サンドラが驚くのも無理なかった。

地球の両極から伸びる2つの超巨大な塔が途中で枝分かれしながら無数の蜘蛛の脚のようになっていた。

しかもその全ての先端には鋭く湾曲する鈎爪があり、それが、まるで獲物を捕らえたかのようにガリレオに深々と突き立てられていたのだ。

「被害状況を報告しろ」

「ブロッケンの爪の数は計666本。その全てが5つある装甲隔壁を全て貫通し、ガリレオ内に到達したもよう」

「また小型のブロッケンが来るぞ。爪が到達したエリアの隔壁を全て閉鎖し衝撃吸収ジェルを注入しろ」

「司令、まだ避難が完了していません」

「そんなことを言ってたら手遅れになる。ためらうな、隔壁閉鎖だ。

民間人の脱出船への避難を急がせろ。ギアの出撃はまだか?」

「司令、ギアの格納庫と連絡が取れません」

「なに?」

「監視衛星のカメラで確認しました。8か所あるギアの格納庫全てにブロッケンの脚が突き立てられています」

「格納庫内を映せるか?」

「映像切り替えます」

「!?」

そこに映し出されていたのは最悪の結末だった。

天井や壁を貫いて格納庫内に突き立てられた脚から、数え切れないほどの小型ブロッケンが涌き出るように姿をあらわしたかと思うと、が融合しながらアメーバーのようになって、待機していたギア、ギアアイン、AIギアを次々に飲み込み侵食し、格納庫内を破壊し始めていた。

「バカな!ヤツらパイロットもなしでどうやって?コックピット内を映せるか?」

「やってみます。・・・映像でます」

映像が切り替わり映し出されたコックピットの中にいたのは、人の形をした2体のブロッケンだった。

ブロッケンが身体を重ね合わせるように立ち、ギアを操っていたのだ。

「そうか、そういうことか」

「司令?」

「この前の戦闘でパイロットの脳を深層心理まで侵食したのは、ギアの操縦をマスターするためだったのか。・・・くそっ」サンドラは椅子の肘掛を握り拳で叩いていた。

「司令」

「格納庫内に衝撃吸収ジェルを注入、ブロックごと宇宙に射出し自爆させろ」

「了解、全格納庫、隔壁閉鎖。衝撃吸収ジェルを注入、更に射出、自爆モードにフェーズを移行します。・・・司令、ブロッケン化したギアが次々に隔壁を破壊、姿を変えギア搬入用のトンネルやリニアトレインのトンネルを通り、他のブロックへ侵攻しています。ジェルの注入が間に合いません」

「他の脚からも次々に小型のブロッケンがガリレオ内に侵入しています」

「ブロッケンが侵入した箇所をエリアごと封鎖、衝撃吸収ジェルを注入しつつパージし、宇宙空間で自爆させろ」

「エリアごとですか?」オペレーターの少女は、驚きを隠せない様子で思わずそう聞き返えしていた。

「そうだ、急げ」

「司令、大変です」間髪入れず、もう1人の少女が叫ぶように声をあげる。

「何事だ?」

「ガリレオが地球に引き寄せられています」

「なに!?」

「ガリレオを掴む脚状のブロッケンが、ガリレオを地球に引き寄せています。ほんのわずかですが、ガリレオは地球に向かって移動を始めています」

オペレーターの少女がそう言いながらキイボードを操作すると、蜘蛛の脚に引っ張られて地球に向かう、ガリレオの予測軌道がCGでスクリーンに映し出されていた。

「ガリレオを地球に落とすつもりか?逆噴射」

「了解、逆噴射」

ガリレオから無数の青白い炎が噴き出し、降下速度が落ち始めた。

「各ステーションに要請したギア部隊はまだか?」

「司令、各ステーションから返信、ギアはブロッケン化される恐れがあり、これ以上パイロットを失うリスクを避けたいとの理由で、援軍はAIギアしか出せないと言っています」!オペレーターの少女の悲痛な声が響いた。

「バカな!!このままガリレオが衝突したら、地球上の生命は間違いなく滅亡する。

いや、地球そのものが消滅するかもしれないのに、なにを悠長なことを・・・」

‶ドッゴォオォォンっ、ドゴゴオオォォォォォンっ″

その時、あらたな爆発音と共に細かな振動が指令室に伝わってきた。

「何事だ?」

「司令、ブロッケン化したギアがガリレオの外に出て逆噴射用のスラスターノズルを次々に破壊しています」

「クソっ」

「司令、大変です」もう1人のオペレーターの少女があげたその声は、叫びと言うよりも悲鳴に近いものだった。

「今度はなんだ?」

「最高評議会がガリレオの自爆を決定しました」

「なに?」

「自爆コードが承認され、起爆装置が2つとも既に作動しています。カウントダウン進行中、ガリレオは650秒後に自爆します」

「バカな、・・・そんなバカなことが、・・・」

「最高評議会のメンバーは既にガリレオを脱出し月に向かっています」

「くっ、非常事態を宣言」

「了解」オペレーターの少女が赤い大きなボタンを押すと、非常事態を知らせるアナウンスが流れ始めた。

 『緊急警報、緊急警報、ただ今、ガリレオに非常事態が宣言され、自爆装置が作動しました。ガリレオは600秒後に自爆します。まだガリレオ内に残っている人はただちに脱出用シャトルに搭乗してください。ガリレオ内には多数の小型ブロッケンが侵攻しています。避難の際には必ず武装してください。これは訓練ではありません。繰り返します・・・』

「司令・・・」あまりに絶望的な状況に不安に駆られたのだろう。

オペレーターの少女の1人が、今にも泣きそうな顔でサンドラを見つめていた。

「そんな顔するな。医療ブロックと拘置所はどうなっている?」サンドラはいつもと変わらぬ口調でそう聞き返した。

「はい、医療ブロックは脱出船に収容されガリレオを離脱しました。拘置所はこれから移動を開始します」

「分かる限りでいい、ブロッケンの脚が突き立てられた箇所の被害状況を報告。

それから、マイ・スズシロが隔離されている爆発物処理室のジェルを排出しろ、大至急だ」

「司令、ツルギとハーケリュオンはどうしますか?」

「ハーケリュオンをリニアカタパルトに移動させ、月に向かって射出しろ。ツルギは後回しでいい。今はマイが最優先だ」

「司令、拘置所の区画エレベーターが作動しません」

「なに?しかたない、拘置所を開放し全員徒歩で脱出船に避難させろ」

「司令、大変です」

「どうした?」

「爆発物処理室との回線が途絶、通話もジェルの排出もできません」

「なに?ということはマイの生死も分からないのか?」

「はい。どちらにしてもジェルを排出するには直接処理室まで行き、手動でポンプを作動させないと・・・」

「分かった。私が行く」

「え?」

「もう時間がない。キミたちは早く脱出船に行きなさい」

「司令、月で待ってますから・・・」

「ああ、必ず生きて会おう。約束だ」

サンドラはそう言うと腕時計の文字盤の外側のリングを右に回した。

すると、壁がスライドし奥から何かがせり出て来た。

それはパワードスーツだった。

「A装備を追加、それとパイロット用のスーツをプラグインして」

〔了解〕

そう命令しながら彼女がスーツを装着している間に、穴の奥から全身に兵装を備えたフレームと、もう1機のスーツが姿をあらわし、それぞれがサンドラのスーツと合体して、全身に武装を施した大きなスーツが誕生していた。

「私はこの後ろのスーツにマイを回収し脱出船に向かう、もしそれが不可能ならそのままガリレオから脱出する。キミたちも急げ」

「「はい」」

そう返事したオペレーターの少女たちは既にスーツを装着し、前後から合体する工程に入っていた。

2人のスーツがプラグインしたのを確認すると、サンドラは扉を開け通路に飛び出して行った。



                               〈つづく〉



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