東京ルール

 「どうだった?」市庁に帰るなり仙道が待ちかねたように伊刈に声をかけた。東関浄技社の検査結果が気になっていたのだ。

 「ちょっと思いがけない結果でした」

 「どう思いがけない?」

 「処理能力と受注量が全くバランスしていませんでした。処理能力の十倍もの受注がありましたが、からくりとしては収集運搬の再委託です。運搬費と処分費を込みで受納して再委託しているので売上高が膨張しているんですね」

 「うんやっぱりそうか。前からそんなことだろうと思っていたんだがな。おまえのことだから見抜くと思ってたよ」

 「収集運搬の再委託を東京都は一回だけの再委託は認めていると言ってましたがほんとでしょうか」

 「東京ルールなんだよ。都内には業者が少ないんで収集運搬の再委託は大目に見てるんだ。それに乗じて受注を増やしてるんだろう。東関浄技社は知名度抜群だから再委託していいならいくらでも仕事を集められるだろう。収集運搬で処分まで含めて一括受注して二割か三割料金をはねて再委託する。これができたら笑いが止まらんほど儲かるぞ」

 「環境省に疑義照会を出しましようか」

 「やめとけ。あそこは政治力も持っているし、本省なんかに頼ったって藪蛇になるだけだよ。都がいいって言ってる以上勝負にはならん。それより廃切符はどうだった」

 「入荷が十トン在庫が二トンで八トンがRDFに加工されてから出荷されたようです」

 「それじゃ産廃の処分として受注したんだな」

 「実験ということでマニフェストはありませんでした」

 「なるほど。売却先はどこだ?」

 「主な出荷先は北海道のオホーツク製紙と埼玉の荒川セメントですね」

 「ほんとに売ってるのか」

 「ええ売ってるみたいですよ。リストをもらいました」

 「あそこのRDFは塩素が多くて売れないはずだけどなあ。まあ売ってる証拠があるんならしょうがないな」

 「ただですね、廃切符だけを使ったRDFはないそうなんです。だからほんとに売ったかどうかわからないんです」

 「それじゃ作ったかどうかもわからんじゃないか」

 「まあそうですが量的には8トン処理したみたいです」

 「調査はこれまでか」

 「まだ古紙問屋ルートを確認していません」

 「その線はないな。古紙問屋が紙を不法投棄するなんてありえんよ。売れるものを捨てるか」

 「とりあえず一緒に出た雑誌の表紙を調べてみます」

 「そうか、その線があったな」

 「東関浄技社の調査も続けていいってことですね」

 「なんだおまえらしくもない。びびってんのか」

 「政治家がいつ出てくるのか楽しみだと思って」

 「表立ってバッチを使うようなアホじゃないよ」

 「なるほど、そうですね」伊刈は書類をしまって引き下がった。

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