好きな人がいるのに

あすか

第1話 変わり始めた”いつも”

私には好きな人がいる

好きだと伝えたい。だけどその言葉を発したが最後、今のこの関係は壊れてしまう

それだけは間違いなかった。

告白が成功するか失敗するか、そんなことは誰にも分からないはずなのに。

諦め癖がすっかりついてしまった私は今年もまた告白できずに

終わってしまうのだろう。

そんなことを考えていた昼下がり。


後1時間、頑張れば今日の授業も終わる。

長かった1日だった。

あの人の横顔を眺めているときだけは気持ちが楽になったけど、

ずっと見ていたらおかしく思われてしまうかもしれないし、

誰かが私の想いに気付いてしまうかもしれない。

他人に気付かれて、下世話を焼かれるのは嫌だった。

だからずっと見ていることはできず、ただ授業を受けるだけの退屈な日々を送る。

そんな毎日がこれからも続いていく。



2017年5月24日

この日、私を取り巻いていた“いつも”に変化が起きた。

朝のホームルーム、いつもと同じ朝のクラスメイトの喧騒、

朝礼のチャイムが鳴っているのにまだ騒いで着席しようとしない生徒数名。

いつもなら教師がドアを開けて入ってきて、着席していない生徒に渇を入れる。

そこから始まる朝礼。


だけど今日はいつもと一味違った。

いつもは入ってきて着席していなかったら、

聞こえる程度のため息を吐く涼宮先生がその行為をせずに、まず一言。

「今日は皆さんに転校生を紹介しますね」


そしてその言葉を聞いた途端、自分たちを転校生たちによく見せたいと

思ったのか、いつもは一回の喝ではまだ騒がしい生徒たちが一斉に席に座り、

行儀よく姿勢を伸ばしている。

なんて、ミーハーなんだろう。と思わずにはいられない行動だった。


そして涼宮先生はそれを確認すると、教室のドアを開き、

ドアの向こうにいるであろう転校生に「入っておいで」とまた一言、声をかけた。


転校生は二人いた。

ドアを潜り抜けた二人は先生にまず一礼、

そしてこちらを振り返るともう一礼して、

教壇の前へと進み出ていった。

なんとも礼儀正しい二人だろうか。そう思わずにはいられない所作だった。

涼宮先生さえも、驚いている。


先生は少しの間を開けると、チョークを転校生に渡した。

そして、そのチョークを貰った一人が黒板に自分の名前を書いていった。

書かれた名前は「御堂花楓」


花楓さんはこちらに目を合わせていった。そして・・・。

「御堂花楓って言います!!

みなさん、これからどうぞよろしくお願いしますね♪」

はっきりと快活に、そして笑顔で自己紹介をする彼女に、

教室内にいた男子は一斉に反応した。

「「こちらこそよろしく~!!!」」

男の声が同時にはもったため、結構な音量が教室中に響き渡った。

そのせいか、数人の女子は怪訝な顔をしながら、耳を塞いでいる。


そして花楓さんはもう一人の転校生にチョークを渡すと、書くように促していた。

だが、もう一人の方は花楓さんと正反対の性格なのか、少し呆れたような表情をした後、渋々といった表情で黒板に自身の名前を書いていった。

その名前は「御堂海斗」


そして海斗君は花楓さんと同様、こちらを見たが、それは一瞬のことだった。

「御堂海斗だ。よろしく」

続く自己紹介も淡泊というかあっさりしたもので、笑顔を見せることはなかった。


だが、その態度はかえって女子たちの心をくすぐったようで、

さっきとは逆に女子たちが「「キャァァァァァ!!」」と

耳を劈くほどの奇声を発してきた。

それを聞いた男子たちは先ほどの女子と同じようにほどほど呆れたような

表情を取り、自己紹介をした張本人である海斗君もあきれ返った顔をしている。


本当に、男子も女子もミーハーだなぁとつくづく思ってしまう。

まあ、私のように好きな人が決まっていれば、

こんな反応を返すこともないのだろうけど

そうでない男女にとってはこの転校生というのは一大事なのかもしれない・・・。

私には全然興味すらわかないのだけれど・・・・。

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好きな人がいるのに あすか @yuki0418yuki

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