第58話「新たな二人との出会い、仲間との再会」
「大丈夫だったかきゅ?」
そこに現れたのは、緑色の長い髪で目がぱっちりしている、歳は十五、六歳くらいの巫女姿で、背中に羽根が生えている少女だった。
「えと、今のってあんたがやったの?」
たけぞうがその少女に尋ねる。
「うん、そうだきゅ」
「凄まじい術者だな。それと、あなたが八幡大菩薩様が仰ってた?」
今度はお鈴が尋ねる。
「うん。ボクは竜神族の一人で、名前は
「皆さんはじめましてにゃ。僕は
その後ろにいた灰色の髪で、背がたけぞうと同じくらい高く、医師のような服を着ていて年齢より上に見える凛々しい少年、悠が名乗ったが
「あれ、どうかしましたかにゃ?」
悠は首を傾げながら尋ねる。
「ご、ごめん。あんたの雰囲気でその語尾が……くく」
たけぞう達は笑いを必死に堪えていた。
「あ、つい癖で。ちゃんとしますね」
悠は口元を押さえて言った。
「と、ところでお主も妖怪なのか?」
彦右衛門が呼吸を整えて尋ねると
「僕は人間ですが、幼い頃に猫から生まれ変わったのです」
「そういう事もあるのか。それとお主は腕が立つのか?」
「はい。拳法や柔術を少々嗜んでますが、それより妖術や医術で皆さんのお役に立てると思いますよ」
「なるほど。そういう者がいてくれると心強いな」
「では彦右衛門様、よろしくお願いします」
悠はそう言って深々と頭を下げた。
「おお、拙者が藩の家老だと知っているのだな。だが今は共に戦う仲間、そこまで畏まらんでもいいぞ」
「じゃあ失礼して、彦右衛門さんで」
「うむ。よろしくな」
「はい。では皆さんの手当をしますね」
「ふえっ!? あっという間に傷が治っちゃったよ!」
たけぞうは自分の体をさすりながら叫ぶ。
「あ、あの。この薬って、妖術で作ったのですか?」
傳右衛門が手にしていた丸薬を見せながら尋ねる。
どうやらそれを飲んで治ったようだ。
「それはいくつかの薬剤を調合した後、妖力を合わせたものです。妖力抜きでも傷の治りが早くなる効果がありますよ」
悠が笑みを浮かべて答えた。
「そんなのもあるんですね。あの、わたしにもその調合法教えてくれませんか?」
香菜がそう言うと、悠は何故か固まってしまった。
「あ、これってもしかして、秘伝とかで教えられないものだったのですか?」
香菜が慌ててすまなそうに言うと
「い、いえ。お教えしますよ」
(これがそうだったの?)
悠は何やら心の中で呟いた。
「求愛は雷を放つ以外に何か出来るのか?」
お鈴が尋ねる。
「きゅ~、後は悠のお手伝いだきゅ」
「なるほどな。ところで二人はどういう関係なのだ?」
「えっと、ボクは子供の頃、竜神王様から悠達家族の所に行くように言われたんだきゅ。皆は大切な使命があるから手助けして来いって。で、その使命はもうとっくに終わったけど、天界に戻るのも下界にいるのも自由だったから」
「悠の元にいる事を選んだのね」
お鈴が口元を緩め、女言葉に戻して言うと
「ううん、最初は悠の上のお兄ちゃんを好きになったきゅ。でもお嫁さんがいたから、さっさと諦めて悠にしたきゅ」
「あら、悠が聞いたら怒らないかな」
「もう知ってるきゅ。その時にお仕置きだとか言って接吻されまくったきゅ」
「あらら、彼って結構やるのね」
「下のお兄ちゃんの影響だきゅ。あの人ボクの着替え覗いたど助平だきゅ」
「……何故かしら、それ聞いて私の友を思い出したわ?」
お鈴は首を傾げた。
その後一行は、夕暮れ時に三郎の屋敷に着いた。
「ようこそいらっしゃいました。さ、皆待ってるわ」
三郎の妻となった阿国が玄関で出迎えた。
「久しぶりだね。って赤ん坊産んだばかりでしょ、体は大丈夫なの?」
たけぞうが心配そうに言うが
「ありがと。でももうひと月も経ってるし、大丈夫」
阿国はそう言って笑みを浮かべた。
そして、広間に通されるとそこには三郎と八幡大菩薩、そして
「あ、鼠之助! 志賀之助さんと一学さんも久しぶり!」
かつて共に戦った仲間達がいた。
「皆、久しぶりだチュー」
鼠之助がたけぞう達の前に来て挨拶する。
「あなたが鼠之助さんですね。主人がお世話になったそうで」
「いや、こっちがお世話になりましたチュー」
初対面の香菜と鼠之助が互いに頭を下げ
「鼠之助、久しぶりだな」
お鈴もどうやら鼠之助と会った事があるようだ。
「久しぶりだチュー。たけぞうさんと会えたんだチュー」
「ああ。そしてしばらくは共にいるつもりだ」
「よかったチュー。あれ、その子達は?」
「この子は私達の息子だ。そしてこちらは彦右衛門殿と香菜殿の子」
お鈴が少年達の方を向くと
「うわ、でっかい鼠だ!」
「もふもふしてる!」
少年達が鼠之助に駆け寄り、髭を引っ張ったり抱きついたりした。
「元気な子だチュー」
そう言いながら二人の頭を撫でていた。
「はは、鼠之助は人気者だね」
「そうでごんすな。おお、そちらがたけぞうの奥方か?」
志賀之助が座ったまま言う。
というより彼は背が八尺三寸あるので、立ったら天井をぶち破ってしまう。
「奥さんというか、まあそうだよ」
たけぞうは頬を掻き、照れながら言った。
「あなたが日下開山の明石志賀之助殿ですか。お会い出来て光栄です」
お鈴が志賀之助に挨拶し、自己紹介すると
「ワシも巌流佐々木小次郎と同じ名の剣豪の噂は聞いてるでごんす。まさかこんな美女だったとは思わんかったがな」
「ふふ、どうも」
奥方だの美女だのと言われて嬉しそうなお鈴だった。
「あ、でっかい!」
「うわああ!」
子供達が今度は志賀之助に駆け寄った。
「おお。どれ、よいしょっと」
志賀之助は二人を抱き上げ、自分の肩に乗せると
「うわあ! たかい!」
二人共大はしゃぎしていた。
「ガハハハ、ちっとも怖がらんなあ。こりゃ将来強うなるでごんすな」
志賀之助は豪快に笑いながら言い
「志賀之助さん、嬉しそうだねえ」
「ふふ、子供好きなのだな」
たけぞうとお鈴が微笑みながら言った。
「その人達が新たな仲間ですか。よろしくお願いします」
一学がキヌや悠達に頭を下げた後
「某も共に戦いたかったですが、聞いたとおりならどうしようもありませんね。その代わりと言ってはなんですが、お子達はしっかり守らせてもらいますよ」
顔を上げ、たけぞうに向かってそう言った。
「うん、お願いしますね」
その後、皆で夕食を取りながら話していた。
「先程八幡大菩薩様からお聞きしましたが、仲間はあと四人いるそうです」
三郎が皆を見渡しながら言い
「とりあえずはな。だがそのうち二人からはまだ返事が来ていない」
上座にいる八幡大菩薩が後に続いて言った。
「ありゃ。でも二人は確実なんでしょ?」
たけぞうがそう言うと
「ああ。その二人は明日にはここに着くはずだったが、どうも何やら難儀しているようだ。だから誰か手助けに行ってやって欲しいのだ」
「あ、だったらおれとお鈴さんで行ってきますよ」
たけぞうが手を上げて言うと
「ああ頼む。二人はここから東の方、すぐ近くまで来ているはずだ」
次の日の朝
「じゃあ行ってくるね。松之助、すぐ戻るからね」
「はい!」
松之助が元気良く返事をし
「たけぞうさん、松之助は私が面倒見ますよ」
藤次郎が松之助と手を繋いで言った。
「ははは、お願いね」
「では、行ってきます」
たけぞうとお鈴は東の方へ向かった。
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