罰跋×の後の話〜催眠の催眠〜


暗いのはなんでだろう、目を開ければいいのだろうか。ああ、そうだ。そうしていれば僕はあの瞬間、死ななかったかもな。


目を開ける。眩しい。目が開けられる。僕は、生きてるのか....?


 目を凝らす。そこには、不思議な色の空が目の前にあって、僕は草原の中で大の字で寝そべっていた。少し怠さを覚えながら身を起こす。なぜか辺りの様子が一望出来た。どうやらここは小高くなっているらしい。向こう側に青い山が連なって、手前ににじり寄ってくるような森の生命感は逆にわざとらしく見えた。森に隣接する形で点在する湖の周りで点々と動く人々がおり、その大多数は仕切りに湖を濁しながら掻き回し、何か探していた。

 僕の上に影が落ちる。不思議に思って見上げてみる。


「あ、」


 僕が声を漏らしたのは、大きな白い鯨が微妙な色彩を持つ空を遮るように回遊していたからだ。それは少し躰を捻り、ゆっくりと下界に下ろす目は僕の知らない名前の色だった。


「アレって神様?」


 後ろから声がかかった。白い髪のあいつが立って、鯨なんか一瞥もせず、僕を見ていた。その瞬間、僕はぞ、と腑が冷えた感覚がした。


「どうしてここに貴方が?」


 精一杯力んだ目つきで彼を見る。


「さあね、死んだからじゃない?」


 奴は悪びれもせず、目を伏せた。


 あの時。今、目の前にいるこいつ。こいつに僕は殺された。


こいつは...?


「冬雪たち....彼らは?」

「さあね。でも、×××に行くのは確かじゃない?」


進めたのか、あいつらは。


「そっか。」

「ここって、天国であってるよね?僕ら、死んだんだし。」


 あの時の恨みとばかりに僕はこいつに掴みかかろうと思ったが、死んでしまっているであろう僕らがここで争っても意味もないし、恨みも晴れない。というか、そもそも腕っ節では圧倒的にあちらに分がある。

 天国、か。確かに一番しっくりくる考え方であり、あの白鯨が何よりのそれらしさを語っている。が、僕にはこの場所に、この世界に、心当たりがあった。


「天国じゃない、のかも。」

「へぇ、どうしてそう思うの?」

「母が昔教えてくれたんだ。天国っていうのは、人間が生きている間にやり残したこと、叶えられなかった夢、諦めた未来、その全部が叶うところって。人間て未練がましい生き物だから。でも、願いや夢を忘れた人は湖の国に行くんだって。」

「ふぅん、そこだって言いたいの?」

「多分。」

「そこで彼らはどうするの?」

「えっ?」

「夢、願い、希望を忘れた罪人達はここでどうすればいいの?」

「.............多分、ああやって、未練を、自分の過去を、探し続けるんじゃないかな。」

「それがある意味のこの地獄での罰、ってことか。」


(非命の罪人達へ送る罰)

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