Ex-01 神術と亜人種
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文字数に若干余裕があるので、幕間の短編を投稿します。
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「ねえ、ディーネ。ちょっと解らない問題があるんだけど……」
帰還した私は早速シェリー姉様の宿題を手伝わされていた。どれどれ、と見てみればお題は『魔術と神術の違いについて』とある。魔術で出した炎と神術で出した炎はどう違うのか、という問題だ。ああ、この問題か。魔術と神術。この2つの違いは何か、というのは有名な未解決問題だ。もちろん私は答えを知っているので早々に回答を記したが、本来これはいわゆる『考えさせる』事を目的とした問題なのだ。私が解いたのでは何の意味もない。
「シェリー姉様。この問題に決まった答えは存在しないぞ。思いつくままに書けば問題ない。」
ヒント、ヒント、とそれでも訊いてくる姉様をなんとか宥める。そもそも、魔術と神術に本質的な違いはない。違いがあるとすれば過程だけだ。例えば『炎を出す』というプログラムがあるとする。魔術はこのプログラムに魔力を注いで『炎を出す』という現象を発生させるものだ。真名はこのプログラムを実行する権限。対して神術の行使は神々に『炎を出す』プログラムの実行をお願いする行為だ。プログラムを実行するのは神々なので術者に権限は必要ない。
ただし、神であってもプログラムを実行するためには魔力を注ぐ必要がある。そのため、術者は必要経費に手数料を上乗せしたコストを神々に払わなくてはならない。それが精神力と呼ばれているものだ。厳密には、脳の演算領域を神々の仕事を肩代わりするために使用するのだ。その仕事量に応じて神々が得る報酬の一部から術を発動するための魔力が支払われる。当然、純粋に魔力で発動するより割高になる。神々に払う報酬分と変換レートの分が余分にかかるからだ。
で、魔術と神術の違いの話に戻ると、魔術で出した炎と神術で出した炎は全く同じ炎だ。なにせ、実行するプログラムは同じものなのだから。これに対して、異術で出した炎は異なる可能性がある。なぜなら、異術に用いるプログラムは術者本人に内包されているからだ。実行可能なプログラムは世界に合わせたものに限られるため同じものである可能性も無いとは言えないが、似た効果の別物である場合が多い。ちなみに、異術のプログラムは術者の魂に刻まれている。そのため、1人が使える異術の数はどうしても限られてしまう。
まあ、これが真実なのではあるが、人が自ら気付くならまだしも私からあえてそれを喧伝する気はない。そういう理由もあって、先程の対応に繋がったというわけだ。『考えさせる』という問題の本質を考えても姉様が自分で答えを探すべきではあるしな。結局、姉様はかなり頭を捻って答えを出した。頑張った姉様にはご褒美をあげねばなるまい。
「そう言えば、亜人の人達が神術を使えるようになったって噂、知ってる?」
疲れた頭を癒すために甘味を頬張ったシェリー姉様がそう訊いてくる。当然、私はこの件を知っている。亜人、正式には亜人種と呼ぶが、彼らは名も無き月の女神に創られたと言われる人類型生物の総称だ。彼らは総じて名も無き月の女神を信仰しているが、神術の祈りに応えてくれないことから、その女神は存在しない神だとされていた。そのため、聖王国等では異教徒として迫害されているのが現状なのだ。我が王国では彼らの人権を認めており、当然交流もある。その点も聖王国がうちを目の敵にする理由ではあるのだが。
代表的なところでは
さて、その亜人種だが、実際に創ったのはレイア……最高神ルートレイアだ。ヒト種と交配可能な新たな人種としていくつかの加護を与えて創造したは良いが、最近の忙しさにかまけて放置状態だったのだ。当然、祈りに応えてやる余裕もなかった。だが、私が創った自動応答システムが状況を一変させた。『名も無き夜の女神』の件で私が自動応答システムに別名を設定した時、そう言えば、と思いだしたレイアが自動応答システムに『名も無き月の女神』や『月の女神』など、亜人種が祈りを捧げる際の呼び名を登録したのだ。
結果、亜人種も神術を使えるに至った。これに驚いたのが聖王国だ。今まで『同じ神の眷属ではない』としていた者たちが神術を行使し始めたのだ。神の眷属に加えるか、邪神の眷属として迫害を続けるかで議論が割れている。彼らには今まで苦労をかけたので、私としても最大限の配慮をしたいところだ。当然、神殿を通して擁護派を支援している。これには私の個人的な思惑もある。エミーの母親は魔族なのだ。亜人種の扱いが改善すれば、彼女の父親も名乗り出ることができるだろう。
「亜人の人達も早く神様の眷属として扱われるようになると良いね。」
「ああ、そうだな。」
獣化族に友人がいるシェリー姉様としても、彼らの待遇改善は身近な問題だ。シェリー姉様の友人はペンギンによく似た鳥類に変じる能力を持つ。獣化族はそれぞれ限定的な亜空間を保有しており、獣に変身した際に着ているものをそこに収納することができる。人間形態に戻る際には同じ様に亜空間から装備を取り出すことが可能だ。収納可能な重量は自分が持てるだけ。亜空間に収納すると重量を無視することができるようになるため、これを利用して運搬業を営んでいる者も多い。シェリー姉様の友人もこの手の
ちなみに、獣化族に似た存在に
もちろん、ファンタジーのお約束である
人間の世界で最も差別が激しいのが聖王国なので最優先で改善を行っているが、他の地域にも大なり小なり差別は存在する。中には生贄に捧げても構わない、なんて言う非道なものまであった。これらの改善も進めていかねばなるまい。これらはひとえにレイアが放置していた事による。彼女の責任は私の責任でもあるのだから、これも私が対処すべき内容の1つだろう。
『助かります。彼らには本当に悪いことをしました。』
レイアとしても彼らの待遇に心を痛めていたようなので、やっと手を付けられるようになった事を喜んでいた。エミーも自分の高い魔力が魔族由来のものだという事を知って、この問題への対処に積極的だ。未だに両親が誰なのか、という情報を閲覧する決心はついていない様だが、この件は彼女が足を踏み出す切っ掛けになるだろう。
『かーさま、最適化、終わりました!』
姉様と亜人種について語り合っていた所に、ルーエクスから念話が届く。ルーエクスはここのところ自動応答システムの最適化を行っていたのだ。ルーエクスも自動応答システムも広義のAIに分類されるが、私としてはこの2つには明確な違いがあると思っている。ルーエクスは正しく
AIとSRSの大きな違いは意思の有無だ。自動応答システムは膨大なデータを元に適切な対応を選択しているだけに過ぎない。バックグラウンドのデータが膨大なので神が直接対応している様に見えるだけで、そこに意思の介在はない。あくまで自動応答だ。対してルーエクスは人や神々と同じ様に考え、感じる事が出来る。一個の人格/神格として存在しているのだ。言ってしまえば神造思念生命体。それがルーエクスだ。ちなみに自動応答システムはただの機械なのでその業務に何ら配慮をする必要はないが、ルーエクスは違う。神としての権利も保証されるし、休暇も取得することが可能だ。
『あのー、私に休暇は……?』
休暇の話が出たのでレイアがおずおずと休暇の取得を主張する。しかし、残念なことに彼女に休暇を取る余裕はない。ただでさえ作業が山盛りなのだ。自動応答システム等による自動化が進めばその余裕も出るだろうが、今すぐにとはいかないのだ。結局、残念なことにレイアが眠れる日は未だ遠いのだった。
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外伝、はじめました。
『生贄少女の冒険譚』、よろしくおねがいします。
なお、本編の再開は9/1、更新頻度を落として週一更新で再開の予定です。
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