花咲く森のみち

カゲトモ

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「えっと、そこにいるのは熊谷さん、ですか?」

 時計の針が真上を指したのはもう一時間以上も前のこと。周りの店の照明も落ちて薄暗い道に大柄な影が一つ。一瞬たじろいだけど、それが知っている人だと分かって少しだけ安心した。まだドキドキ言っているけれど。

「どうしたんですか、こんな時間に」

 声を掛けると大柄な影は遠慮がちにすくめていた首を伸ばした。

「すみません、夜遅くに」

「いいえ。飲みに来て下さったんですか?」

 こんな時間に、だけど。

「いや、そういう訳じゃないんですけれど」

 熊みたいな身体をしているのに、熊谷さんはとても小さな声で答える。続きを言いにくそうにしながら身体を小さく揺らした。

「良かったらどうぞ。もう誰も居ないので」

「あ、でももうクローズの時間です、よね」

「いいんですよ。明日は休みですから。ちょっと飲んで帰ろうと思っていたので、良かったらご一緒してください」

 それに、何か話したくてここに来たんだろうし。熊谷さんのカフェとは営業時間も被っているから、こうやって話すのは久しぶりだ。

「あ、でも熊谷さんは明日もお仕事ですよね?」

「それは、大丈夫です。あの、本当にいいんですか?」

 相変わらず見かけ倒しの腰の低さだ。

「もちろんです。どうぞ入って。そう言えば熊谷さんって飲める人でしたっけ?」

 商店街の会議なんかではいつもお茶だし、ここに熊谷さんが来るのも初めてだし、カフェではお酒は出していないみたいだし。見た目的には凄いザルっぽいけど。

「あ、僕は全然だめで」

 うーん、予想通り。

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