ボクのお嫁さん

アヤサキ

第一話「七夕の夜、物語は動き出す。」

 桜舞い散る、春の校庭。

 ボクは校庭で一番大きな桜の木の下で、一人の女の子と向き合っている。

 その女の子はカワイイ正装を身にまとった女の子、天川美月だ。正装。そう。今日は小学校の卒業式の日なのだ。

 ボクは小学校の入学式で美月ちゃんに一目惚れしたが、話しかけることが一度もできていなかった。だが、卒業式の日は誰もがテンションが上がっていて告白は絶対に失敗しないという噂を聞き、美月ちゃんを呼び出した。


 「話って、何?」

 美月ちゃんは首をかしげる。

 カワイイ。

 「だ、大事な話があって呼んだんだ。」

 ボクは呼吸を整える。

 覚悟を決めた。思いを、伝えよう。


 「ボクは……」





 「君と結婚したいんだ!」





 ……訪れる静寂。

 それでも桜は舞い散り続ける。


 


 あ、間違えた。




 美月ちゃんはいきなりのプロポーズ(手違い)に呆然とする。

 ああ、これもう完全に失敗したな。

 フラれる以前に失敗したな。これもう。

 そんなことを思い、心の中で泣いていたら、

 美月ちゃんがクスッと笑った。

 えっ!?俺バカにされてる!?これはバカにされても仕方ないけど……

 ボクは心の中でさらに泣く。


 「いいよ。結婚しても。」


 えっ!?いいのかよ!!


 「ほ、ほんとに!?」


 「でも、一つだけ条件があるわ。」

 そう言いながら美月ちゃんは顔をまっすぐこちらへ向けて、美月ちゃんは条件を言った。



「私を一生幸せにしてくれること。できる?」



 ボクは迷わず返事を返した。


 

「うん!君を一生幸せにするよ!」




 そう答えた瞬間、全身に電撃が走った!ボクはその場で地面に倒れた。

 何が起きたんだ?

 意識が薄れていく中で顔を上げ、辺りを見渡す。


 さっきまで美月ちゃんがいたところには誰もいなかった。

 校舎も校庭も、一面火の海と化していた。

 まるで戦時中のように。


 ああ。ボクのすぐそばまで炎が近づいて来ている。

 ボクは、死ぬのか?美月ちゃんの返事も聞けずに。この状況から脱することも出来ずに。


 そんなの、いやだ!

 ボクは体の痛みに耐えつつ立ち上がる。

 ボクは美月ちゃんを探しに校門を飛び出した。

 「くそっ!」

 学校の外も辺り一面火の海。

 「何が起きてるんだよっ!」


 ボクは走る。

 好きな人のために。


 「大通りなら人がいるかも…!」

 ボクは大通りへと向かった。

 しかし、そこにも人は一人いなかった。

 「ぐはっ!」

 さっきくらった電撃の痛みが体に残ってる……!

 もう……動けない。

 ボクは地面に横たわる。


 あ、やばい。空から建物の瓦礫が落ちてきてる。


 「もう……だめ……だ……!!」


 瓦礫が頭部にダイレクトに当たった。

 視界は真っ暗になる。


 ボクの記憶はここで終わった。





 目が覚めると、ボクは自宅のベッドの上で寝ていた。

 「あ……れ……?」


 「死んで……ない…?」

 ボクは生きていた。ケガも、体の痛みも外傷も無く。

 こんな時、よくアニメや漫画では時間が凄く進んでたりするんだよなぁと思って、壁にかかっているカレンダー機能付きのデジタル時計を見てみたが、目が覚める前とまったく同じ、卒業式の日だった。

 「ってことは……あれは本当に夢だったのか?」

 そんなことを考えていたら、大事なことを思い出した。

 「ボク……!美月ちゃんに告白したじゃん……!!」

 正確にはプロポーズになったけど。

 「あれが夢だったってことは……ボクはもう美月ちゃんと付き合えないってこと!?」

 正確には結婚だな。言い間違えたから。

 「う……そだろ?」


               ♦


 「ああ、もう春休みも終わりか。」

 今年の春休みほど辛いものはなかった。長期休みになると、いつも一緒に遊んでいた男友達とも遊ぶ気になれず、ずっと家に閉じこもっていた。

 「ボクは何をやってるんだ。一度フられただけじゃないか。くよくよしてちゃだめだ!」

 という具合に自分に無理やり言い聞かせ、もしかしたら明日の中学校に美月ちゃんがいるかもしれないという微かな希望を持ちながらベッドにもぐり、眠りについた。



               ♦



 中学校の入学式の日。

 中学校の校庭には、ほぼ花びらが散ってしまった桜の木が並んでいる。

 入学式とか、桜の木とかはもうどうでもよかった。

 入学式が終わった後、全く知らない校舎をボクは駆け巡った。美月ちゃんもう一度会う、ただそのためだけに。校庭、教室、体育館、理科室……。あらゆる教室を巡った。


 「いないなぁ……。」

 どこを探しても美月ちゃんはいなかった。

 「もしかしたら、もう帰ってるだけかもしれないな……。」

 「職員室で聞いてみるか。危ない奴だと思われるかもしれないけども。」


 「えー。あ・ま・か・わ……と。」

 担任の先生に名簿から探してもらう。ちなみにこの学校は完全デジタル化されてるらしく、授業はタブレットなんかで行うらしい。

 「先生、どうですか。いますかね。」

 「うーん。あまかわって生徒はいないっぽいな。」

 先生は生徒検索ソフトの画面に表示された、0件の文字を指さす。

 「そ、そうですか……。すみませんでした。お手数をお掛けして。」

 「ああ。」


                ♦ 



 美月ちゃん、中学受験をしたのかなぁ。頭よかったし。ボクと違って。

 「もう、本当に会えないのか。」

 会ったとしても、ボクのことなんかはきっと覚えていないだろう。ボクには何も魅力的な部分が無いし。あの卒業式の日のことも、きれいさっぱり忘れているだろう。


 これで、いいのだ。


 ボクも美月ちゃんのことはもう忘れよう。



                 ♦



 月日は流れ、ボクは23歳になった。

 中学校にはしっかり登校し、小中学校9年間の義務教育を終え、高校は中堅的なところに通い、大学は高校時代にしっかり勉強したこともあって、国立大学に入学することができた。

 そして先日、大学も卒業し、ボクはインターネットショッピングサービスを運営する大手企業「Amezon」に入社した。

 天川美月のことは……。忘れられなかった。10年前に忘れると誓ったのに。



 七月七日、午後七時。会社からの帰り道。

 空一面に天の川が光り輝いている。ターミナル駅への道の周りはビルやタワーマンションの光に包まれている。

 「カフェにでも寄っていこうかな……。」

 そんなことをつぶやきながら、たまたま目に入ったカフェに入ろうとした。


 しかしその時、奇跡が起きた。


 「天川美月……!」


 ターミナル駅へ向かっている天川美月がいたのだ。


 ボクは走り出した。あの卒業式の日のように。


 忘れられているかもしれない。


 それでもいい。


 とにかく、会いたい。


 その気持ちだけで走る。


 「天川!」

 「!」

 天川美月は足を止めた。そして、振り向かないまま声をだした。

 「星野誠、君……?」

 天川美月はこちらに体の向きを変えた。

 ボクは、小学校の卒業式からずっと止まっていた思いを伝える。


 「ボクは、君が好きです!」


 「結婚してくれませんか!」


 ボクの思いを聞いた天川美月は笑顔を見せた。


 「ずっと、待っていたよ。あの日の告白だって……忘れてない。」

 天川美月は、ボクのことを覚えていてくれた……!そして、あの日夢の中で聞いたセリフを言った。


 「私を、一生幸せにしてくれる?」


 ボクは迷うことなく、あの時のように返事をする。


 「うん!君を一生幸せにする。誓うよ。」



 天の川輝く七夕の日。

 ボクは織姫と出会い、永遠の愛を誓った。



 織姫と彦星。

 ボクらの七夕の物語はこの夜から始まった。

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