3 お社へ

 翔真達は、彩音の思惑どおり、山に登る階段と立て看板に目を向けた。

「これ、マップには説明ないけど、上に行く道だよな?」

「たぶん。『お社→』って矢印の向きからしたら、このまま山のてっぺんまで続いてるんだよね……」


「お社、か。お社と朝凪館の間は道があるんだろ、確か」

「うん。……どう思う、翔真? このままぐるっと海沿いを回っていくか、この山登りで、お社を突っ切って朝凪館に向かうか」


「短く見えても、山の登り下りがあったら、実際は外周と同じぐらい時間がかかるかもなあ」


「でも、マップデータで詳細情報が出てこない道でしょう? だから、マスターを出し抜けるかもしれない。それに、山のてっぺんのお社を通るんだよね。なんかそういうところって、ちょっと興味あるかも。ゲーム抜きに、個人的な興味かな。パワースポット的な」

「う~ん」


「ね。行ってみよっか、翔真。普通にやってても行き詰ってるんだから。ちょっと、マスターのウラをかくようなことをやってみようよ」

「優菜が言うなら、俺は従うけどさ。でも、けっこう階段きつそうだよ。優菜は大丈夫?」

「しっつれいな。翔真に心配されるほどあたしゃあババアじゃあねぇだあよ?」

「ババアの言い方じゃねーか」

「あはは」


 優菜と翔真は笑い合ってから目を交わし、階段を登り始めた。

 翔真が先に立ち、木組みの粗い階段をぐんぐん進む。

「でも、楽じゃないなこれ……」


 優菜の視界には、つづら折れで勾配を緩和しながら、上へ上へと曲がって登っていく階段。

 そして、ひょいひょいと勢いよくそこを登っていく翔真が見える。


「そりゃあ……はぁはぁ、低いって言ったって、山だもの」

 優菜は翔真より遅れ気味だ。


「まあ、きついけど……意外と、登っていけるぞ。俺が、歩きやすいルートで行くから、優菜は俺の歩いたところを辿ってくるんだよ? そしたらちょっとは楽だ」

「ありがと。頂上のお社まで、ちゃんと続いているといいけどね……」


 いっぽう、階段を一歩ずつ登る二人を視界の隅にとらえたまま、彩音は潮見と連れ立って朝凪館に移動した。

 ラビット=潮見も、あの二人の行動そのものは把握しているだろう。


 ただ、彩音には、その注意を逸らすことは出来る。二人が目的地に到着しやすくしてやることも。そして、彩音の意図を隠すことも。


 朝凪館に戻りながら、彩音は翔真達の行く手に階段を表示し続けた。


 途中からは、ちょうど山の反対側、朝凪館から頂上に登る参道の階段データを、左右反転させて貼り付けるバッチ作業を組むだけで自動化した。


 階段の接続地点は、おそらくデータのギャップが生じて、裂け目か段差がある奇妙な空間になっているだろうが。

 優菜が彩音の意図を正しく汲み取っていて、翔真が持ち前の身体能力を発揮して優菜に手を貸してやれば、どうということなく乗り越えるだろう。


 そうして自分の手は空け、潮見との会話を続けて注意を自分に向けさせる。

 朝凪館に戻る頃には、翔真達は中腹を過ぎていた。もう少し。


 彩音は、作り出した道を消したりなどしなかった。

 翔真達は順調にその道を辿っている。


 潮見にそれを指摘されたら、また別の時間稼ぎが必要なところだったが。

 矢継ぎ早に、潮見に話しかける。

「そういえば、朝凪館のチェックポイントは、どこにあるんですか?」

「例のインターフェイスの、つまりカプセルと同じ場所ですよ」


「……それは、敵の本拠地に飛び込むわけですから、あの子達の言葉を借りるまでもなく、無理ゲーですね。だいたい、そこまでアナログな侵入を許してしまっては、もう、ラビットは丸裸同然……」

「だからこそ、鉄壁のアナログセキュリティが敷かれているわけです。それに、あくまで朝凪館にあるのはインターフェイス部分だけですからね」


「そのことなんですが、潮見さん」

「はい」

「ラビットの本体、つまり、河童ですか。それは、お社の中にあるんですか」


「いえ。お社の手前に、大きな岩と、水源の小さな池があります。そこが河童の棲まう池なんですよ」

「河童が棲まう池……」


 お山の頂上に、河童の池?

 彩音は首を傾げた。

 ますます分からなくなってきたが、それも、もう少しの辛抱だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る