ビートルズ版・フラレ弁慶

シロヒダ・ケイ

第1話

ビートルズ版・フラレ弁慶

作      シロヒダ・ケイ

またの名を  ケチョン・イマイチ


読者・初期ビートルズエイジ限定

 本編は楽曲を想起しながら読み進める、いわば読者参加型・準ミュージカル風小説であります・・。では開演

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 アイソーハースタンディングゼア。


イエスタディ。合コンに参加した僕は、扉を開けた瞬間、一人のガールに目を奪われてしまった。ビニョーーーーーーーーン。アイフィールファイン。

このヒトだ。ようやく現われてくれた。千人目のフラれる女性は・・。とびきりの美人を夢見ていた・・まさに彼女がそうだ・・。僕のシナリオにピッタリ。


何時の頃からか、インマイライフ。僕の目標は千人の女性にフラレる事だった・・。

スポーツもダメ、勉強もダメ。特技もなければ、お喋りも得意ではない。芸能ニュースにも興味なく、哲学などの読書に耽るぐらい・・これでは女性にモオテないのは当然。

一回くらい女性と付き合わねば、まっとうなニンゲンにはならない・・とは思うので・・と声を掛け始めたのが中学生。最初の一人はアンナだった・・。

だが、何を話して良いかも判らず。相手からは、ジロジロと変人を見る目で一瞥されるか、恐いものを見たように、その場から立ち去られるだけ・・。

そんな事が五十人ばかり続いたら・・さすがに自分に人間的欠陥があるのが見えてくる。それなら、いっそフラレの記録を樹立しようと、ひたすらフラレる為にのみ、声を掛ける毎日・・。日記に記録したフラレ体験は、ついに九百九十九度目を達成した。

最後の千人目はとびきりの美人にしよう。それが出来れば我が人生に悔いなし・・そんな決意をしたのだった。しかし、千人目にふさわしい女性を見い出すのは・・困難を極めた。ここ数か月は、声を掛けずじまいで合コン会場を後にしている・・。


いよいよ。はやる気持ちを抑えながら・・シナリオ美人にアタック・・。

「僕と付き合っていただけませんか?」

「貴男が?わたくしと?」

いよいよ目標達成・・と高揚感に包まれた。プリーズプリーズミー・・さあ、フッテ・・下さい・・。


そんな僕の高揚感を感じたのか、はぐらかすように・・彼女は意外な言葉を返した。

「いいわよ。」ハニードント。いけないよ、その気もないのに・・

「ただし、私と付き合う前に、付き合って欲しいヒトがいるの。その条件を呑んでくれればね。」

エッ。アナザーガール?

彼女は僕の上着の裾を引っ張り、合コン会場の末席に座る車イスの女性を示した。

「あの娘なの。私の親友。」

不審がる僕にドウユーウォントノウアシークレット・・と口を開いた。

彼女の話では、その娘は余命幾ばくも無いとの宣告を受けているという。バスケに熱中するスポーツウーマンだったのが、突然難病を発症し、身体障害を患う事に・・。治療方法はあるが手術代が高く・・病状が進行・・医者もサジを投げている。その娘の心残りは、スポーツ一筋できただけに、男性と付き合った経験が無いというものだったのだ。

友達の望みを叶えさせたい・・との申し出である。

ナルホド。それで僕との付き合いを条件付きで承諾したのだナ。それなら、あの娘と付き合った後に彼女と付き合い・・でもスグにフラレて・・目標達成となる訳だ・・。アッと言う間にフラレるのもいいが、ドラマ仕立てで最後にフラレるのは・・もっと盛り上がるに違いない・・。


「わかりました。引き受けましょう。」

名前を聞いた。千人目になる予定の彼女はのっぽのサリー。モデルのようにスラリとした長身美人だ。あの娘はミッシェルという・・。


だが待てよ。あの娘にアプローチして、フラレたらどうなる?千人目はあの車イスの娘になるではないか・・。

だが待てよ。フラレなければ好いのだ。フラレを回避して付き合いを続ければあの娘の余命は・・短いのだから・・でもフラレないなんて事態を維持するなんて・・この僕に出来るのだろうか?

まあ、しかし。もう引き受けると言ってしまったのだ。男に二言なし。


「やあ、ミッシェル。」

「あら、先程サリーと話しておられた方ね。」

「ウン。君の事を知りたくてね。彼女に君の名前を訊ねていたんだ。」

「まあ。ホントかしら・・?ナゼ私に興味を持ったの?」

「なぜかオーラを感じたのさ。そして・・近くで見るとヤッパリさ・・黒い瞳がステキだね。」

「あら、気持ちの良いお世辞を有難う。お座りになって・・。」

オッ。自分にしては良い滑り出しだぞ。この調子でいけば、直ぐにフラレる事は避けられそうだ・・。自分から話をするとボロが出るので、この娘の話を聞く事に専念すれば、なんとかなるだろう・・。


それからは献身的にデートを重ねた。ドライブマイカーで緑の丘をアイフォローザサン。ランチはノルウエイの森から伐り出された、木目の美しいレストラン。ナイトビフォーは浜辺でお散歩、ミスタームーンライトを渚の波音と共に見上げた。お次の週はチケットツゥライド。電車でゼアズアプレイス・テーマパークを散策した。等々・・。

ミッシェルもまたエブリーリトルシング。どんなささいな事でも笑ってくれ、僕を気遣ってくれた・・。

会えない時は手紙のやり取り。プリーズミスターポストマンが来るのが待ち遠しい・・。おう、この分ではフラレる事無く彼女の余命が尽き、その後は首尾良く・・サリーとのイベントが行われるハズなのだ・・。


しかし、しかしである。

逢瀬の度に気持ちが変わって行くのを感じる・・。

アクトナチュラリー。自然な振舞が出来なくなっている。会話もどことなく途切れがちに・・軽いノリでいられなくなっていた・・。

これは予定になかった感情だ・・。

イフアイニーディッドサムワン・・大事なヒトは・・ミッシェルなのだ・・と気付かされる。

彼女が難病でこの世から居なくなるなんて考えられない・・。僕が泣く・・だ。

それなのにお前は何をしている・・。ユウアゴーイングツゥルーズザットガール・・。このまま何もせず、お別れで良いのか?

そうだ、ミッシェルの為に、出来る事はやらねば・・。手術を受けさせよう。その為の資金を稼がなきゃ・・。キャントバイミーラブだが命は買えるのかも知れないのだ。今日の誓い・・。

そう、ユーブゴッタハイドユアラブアワエイ。僕は恋しているのが、丸見えになってしまっていたのだ・・。


それから僕は、マネー稼ぎに徹した。ホントはエイトディズアウイークで会いたいのだが・・。毎晩ア・ハードディズナイトで犬の様に働きまくった・・。が、まだ、まだ足りない・・。

ヘルプ!

実家の親や祖父母に頼んでカネを作った・・。


これで何とか彼女に手術を受けさせる事が出来る・・。

ところが・・。そう思ってミッシェルに連絡を取ろうとするが・・ノーリプライ。返信がない・・。連絡が途絶えたのだ。ホワットゴーズオン君の心に何が起きたの?ホワットユーアードゥーイング。僕をどうするつもりだ?

ティルゼアワズユー・・君に会うまでは、会って話を聞くまでは・・。

ストーカーの様に彼女を追い廻すが、手ひどく拒否される毎日・・。


何故そうなるのか・・自分が何処にいるのか、何をしているのか判らない・・。僕はノウウエァマン。そしてアイムアルーザー。

焦燥感と絶望が交互に襲ってくる。ユウウォントシーミー。もはや、君の瞳に僕は映らないのか?

だから音楽を聞いて心を落ち着かせようとしたが・・クラッシック音楽に流れたのはベートーベンの「運命」

こんなのが運命であってたまるか!

ロールオーバーベートーベン。ロックアンドロックミュージックだ。ツイストアンドシャウトしてみるが、これでは何の解決にもならない・・。


心が破裂しそうだ。アイニーズユー。

アイルビーバック。

僕は差し違える覚悟で彼女のもとを訪れた・・。降りしきる雨の中、犯罪者のように屋根をつたい、二階の窓ガラスをノックしたのだ・・。こんなことさせるなんてベイビーイッツユー。

髪は濡れまくって、まるで極悪人かゾンビのよう。顔も雨と涙が混ざり合ってグチャグチャだろう・・。

窓ガラスに頬をくっつけた。イットウォントビーロング・・もう少しで会えるのか?

そして、部屋を窺う・・。

ついに彼女を見た。喪服のような黒い服。ベイビーインブラック・・。


彼女もこちらに気付いた。ガラス窓を開け、しかし、これまでに聞いた事のないノノシリのコトバを浴びせかけた。そして叫んだ。ドントバザーミー「ほっといてよ。私と一緒にいたって、何も良い事はないわ。」


「僕はフラレたのかい。」何でこんなコトバを吐いたのだろう・・。

「そうよ。フッたのよ。・・フッたわ・・。」

「だったら・・君は僕をフッた千人目の女性だ。」

「なによ、それ・・。」

「僕はフラレ弁慶なんだ。・・そして弁慶は千人目のヒトを一生涯・・死んでも仁王立ちで守る宿命にある・・。」涙か鼻水か・・が口をつたう・・。

「だから、これだけは受け取って・・。手術を受けて生きてくれよ・・。」と手術代の入った包みを渡した。フロムミーツーユー。

「なによ、これ・・・。」

二人、見つめ合った・・・。


彼女はわかってくれたようだ。部屋に招き入れ、車イスながら、ずぶ濡れの僕をタオルでふいてくれた。かいがいしく・・。

「あなたが忙しくして・・私と会うのを避けていたから・・。私は怖かったの。」

「それは・・そのお金を稼ぐのに・・」

「デートの時、デートを重ねるほど、言葉も少なく、ぎこちなくなっていたわ・・。」

「アスクミーホワイ。僕は哲学を専攻しているのだよ・・。」

カントは言っている・・真面目に恋をする男は、恋人の前で困惑したり、拙劣になったり、愛嬌も示せなくなるものだと・・。


「もう何も言わなくていいわ・・。」

彼女はそのピンクの唇を近づけて来た・・。

シーラブズユー yeah yeah yeah。もひとつ、おまけにジーリプトディッヒ(ドイツ語版)。

これで恋する二人になれたようだ・・これぞテイストオブハニー・・。アンドアイラブハー・・。

オーマイラビング・・そして、抱きしめたい・・ラブミードゥ。イッツオンリーラブ・・。アイウォナビーユアマン。

                             幕

P・S・アイラブユー


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ビートルズ版・フラレ弁慶 シロヒダ・ケイ @shirohidakei

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