レモンピール

カゲトモ

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「誰かを本気で愛したことってありますか」

 半分ほどになったグラスの中身を氷で掻きませながらスワさんは訊いた。

「さぁ、どうだったでしょう」

「マスターくらいになったらそんな恋の一つや二つ、経験済みでしょう?」

 何を根拠にそんなこと言うんだい。バーのマスターだからって経験値高い訳じゃないのよ。

「スワさんはどうです?」

「あ、話を逸らしましたね」

 俺の話なんて聞いても楽しくないって。それよりもそんな質問をしたスワさんの話を聞きたいな。

「僕は、ありません」

「おや、それは意外ですね。スワさんほどイケメンならそれこそそんな恋の一つや二つ、経験済みでは?」

 長身の爽やかなイケメン。ちょっと切れ長な瞳が少し冷たく見えるのに、笑うと目を細めるのがとても可愛らしい。営業職をしていることもあって腰も低いしトークも軽快だし。いつも背筋を伸ばしていて身のこなしも軽やかだし、むしろモテない方が不思議なくらいな人だ。

「まぁ、それなりに恋愛はして来たんですけれど」

 でしょうね。

「どれも燃えきらない、といいますか」

「燃えきらない?」

「みんな向こうから告白して来てくれたし」

 ・・・ほーん。今サラッと言ったけど、ほーん。そう、そんな漫画のキャラみたいな人居るんだ? ほーん、さすがイケメンは違うわ。

「告白されたら一応付き合ってはみるんですけど」

「一応は、ですか」

「だって勇気を出して告白して来てれくれたのに無下にするのも心苦しいと言いますか」

「けれどそれが一番彼女たちを傷つけていたりするんじゃないですか?」

 気持ちがないのに同情だけで付き合ってくれるなんて、虚しいだけじゃないか。

「そう、なんですよね。結局、逆に酷く傷つけているんだって気づいてからは、告白された時点で断る様にしているんです」

 眉根を寄せて切なそうに続けるスワさん。きっとそれで彼自身も傷ついて来たのだろう。すれ違う心と、彼女をさらに傷つけてしまったと言う二重に苦しみを味わったんじゃないだろうか。

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