第84話 異世界工務店

「くそ!いったい、出口はどこなんだ?」


ミモザ・アースことセノキ・イルザは、迷路のような街路をさ迷っていた。


領事館に突入して、王を追い詰めた・・・。ところまでは覚えているが、そこで気を失い、気がつくと見知らぬ路地裏に倒れこんでいた。


あれだけ大勢いた傭兵どもの姿も見えず、町は静まり返っている。

まるで迷路のような街路には戸惑う。


彷徨ううちに、路地の向こうに大きな空間が見えた。


「よし!広場に出れば、方向がわかる!」


広場は真っ暗だった。

普段であれば、周りを囲む店舗や、各ギルド傘下の事務所の魔法灯の明かりで、明るいはずなのに。

我々の攻撃のせいで、みな、どこかへ行ってしまったのだろう。とは考え、城門の方向を確認しようとする・・・。


城門の方向への道を見つけ、そこへ視線を合わせたとたん、とんでもない光量の光がきらめき、彼の目を焼いた。


「!!!?」


訳がわからぬまま七転八倒しながら、歩き回る。


しばらくして、視力が回復した彼の廻りには、いつの間にか、汗にきらめく筋肉をまとった男達が上半身裸で、無言で彼を取り囲んでいる。


それぞれが覆面マスクをしており、円陣の端にいる、ひときわ存在感を放つ3人の覆面マスクの意匠は不気味この上ない。


すると筋肉の円陣の一部が別れ、数人の女が乗った筋骨隆々な男達に担がれた輿みこしがゆっくりと現れた。


女達は背の高いもの、低い者、体型は様々だが、みな体のラインを強調するようなピッタリとした、赤や朱色の衣装を身に纏っている。

女達も覆面マスクをしており、輿の上から無言で彼を見つめている。

その異形さに、彼は不気味さと恐怖を覚える。

その異様さに戸惑っていると、輿みこしに乗っている一番背の高い女が口を開いた。


「ようこそ。カンセツワザの宴へ・・・。」


黒をベースとしたマスクに、ピンクと白の羽をつけた女は、くぐもったような低い声で、なにかを宣言する。


「お、お前達はなんだ!そうか!マイナミ商会と王宮の連中だな!」


「マイナミ商会とはなんですか・・・?わたしたちはうたげを主宰する、<デ・カンセツワザダイスキ・ノカイ>の者です。わたしは〈パート2〉主宰の・インリン・ジョイトイ・・・。」



◇◇◇


襲撃されたことで、若干の破損があった領事館だが、数日で補修工事も終わり、改めて引き渡しの日を迎えていた。


執務室にしつらえられた重厚なテーブルに、いすみと田尾、華江。

向かいに、六代と桜井をはじめとした、日本国関係者が向き合って座っている。


「日本国総理大臣、六代かなめ様。」


いすみは改めて六代に対峙し、A4サイズほどの封印された封筒を取り出す。


「これは、この建物のメインキーです。私達が使っていた〈工事鍵〉は、このメインキーを使った時点で、使用できなくなりますので、工事関係者がこの建物に無断で立ち入ることはできなくなります。本鍵を私どもが使っていなかったことの証明として、封印の状態を確認してください。」


六代は封筒のなかのビニールコーティングで封印された、鍵が入った袋を取り出し、その袋を破り、中身を確認する。


「はい。封印と鍵を確認しました。」


六代の確認の言を聞いたいすみは、今度は1枚の紙面を取り出す。


「お引き渡しの確認書になります。ご確認と署名をお願いします。」


書面を受け取った六代は書面に目を通す。


書面には、いくつかのが発生した場合の対応と、〈トランテスタ王国日本国領事館の引き渡しを確認しました。〉との文言が書かれている。


書面の内容を確認した六代は、桜井からペンを受け取り、署名をする。


〈日本国総理大臣 六代かなめ〉


署名を終えた六代はいすみに書面を返す。


「これで、この領事館のお引き渡しは完了しました。が、日本国からご依頼をいただきました業務はすべて完了です。」


六代といすみはテーブルごしに握手を交わす。


「この度は舞波工務店にご依頼いただき、ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします。」


舞波工務店が請け負った〈異世界建築〉のすべての業務は完了した。


◇◇◇


「やっぱり、レ・ブン商会の後ろには、〈某国〉がいたんだな。」


田尾が津路木をにらみつけつつ、言う。


「そうですね。レ・ブン商会のサミサ・ブンも商会員も、王都からは姿を消しましたが〈某国〉とやらの息がかかっている連中は、王都に残っている者もいるみたいですから、注意する必要がありますね。」


アウグストが〈宴〉で〈彼〉から聞き出した情報を田尾に伝える。


「いやあ、それにしても、メテオスとあかりさんのツームストンダブルジャーマンスープレックスは凄かったっすね!」


長谷部の称賛に、


「そりゃね、アンタと付き合ってるうちにいろいろ覚えちゃったしね。」


とメテオス。


「いやいや、怜奈ちゃんの脇固めもなかなかだったよね。どこで覚えたの?あんな技?」


あかりが怜奈の奮戦を称賛する。


「あたし、。それに、王女さまの際どい着こなしのと、〈このオンナの敵めアタック!〉が可愛かったんで、はりきっちゃいました!」


怜奈の視線を注がれたアウレータは、両腕で胸を隠しつつ、


「あ、あたしも、あいつにくらわしてやりたかったのよ!でも、が、あんなにユルユルになるとは思わなかったのよ!」


アウレータは自分のを考慮せず、あかりのを着てしまったため、胸や下半身にスキマが空きすぎてしまい、はからずも、怜奈の目を楽しませる結果になってしまった。


「はあ、あたしもいつかはアカリみたいな体型になれるかしら・・・・。」


をさすりながら、アウレータはため息をつく。


「・・・そういえば、レイナ。って言ってたよね?その・・・?大丈夫だったのかい?」


女だと思っていた怜奈の相手が、男だったということで、いろいろな心配がうかんだ、ペペが保護者として、怜奈に問いかける。


「大丈夫です。、おっぱい揉まれただけですから。あ、ちょっと、アソコもさわられましたけど・・・。」


ぺぺの言葉に、羞恥と屈辱感が、怜奈に改めて沸き上がってくる。


「くそおお!男におっぱい揉まれて感じてたなんて!なんたる不覚!やっぱりあいつ、絶対許しません!」


「あ、あのね、ぺぺさん、怜奈ちゃん。王女の前なんだから、もう少し控えめに・・・ね。」


二人のなまなましい会話に、真っ赤な顔になってしまったアウレータを見て、あかりが2人に忠告する。


「まあ、いろいろあったようだが、皆無事でよかった。」


そういう〈勇者ロラン〉は、全身包帯まみれでレグリンに背負われている。


「驚きましたよ。連中を追撃していったら、魔獣の死体の群れのなかで、ロランさん、倒れてたんですから。」


魔獣の猛攻を一昼夜に渡って防ぎ続けたロランによって王都は守られたと言ってもよく、「勇者ロラン」の名はまた高まった。


「こんなすごい勇者様には、もう、俺たちは仕事なんか頼めませんねえ。」


シェーデルが言い、田尾とルクレードは頷きあう。


「ちょ!ちょっと待ってくれ!そんなことは言わずに仕事をさせてくれ!私はお前達と仕事がしたくて、必死に戦ったのだから!」



レグリンの背中で叫ぶロランを見つめ、いすみは頬笑む。


「これでここのお仕事も終りですね。」


いすみの傍らに立つ、華江がいすみに話しかける。


「そうですね。なかなやりがいのあるお仕事でした・・・。」


「メンバーもよかったですしね。。」


「そうですね。。」


「なに言ってるのよ!」


会話を交わす2人の間に、アウレータが割り込んだ。


「見てごらんなさいよ!この惨状を!やつらにあっちこっち壊されて!ケンチク仕事は、これからが本番よ!」


王都のあちこちが、レ・ブン商会の傭兵達に壊され、焼かれてしまっている。


「それに王宮の修復も!アタシ一人でやれって言うの!」


そう言いつつ、アウレータは華江とは反対側のいすみの腕に絡み付く。


「手伝ってくれるわよね・・・。」


さっきまでの強気な言動から、一気に頼りなげな表情になったアウレータが二人を見つめる。


彼女の視線を受け、二人は頷きあう。


「「もちろんです!」」


アウレータに答えつつ、振り替えると、そこには、がいた。


「思う存分やってください。日本政府はトランテスタ王国と友好国ですから。」


六代は桜井とともに、力強く答える。


「さて、なにから始めようかね。」


ぺぺが腕まくりをして宣言する。


「まずは、あっちこっちに飛んでったゲイアサプライヤの回収ですかね?」


怜奈がを発動させつつ、答える。


「疲れました。俺はまずは寝たいっす。」


「いやいや、師匠レーラー、まずは町の片付けでしょう。」


「そうだよ!ぐだぐだしてないで、しゃっきりしな!」


メテオスとレグリンに引っ立てられ、衛兵詰所に長谷部は連れていかれた。


「いすみ君。とりあえず、彼女達を送ってくるからあとは頼む。」


妙齢の女性数人を引き連れて、安西は行ってしまった。


「まずは人手を集めましょう。もろもろの手配は、アルテ・ギルドが仕切ります。」


銀縁眼鏡を光らせて、アウグストも動き始める。


「とりあえずはラジオ体操かな?王女サマ。」


「そうね。作業着取ってくるわね。」


田尾の言葉を受け、いすみに大人びたウインクをしつつ、アウレータは王宮へ走っていく。


「さて、私たちはなにから始める?解体、養生、鉄工、木工、内装。仕事はいろいろよ!」


「大丈夫ですよ。あたし達は・・・。」


あかりと華江の言葉を受け、いすみはいつものように微笑む。


「そうですね。私たちは。」


「「「「工務店ですから!!!」」」」


4人は声を揃え宣言する。


〈異世界工務店〉のお仕事が、今日も始まった。



異世界工務店




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