第76話 顛落

ぺぺは左手で少女の懐の硬貨ほどの大きさのゲイアサプライヤをそっと掴む。

右手でゆっくりと、怜奈が持ってきた新たなゲイアサプライヤをそれに近づけ、両方の効力を同調シンクロさせる。


すると、もともと少女の懐にあったゲイアサプライヤは軽く震え、ぺぺの手のなかで砂状になった。

「?!」それを見た母親は驚きと絶望の入り交じった表情でぺぺと怜奈を見る。


「大丈夫です。」


怜奈が力強くうなずくと、蒼白だった少女の顔にみるみる赤みが指していく。

荒かった呼吸も安定し、少女は安らかに寝息をたて始めた。


「間一髪だったね。でも、もう大丈夫だよ。」


母親にぺぺは優しく語りかける。


「あ!ありがとうございます!」


母親は安らかに眠る少女を強く抱き締めた。


◇◇◇


「ぺぺさん。ありがとうございました。ゲイアサプライヤの引き継ぎに、同調シンクロが必要って知りませんでした。」


怜奈が持ってきた、新たなゲイアサプライヤだが、少女の生命活動を維持しつつ、新たなゲイアサプライヤの効力を肉体に与えるには、それぞれの魔法力の波長を合わせる、同調シンクロ作業が必要だった。

建物のゲイアサプライヤ換装の場合でも、この作業は必要だが、王宮の作業の時はアウレータが行っていたので、怜奈は知らなかった。


「礼には及ばんさ。なんにしても良かった。」


「それでね。」


ぺぺは改めて、怜奈を見据える。


「今度こそ、あんたの親分イスミと話をつけておいで。マイナミ商会の連中も、あんたのことを心配してるだろうしね。」


いすみに言われている、日本に一時帰る件について、保留にしたままなのはぺぺも知っていたが、今回は人命がかかっていることもあり、おとがめなしにしていた。


「それから、あのゲイアサプライヤさ。」


ぺぺの言葉に、怜奈は身を固くする。


「あれだけ珍しい波長のゲイアサプライヤは、普通の商会にはない。まあ、大量のならあるかも知れないけどね。」


新たなゲイアサプライヤの出所について、おそらく、ぺぺは知っている。


「とりあえず、それについても、あたしはなにも言わないよ。ただ、しっかりカタをつけとかないと、大変だよ。のが、商売の基本だからね。」


◇◇◇


「返す?何をですか?」


レ・ブン商会の執務室で、怜奈は、ミモザ・アースと向かいあっていた。


「でも、商会の方にお手伝いいただいた以上は、なにかをお返ししなければいけないのがルールだと思いますし・・・。」


ぺぺに言われた通りに、怜奈はミモザ・アースに話す。


「そうですねえ・・・。」


小さなテーブルを挟んで、怜奈と向かいって座る彼女の服装は、上半身は彼女の細身ではあるが、魅力的な曲線を助長するような黒い光沢のあるジャケット。

下半身は膝まである黒いブーツ。その上は、ジャケットと同じ生地の短いスカート・・・。というよりは、布を巻いただけに見える扇情的な出で立ちだ。

その長い足を頻繁に組み換えるものだから、怜奈の胸の高鳴りは止まらない。


ミモザ・アースは立ちあがり、怜奈の背後に回ると彼女の両肩に手を置く。


視覚的にたっぷりと刺激を受けたあとの、身体的な接触の刺激は、電撃のように彼女の全身を貫き、下半身に達する。


一瞬の震えのあと、それはゆっくりと脱力感を含んだ快感に変わっていく。


「あ、あの・・・。ミモザさん・・・。」


怜奈は抗おうとするが、体に力が入らない。


「なにかを返してくれるというのなら・・・。」


ミモザ・アースの指がうごめきながら、ゆっくりと彼女の胸のふくらみに降りていく・・・。


彼女の指から発せられる劣情を帯びた波長が、ふくらみの頂点に近づきをまさぐられると、怜奈は抗うことができない。


「お礼をくれるというのなら・・・。」


ミモザ・アースの指先がに達する。

怜奈はからだの奥底から溢れだす快楽に必死に声をおさえる。


「あなたを・・・。」


「私にちょうだい・・・。」


怜奈に発せられた艶かしい言葉を発した唇が、彼女の唇に合わせられたところで、怜奈は背徳感と快楽の狭間に堕ちていった。

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