第38話 工具の返還
「はい。6番のスケール受理しました。日当受け取って来てくださいね。」
仕事が終わって、マイナミ商会の仮事務所には、ドワーフ達が次々と戻り、マイナミ商会から借りていた道具の返却と引き換えに、給金を渡している。
「あ、ロキオスさんは、2番の
給金は必ず払うマイナミ商会だが、道具の管理は徹底している。
時折、現場に忘れてきてしまう者もいるが、絶対にそれは許さない。
彼らの行動原則・・・。<異世界で使うものは異世界で調達する>があるのだが、現時点の状況では、スケールや測定器は、どうしても、我々の世界から持ち込まないといけないものもある。
将来的には、ドワーフ達に、こちらの基準で作らせるつもりだが、現時点では、我々の世界の寸法で仕事をしているので、機器の製作を模索しながらでは、仕事が進まないため、最低限の工具、機器は我々の世界から持ちこんでいる。
ただし、こういった機器を、この世界にそのまま残すのはまずいのと、ギルドがこれらの機器のノウハウを奪おう。あわよくば、そのものを手にいれようと、隙をうかがっているので、すべての機器に通し番号を付け、使ったら必ず返還させるようにしている。
それでも、忘れてしまうこともあるので、そんな時は、何をおいても取りに行かせている。
返還された機器は華江が管理し、錠付の収納にしまっておく。
1個800円のスケールや1000円の差し金に、警察の拳銃並みの徹底管理を行っている。
この厳重さは、異世界に居る彼らへの安全面にも直結するため、慎重に行っている。
現時点では、<アルテ・ギルド>によって、必要な物資の供給が<仕切り値>で供給されていたり、安全面についても彼らの管轄下で保たれている。
これは、交渉時の約束をベースにしているが、実態は、彼らの技術を将来的に手に入れたいアルテ・ギルド側が、マイナミ商会に与えた<猶予期間>のようなものだ。
彼らが、いすみ達の技術を手に入れてしまえば。双方の約束を反故にしたところで、アルテサイドには、なんの不具合もダメージもなくなる。
その時は、最悪、高橋のような目にあう可能性もある。
<他国に居る時は、常に、自分たちが優位になるカードを持っていること。>
これがなければ、自分たちに優位に物事が動くことはないし、安全が確保されることもない。というのが、マイナミ商会の、基本的な行動指針だ。
どこかの国の一部の人々のように、軍備を放棄し、自分たちの領土を自由に出入りできるようにし、技術も知識も共有しましょう・・・。なんて考えでは、あっというまに自国の人権も、財産も蹂躙されてしまう。
先発隊の失敗の原因は、まさにこれで、自分たちにはなにも優位な対抗カードがないにも関わらず、対等な交渉をしようと、相手側に求めたから失敗したのだ。
だからこそ、スケール1個、さしがねひとつの紛失で、自分たちの安全が脅かされるかもしれないという緊張感を常に持って、監理するように。といすみは現地スタッフに指示を出している。
だが、現場での見学による、自主的な知識吸収については、アルテサイドに対しては、特に制限を設けていない。
座学なしの<見て学ぶ>だけでは、地に足がついた、フィードバック出来る技術が身に付くことはないし、現場でされる質問に関しては、アルテサイドの「ドワーフには聞きづらい。」いすみたちに対しては<
そんな感じで、いただくものはいただいて、相手に必要なものは渡さない・・・。というほぼ完ぺきな形で、優位さを保っているマイナミ商会だが、百戦錬磨の商人であるギルド長のエドガルドは、そんなマイナミ商会の戦略をとっくに見抜いている。
だからこそ、うかつに手を出せないもどかしさを感じていた。
◇◇◇
「お前たちの現場レポートは、確かによく出来ているが、基本的な部分の技術把握がされていない。なんとか講習のような形で、彼らに教えを乞うことはできないものか?」
日々のレポートを持って、報告に来たアウグストに、エドガルドは問う。
この世界の唯一の技術職である魔法士たちは、
彼女も、マイナミ商会の一連の動きは、イスミの策略であるのは分かっているが、他の魔法士の手前、アタマを下げて、教えを乞うことができない。
マイナミ商会の戦略にまんまと嵌ってしまっているカタチだ。
「なかなか難しいです、<
アルテのもうひとつの狙い・・・。イスミのやってきた某国と、独占的な交易権を結ぶこと。
いすみが、呼び寄せた人材は、タオをはじめ。その他のスタッフも、自国の言葉の読み書きはもちろん、建設に関する技術や、その他の教養を身につけているものばかりだ。
一番年若いハナエでさえ、あれだけの知識と、ドワーフ達を従わせるリーダーシップを持たせることのできる人材を育てることのできる、技術水準の高い国と交易ができれば、技術の独占取得はもちろん、それらの技術を使って、作られたり、見つけだすことができる様々な交易品を使って、この国で最大の商会になることも夢ではない。
そのためには、いすみが<コトを起こす>際に、彼のバックアップをして、
「彼らの立ち回りを見ていると、指揮をとっているイスミの戦略は、商人としても、政略家としても見事なものだ。確かに、あそこまで有能であれば、彼の存在を恐れて、権力の座を争う者が、追放したくなった理由もわかる。」
「とりあえず、なんでもいい。彼らの使っている機器、ドワーフ達が作業中に見ている教本だけでも、さしあたって手に入れたい。なんとか、打開策はないものか・・・。」
エドガルドはアウグストに、含みのある視線を向ける、
それは、彼女の持っている<ある技術>を使うよう、暗にけしかけているものだった。
「わかりました。今夜、決行します」
・・・アウグストの返答と同時に、エドガルドのオフィスの外で会話を聞いていた、ある人影が足音を忍ばせ、1階のロビーへ降りて行った。
◇◇◇
マイナミ商会社屋建設現場日報-4 屋根仕舞完了・壁面アマルガム積み開始しています。
https://twitter.com/4569akk/status/1047417094180990976
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