第116話 極大錬金
「む、ムリだ! 私にそんな事が出来るわけないだろう! それほどの──ネトリール変えるほどの膨大な魔力を、私が持っているはずがないだろう」
「魔力については心配するな」
「……なにか考えがあるんだよね、おにいちゃん?」
ユウは責めるような口調ではなく、補足を求めるような感じで尋ねてきた。
「ああ。俺がヴィクトーリアの隣でヴィクトーリアを強化……ていうよりも、錬金を補助する。魔力の供給も俺が担う。これなら出来るだろ?」
俺が尋ねると、ヴィクトーリアは少し考えた後「それが本当に可能なら或いは……」と呟いた。
「待て……そのようなことが可能なのか……? その、錬金術とやらは……?」
「理論上は可能です」
ガンマの問いにヴィクトーリアが答えた。
「ですが……本当にユウトひとりで、ネトリールを錬金させるほどの魔力を賄えるのか?」
ヴィクトーリアが心配そうな目で見てくる。
「なんとかしよう」
「なんとかするって言っても……ほ、本当にできるんだよな? もし出来なかったら──」
「俺を誰だと思ってんだ。何とかするって言ったら何とかするさ」
「む、むぅ……。とりあえず、魔力の件はユウトに任せるとして、もうひとつの問題は人手だぞ。それこそネトリール全域をカバーするほどの陣を描かなければならない。そうなってくると複雑になってくるし、錬金術に詳しい人物をあと何人か――」
「いや、複雑な陣は必要ない。要はこのデカくて固い塊を、柔らかくてフワフワした塊にする。それだけだ」
「いや、それでも十分難しい注文なんだが……」
「できるだけでいい。陣を簡略化してくれ」
「うーん……。とりあえず思いつくものとして、応急処置的な簡単なやつがなくはないんだが……それでも動ける者が最低五人は要ると思うけど……」
「五人? だったらいるだろ」
「へ?」
「俺とヴィクトーリアは陣の中心にいなきゃならないから、この場合除外して……ユウにガンマ、アーニャちゃんとパトリシア。国王様……は体力的に無理そうだから、
「じょ、ジョンも……?」
「俺……ですか」
「やれるだろ? 転移装置はないから、このままだと死ぬ事になるぞ」
俺は手を膝につき中腰になると、ジョンの顔を覗き込んだ。ジョンは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「し、しかしユウト……ジョンはいま、魔法が使える状態で――」
「なあ、ジョンおまえ……ここから安全に脱出できるような魔法使えたか?」
「……使えません」
「せいぜい不意打ちで、ここに居る全員を殺すことが出来るくらいだよな?」
「……はい」
「だってよ」
「いやいやいや! 聞いただろう! この場の全員を殺せるようなやつを解放できるわけがないだろ!」
「まあ、大丈夫だろ」
「お、おまえは……何を根拠に言っているんだ……?」
「いいかヴィクトーリア。セバスチャンみたいな脳筋ゴリラならともかく、こいつはやる事をやったら死んでもいい……みたいな考えは持ってない、ただの魔法がそこそこ使えるヘタレ毒舌だ。生き残れる選択肢があれば、間違いなくそっちをとる」
「……だからわざわざ、俺の目の前で転移装置を破壊したんですか?」
「さあな。でも、なにより転移装置を足に隠してたってのが良い証拠だろ。ユウキに言われた通り、計画を遂行するだけならそこに隠す必要はない。なんならネトリールの施設を使ってネトリールから脱出すればいい。というかそもそも、そっちが本筋だったんだろ。転移装置はあくまで何かあった時の緊急脱出用。……違うか?」
ジョンが観念したようにため息をついた。俺の推理は大方当たっていたようだ。
「──この通りだ。こいつは俺たちを殺せる力はあるが、
「……う、うん。わかった。ユウトがそこまで言うなら信用するよ」
「信用してくれてなによりだ。で、早速だが本題に入る……前にユウ、ジョンを解放しろ」
ユウは小さく頷くと、素早くジョンの拘束を解き、首根っこを掴んで無理やりその場に立たせた。ジョンはどこか不満げな表情を浮かべている。
「……みんな、わかってはいると思うけど、いまもゆっくりではあるが、ネトリールは落下し始めている。このまま加速度的に落下スピードは上がっていくだろうから、おそらく残された時間は思ってるよりも少ない。だからみんなにはヴィクトーリアお手製のチョークを持って、ヴィクトーリアが指定した場所に寸分の狂いなく線を引いてきてほしい。仕上げは俺とヴィクトーリアがやっておく。……わかったか?」
俺が最終確認をすると、そこにいた皆は力強く頷いてくれた。
「よし、じゃあヴィクトーリア。皆にこれから描く図形を説明してくれ」
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