第56話 全員合流
「――にゃら、どうするにゃ? 相手の目論見はわかったにゃが、どうやってそれを打破するにゃ?」
「簡単さ。あたしが生きていることを示してやりゃあいいんだよ」
「……ということは?」
「ああ。このまま、このフザケた式に乗り込むよ!」
「それしかないよな……、あいつらはまだ来てないけど、ここは腹括りますか――」
「ちょっと待ったァ!」
俺たちが覚悟を決めたところで、背後から声をかけられた。
まずい。こんなところを見られてしまったら、さすがに言い逃れはできない。
なんとかしければ。
――とは、考えなかった。
なぜなら、その声の主はよく知っている声だったから。
なぜなら、その声の主は――
「ここにいたのか、おまえたち。探したんだぞ」
――ヴィクトーリアだったから。
三人のうち、アーニャとヴィクトーリアは俺たちと、俺たちの足元に転がっている男を、交互に、困惑したような表情で見ていた。
ユウは相変わらず、まっすぐ俺だけを見ている。
「アーニャちゃん……と、その仲間たち……!」
「いやいや、私が最初に声をかけたのに、なんだ、その待遇は……って、そこにいるのは、もしかして、アネゴ殿!? 生きておられたのか!」
「まあ、なんとかね。そっちも元気そうで何よりだよ」
「おお、その顔は……どことなく、吹っ切れたご様子ですね。やはり、アネゴ殿は凛としていたほうが、格好いいです!」
「そ、そうかな……? そんなこと言われると、ちょっと照れるかも……」
「……みっちゃん、口調口調」
「まあ! ユウトさん。よく見たらお怪我をなされていますわ。大丈夫ですか?」
「うはは! これくらい、なんともありませんよ、アーニャ様! かすり傷みたいなもの――」
いや、待てよ。
ここで俺が大丈夫アピールをして、男らしさを示すのもありだが、あえてここは弱みを見せることで、アーニャに治療される運びに持っていけないだろうか、どうだろうか。
「あたたたたた……急におなかの調子が……」
「え? ふ、腹痛なのですか?」
「ご主人が負ったのは、外傷にゃ。腹痛はでっち上――」
「こら、ビースト! め! おすわり! ちんちん!」
「ニャーを、イヌコロにゃんかと一緒にするにゃ!」
「おにいちゃん、成長薬あるよ。大丈夫?」
「やめろ。俺に触ろうとするな。というか……ユウ、おまえは絶対許さんからな、ビーストともども、あとでおぼえとけよ」
「……なにが?」
「ちっ、とぼけやがって。あとでお仕置きしてやるからな」
「……うん。わかった。たのしみにしておくね、おにいちゃん」
「ユウ……なぜ、おまえはそんな……」
「それより、おまえたちがここにいるってことは、武器は取り返せたってことか?」
「あ、はい……ここに……」
アーニャはあのゴツイ杖を、ヴィクトーリアは銃を、ユウは安物の剣を、それぞれ掲げて見せてきた。
「よし、よくやった。……て、あれ? アーニャちゃん、なんか元気ない? どうかした?」
「え、ええ。なんというか……取り返せはしたのですが、すこしショックだったので……」
「ショック……?」
「わたしから話そう」
なんだ、この雰囲気、何かあったのか……?
「……ユウト、おまえの武器……、あの杖は、オークションで競売にかけられていただろう?」
「ああ、あの棒きれには、それ相応の価値があったからな。今考えても、一千万以上の価値が、あの棒きれにはあった」
「……も、もう、だれも、あの杖を杖とは呼ばないのだな……、もういい。わたしもこれから棒きれと、呼称することにするとしよう。……ユウトの持っていた棒きれが――」
「クルァァァァァァ!! どぅあーれの杖が、棒きれじゃあああああああああああい!!」
「ひ、ひぃ!? ごごご、ごめ、ごめんなさ……っ」
「にゃ。ご主人、それは悪趣味だにゃ」
「……すまん、ちょっと、棒きれ呼ばわりされたから、イラっときて……。すまんな、ヴィクトーリア」
「うぅ……、話を戻していいか……?」
「続けて、どうぞ」
「だから、アーニャとユウの武器も、競売にかけられていないか、しらみつぶしに探していったんだ」
「しらみつぶし……、総当たりってことかい? よくやるよ、あんたたち……」
「どういうこと、みっちゃん?」
「いやね。ポセミトールは、デカい街ゆえに色々な娯楽があるんだよ。
「まじか……、じゃあおまえら、この短時間でそんなに回ってきたのか?」
「む。でも、おかしいね。手下に探させたときは――」
「そう。わたしたちの武器は、オークションになんてかけられていなかった」
「ヴィッキー、それ以上は言わないで……!」
「いや、こうなってしまった以上……、包み隠さず言うべきだろう。わたしは言うぞ、アーニャ」
そう言って、ヴィクトーリアはごくりと生唾を飲み込んだ。
……こいつら、武器探しに行っただけだよな。
も、もしかして、武器を取り返すために、あんなことやこんなことを……?
け、けしからん!
そいつに屈したヴィクトーリアもそうだが、アーニャにそんな命令を下したやつは、もっと許せん。
どこのどいつだ、うちのアーニャちゃんにそんなことを……!
ぶっ殺して――
「大安売りの、それもワゴンの中で、わたしたちの武器が、雑に売られていたのだ……!」
「……え?」
「ユウトの薄汚れた、取るに足らない棒きれでさえあんなに値が張ったのに、アーニャの棒は……アーニャの棒は……!」
「……おい、その表現を止めろ」
「ちなみに、おにいちゃんに見繕ってもらった、あたしの剣も、同様に売られてた。悔しい」
「いや、おまえのは適当に選んだだけだよ。ワゴンセールの中のやつから」
「え」
「だからこの場合は、ワゴンからワゴンに移動しただけってことだな。おまえの場合は別に取り返さなくても、新しいのを新調すればよかったんだけど……」
「お、おい、ユウト。くちに気を付けろ。いくらユウといえども、それはさすがに傷つく――」
「ありがとうおにいちゃん。適当に見繕ってくれて」
「……感謝すべき要素が、一つも見当たらないのだが……?」
「うんうん。だから、あたしも困ったんだよね。ユウくんのは、すぐに見つかったんだけど、ほかのお仲間さんたちのは、全然見つからないんだからね。だから、武器屋を回らせて、しらみつぶしに探させたのさ」
「それでも、一晩で見つけたんだろ? やるじゃん、みっちゃん」
「いや。見つけてくれたのは、他でもない、手下たちさ。あたしはただ、ふんぞり返って、命令してただけさね」
「……アネゴ殿は謙虚なのだな。どこぞのグルグル布に見習わせたいぞ」
「おまえそれ、俺に言ってんのか……?」
「そんな凄んでもダメだぞ! この場で謙虚にならなければならないのは、もはやおまえだけだ、覚悟するがいい!」
「ほぅ……、覚悟はいいようだな……!」
「ひぃ!?」
「とーにーかーく! ……これで全員合流できたってわけだ。ユウくん、その三人にも、今回の事、話ておいたほうがいいんじゃないのかい?」
「それもそうだな……諸君! 諸君らには今から、重要な任務に就いてもらう! 心して、私の話に耳を傾けるように!」
「おまえはどこの軍曹だ……、っと、そうだった。一体、なんなのだ、この屍の数は……!? 何があったんだ? そしていま、ユウトたちは何をしようとしているのだ!?」
「それをいまから話すんだよ」
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