第7話 女戦士ヴィクトーリア
ヴィクトーリア。
金髪碧眼の女騎士、その顔つきはまるでワルキューレが如き険しく、キッと上げられた眉、目は己が前に立つ敵を睨み殺す。
その口は一切の
アーニャのパーティでは戦士を担い、時には厳しく、時には優しく、アーニャをサポートする。
それがヴィクトーリア。
そう聞いていた。
うん、そう聞いてた。アーニャから。
だから、囚人が暴れてるどうのこうの、なんて聞いたときは心底焦った。
手が付けられないのではないか、というか、俺は殺されるんじゃないのか、と。
しかし、俺も男だ。
出した言葉は引っ込めない。
だから国王の背中に隠れ、事の一部始終を見守っていたが……なんというか、ヴィクトーリアという少女は――
「ええええええええん!! 寂しかったよー!! アンーーーーー!!」
顔に似合わず、すごく泣き上戸な女の子でした。
「な、泣き止んで、ヴィッキー。わたし、帰ってきたから、もうどこにも行かないから……」
年齢では明らかに年下のアーニャが、ヴィクトーリアをなだめすかそうと、オロオロしている。
「……くすん、……ほんとうか……?」
「うんうん、ほんとうだよ」
「アーニャさんを俺にください!」
自然と、ヴィクトーリアの前で頭を下げてしまう俺。
いまなら、なんかいけそうな気がした。
だって、ずっと怖い人だと思ってたヴィクトーリアさんが、こんな人だったとは……。
「……アーニャ、この男は……?」
「えっとね――」
◇
「なに!? おまえのような変態のパーティにだと? ダメだダメだ。うちのアーニャは誰にも渡さん! さっさと何処へなりと消えるがいい!! もしくは私の剣の錆にしてくれる!!」
うわーお。
想像してたセリフと全く同じだけど、さっきまでビービー泣いてたから、まるで威圧感がない。
「ヴィッキー! そんな言い方はないよ、ユウトさんはわたしたちを救ってくれた人なんだから」
「うう……、そうだけどさ……」
「や、なにもべつに、アーニャだけを引き抜きたいってわけじゃないんだ。できれば、ヴィクトーリアさんにも入ってほしい」
「アーニャ……だと? 貴様、いつからそこまで親しくなったんだ! 其処に直れ! 私の剣の錆……はさっき言ったから、鞘だな! 鞘にしてやる!」
「意味がわからん」
「ヴィッキー!」
「しゅん……」
「ねえ聞いて、ヴィッキー。ユウトさんのパーティに入るってことは、わたしたちにとっても、すごく良いことなんだよ」
「なんだ、それはどういうことだ」
「だって……わたしたち……、何も知らないで飛び出して来たんだもの!」
「た、たしかに……っ!」
「ユウトさんについていけば、なにかわかるかもしれないんだよ!」
「たたた、たしかに……っ!」
……なんつー会話だ。
とても冒険者同士の会話とは思えん。
それとも、最近結成したばかりなのか?
なんにせよ、先行きが不安になってきた。
「ユウトさんは旅慣れてそうだし……きっと、わたしたちをあの場所まで連れてってくれるよ!」
あの場所?
というか、そもそもアーニャたちの目的もわかってないな。
それに、なんといってもここへは空から来たと言っていた。
飛竜も飛んでいるし、このあたりを航行中の飛行船に乗っていた……とも考えにくいし、もしかして空からやってきた……とかか?
空から……ていえば、まさか、あの都市からか……?
「……むーん、しかし、なぁ……」
「どうしたの、ヴィッキー?」
「確信はないのだが……、おまえ、ユウトと言ったな? わたしとどこかで会ったことはあるか?」
「え? そ、それは……」
まずいな。
アーニャが俺を知らなかったとはいえ、ヴィクトーリアも俺を知らない……なんてのは、ただの希望的観測に過ぎない。
ここは不利になるけど、正直に俺の正体をぶちまけるか、あるいは、このままはぐらかすか……。
いや、仮に隠していたとしても、どのみち一緒に旅をしていれば、いつかはバレる。
だったら、ここは正直に言うしか選択肢はないか。
「アーニャ、聞いてくれ。じつは――」
「のああ!? おまえさん、よくみたらお尋ね者のユウトじゃないのか!?」
俺の告白を遮り、国王が名指しで俺をの名前を叫ぶ。
まさに最悪なタイミング。やってくれたな。国王様。俺の計画はパーだ。
「ユウト……? 貴様、ほんとうに、あのユウトなのか?」
「国王様? ヴィッキー? ふたりはユウトさんをご存じなの? やっぱりユウトさんはユウ・メイジンさんなの?」
「……アーニャ、ひとつ言っておくが、有名人は固有名詞ではないぞ」
「当たり前じゃ。お嬢ちゃんこそ、こいつを知らぬのか。悪名高きパーティの一員じゃぞ! 自分たちがのし上がるために、他のパーティを卑劣な罠にはめ、崩壊させて、蹴落とす。やつらの毒牙にかかったパーティは星の数ほど。
「……な、なんか、俺たちについて、やけに詳しいですね」
「当たり前じゃ。なんせ、国王じゃからな。そのような情報の一つや二つ。耳にはしておる」
「……ユウトさん……それは、本当のこと、なんですか?」
「……ああ、本当のことだ」
「そ、そんな……では、ユウトさんはほんとうに……?」
「やはり……、こいつがユウトか……あの、勇者のパーティ……」
「アーニャ、ヴィクトーリアさん、騙すようになってしまってすまない。しかし、聞いてくれ。言い訳に聞こえるかもしれないが、騙すつもりはなかったんだ。本当だ。この事は頃合いを見て打ち明けようと思っていた。でも、いま打ち明けてしまえば、君たちが俺のパーティに加入するのを、拒むような気がして、なかなか言い出しづらかった。それに、俺は変わった。俺はそのパーティはもう辞めたんだ。あいつらはまだそれを認めていないと思うが、俺はもうあの頃の俺じゃあない。こんな女々しいことを言っている俺の言うことを、全部を信じてくれなんて思っていない。けど、これが俺の本心なんだ。こんな状況で申し訳ないが、改めて、言わせてもらう。どうか……どうか、俺のパーティに、加入してはくれないだろうか」
「そんな……うそです……、ユウトさんがあのお方だったなんて……そんな……!」
「狼狽えるな、現実を見据えろ、アーニャ。これは、偶然ではない。必然だ。天から授かったまたとない好機だ。この好機は逃してはいけない」
……天から授かった好機……?
なんか、アーニャとヴィクトーリアさんの会話の内容から察するに、これって、俺の元パーティのやつらが、このふたりに対して恨みを買ったってことか? それで、俺に会えたことを好機ってことは……やばくない?
生命の危機?
パーティ加入以前に、俺が生命保険に加入しないとダメじゃん。
あれ? 生命保険に加入したとしても、べつに死ななくなるわけじゃないじゃん。
じゃあ、何に加入すれば……って、さっきから隣にいる国王のニヤケ面が癇に障る。
「……なに見てんですか」
「ぷーくすくす。因果応報自業自得。悪いことは巡り巡って、己に降りかかるのだ。若人よ。これを人生の教訓として、第二の人生を歩むがよい。まあ? 来世が人間だとも限らないんだけどね?」
あれ? この国王……つか、おっさん、なんかムカついてきたな。
どうせ二人に殺されるなら、このおっさんも道連れにしてやろうかな。
うん、そうしよう。
「あ、すみません、じつはこのおっさんもボクの仲間なんです。僕を罰するんでしたら、このおっさんから先にどうぞ」
「はあ!? きったねー! おめー、なにウソぶっこいてくれてんの? まじムカつくわー。怒髪天だわー。え? なに? それがし、拙者をキレさせ候? 切り捨て御免しちゃって宜しいですか?」
「ユウトよ、そのおっさんがユウトの仲間ではないことはわかっている、観念しろ」
「うう……」
「ぶひゃひゃひゃひゃ! ザマーミロ! ウソなどつくからだ。ささ、お嬢様方、この無法者にきついバツを与えちゃってください。なんなら、わしがやっちゃうけど? 代行しちゃいますけど?」
な、殴りてー……!
でも、この場面はあれだ。こちらの誠意を示さなければ、
「すんまっせええええええええん! まったく身に覚えがないですけど、何でもしますから! ほんとまじ! 靴とか、綺麗に舐めますんで! 汚れとか残さないんで! 俺、汚れとか大っ嫌いなんで! 殺さないで下さあああああああい!!」
「じゃあ、わたしたち二人をパーティに加入させてくださいっ!」
「はあああああああああああい! よろこんでえええええええええ!」
「や、やったね、ヴィッキー!」
「ああ、これでひとつ、目標達成だな」
「……はい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます