第2話 消防署
「な~んか、デカイことしたいな。」
ビルの谷間から見える大空に向かって1人つぶやく。
「何言ってんのさ、天照。」
「その名で呼ぶな、伊邪那美。」
「そっちこそ、その名で呼ぶなっての。」
プクーっと頬を膨らます少女。金髪になめらかな肌。空のように青い目。
「フーセンガムみてえ。」
と少年。銀髪に火傷の痕のある顔。華奢だが弛んでは居ない身体。消防署オフィス/壁には上半身裸の男のカレンダー/その中に少年も混じっている。他の消防士ほど筋骨隆々ではないものの、均整の取れた肉体をしている。但しあちこちに火傷の痕。
「大層な名前で困ってんのにさ。普通にカナンでいいじゃん。なんだよ伊邪那美とプロイセンて。」
少女がぼやく。
「俺なんか天照だぞ。名前負けもいいとこ、しかも女の名前って・・・ヤーパンの文化だかなんだか知らないけどさ、なんで女の神様の名前なんだろ。せめてスサノオとか草薙が良かった。」
少年が愚痴を返す。銀髪の少年はレイ、天照=レイ=ウォーカー。ミリオポリス消防署の消防士だ。歳は15になる。
「おかげで極東の神話を知ることができたけれど、でもそのせいで余計に息苦しいのよね。」
カナン、伊邪那美=カナン=プロイセンがまた愚痴を言う。彼女は消防署の事務仕事を担当している。ちなみに2人とも特甲児童である。レイは特甲を纏う現場担当。対してカナンはバックアップに回るコーラスである。
かつてウィーンと呼ばれた都市、ミリオポリス。ここでは後天的、先天的な理由で障碍を抱えた児童に機械の体と労働の権利を与え、労働力として活用していた。そしてその中で特に優秀な少年たちは軍へ、少女たちは憲兵大隊(MPB)などへ徴用された。それ以外の機械義肢の扱いに長けるものは、レイやカナンの様に消防署へ配属される事もあった。と言っても憲兵や軍に比べるとまだ少ないが。
「自分の名前をとやかく言っても始まらないぜ、お二人さん。」
精悍な顔立ちの男が二人の傍にやってきた。彼はレイモンドだ。消防署所属の消防士だ。二人の同僚である。
「名前なんて他人が決めるもんだ。そんな事より最近、爆破テロが続いてる。それによる火災もだ。」
「テロなんて珍しくもないでしょ。」
とカナン。確かに、昨今、ミリオポリスではテロとの闘争が続いている。MPBやMSSが対応に追われている。
「フロリッツドルフの東、デブリングの南、ペンツィングの東、と反時計周りにウィーン中心部に近づいてる。何か意図があるとしか思えない。」
ただのテロ事件ではないと言いたげなレイモンド。
「一つのテロ事件で幾つの組織が声明出してんのさ。どこがやったのかも判然としないのに関連付けられるの?」
とレイ。
「確かにどこがやったのかは判らない。だが何らかの関連があると俺は睨んでる。また火事が起こる。」
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