、うだい

@cocomeno

第1話

 あの日、僕が一つだけついた嘘と君の一回だけこぼした本音と叶わない約束を交わしたこと。

 もう、なくなってしまったけど、まだ、あきらめてないこと、それを伝えたい事、そしてこれからの事と。何も変わってないけど、すべてが変わらなかったわけじゃない。

  何もわかってなかったのは、ずっと君の方で、僕はまだまだ知りたいばっかりで、お互いに何も通じ合ってなかった。すれ違いはなかったけど、見つめ合いはなくて、君は取り留めもない話で僕を引き留めて、とてつもなく途方もない時間を共に過ごしてきた。

 最後に君が手にしたティーカップの中身はさめっきたコーヒーで、いつもの言葉で「やになるわね」と呟いて、見事に紅色な唇からため息を漏らしていた。君の顔を照らす電気の光はより赤々と痛々しく、刺々しく言葉を飾っている。

 僕の手には華奢なフォークが握られており、たったいま空になった皿をおいて「そうか、きついね」と返し、手にしていたフォークもゆっくりとその上に載せる。

 「もう、いっその事一緒に遠くへ行かない?」君の綺麗な横顔を僕に向け見事な紅色をきつく絞っている。呆気にとられたのは久し振りでどう返すのが正解か分からなくて、フォークに移る三人の僕をみるがどれもまともな返答をくれそうな顔をしていなかった。

 「じゃあ、君ひとりで行ってきたいいよ。それまで帰ってこられる場所を守る人は必要でしょ?」フォークに映ったまともじゃない顔の僕も言わないような最悪な言葉を、僕はまともな顔をしていってしまった。

 すると、ひきつった表情で驚いて見せる君は、もう本当のことを言うつもりはなくなったようで、紅色は力なく動きだし「そうね、それだと安心だわ」と音のない響きを放っている。

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