ゼロからイチができるまで

深山 蒼和

第1話

まだ陽も昇らないうちから、煌々と明かりがつくビルがある。

音声と映像を駆使し、視聴者へ情報を発信するテレビ局だ。

日夜、数百人ものスタッフが番組を世に送り出すことに全力を注いでいる。


 ここは、生放送情報番組『オープン・ザ・サン』の制作スタッフルーム。

OA前、多くのスタッフが準備に追われ、走りまわる。

あちらこちらであがるのはアシスタントを呼ぶ、ディレクターの声。

放送前は、ピリピリとした空気が漂う。

「おい!コピーまだか?早く持ってこいよ!」

「すみません!今、持っていきます!」

OAに間に合わなければ意味がない。

だから、何があっても作業を遅らせることは絶対にできないのだ。

「田島さん!2番に電話です!」

「はいはい。TK(タイムキーパー)さん、項目変更!ここ、入れ替えね?」

「わかりました」

生放送番組は、リアルタイムで新しい情報が次々に入ってくる。

芸能ニュースに、事件、事故。

関心度の高いものが入れば、予定を変更し、組み替えていく。

情報は生き物。どこよりも早く、正確に伝えることが、

結果として視聴率に繋がっていく。


 夜を徹して全員が目指すのは、番組を無事に世の中に送り出すこと。

OAまでの作業は、分刻みで進んでいく。

夜までに取材して集めた情報を整理し、たたき台を作り、

そこからナレーション原稿書き、取材テープから必要な部分を抜き出し、

VTRを編集、必要に応じてテロップを入れていく。

 番組の舵を握るのが、統括を担当するCP(チーフ・プロデューサー)。

CPによって、番組の構成や雰囲気が一変するといっても過言ではない。

それだけに、ネタ選びのセンスが物をいう。

「おい!朝刊みたのか?大物歌手結婚って載ってるぞ!大項目差し替えろ!」

「マジですか〜…」

「…原稿せっかく書いたのに、またお蔵入りですね、三崎さん」

「うるせえ!無駄口叩いてる暇があるなら、資料集め手伝え!」

取材したものが、すべて電波にのるわけではない。生放送は鮮度が命。

どんなに長い時間をかけて取材しても、注目度の高いニュースが入れば、

すぐさま差し替えとなる。

「ADさ〜ん!歌手に関する資料、いますぐ集めて!」

「担当Dを早くここに呼んでこい!」

「いま電話してます!!あ、もしもし編集中すみません。ネタが差し替えに…」

 視聴者がいま観たいこと、知りたいこととは何か。

 これはネタが生まれて形になり、電波にのって視聴者の元に届く前、

テレビ制作現場の物語である。

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