ビヨンド・ポエトリー

庵庫ぱんこ

001. 夜の住人

わたしは夜の住人だと、そう思わざるを得ない。

夜はいつもわたしに優しく

夜にはいつも同じ寂しさを持った人間がいる

温めた牛乳より

ラベンダーの香水より

光る画面と混沌に身を置いていたい

暗闇にぼんやりと浮かぶ光でありたい

むせ返るアルコールでもいい

綺麗な丸い氷でもいい

スツールの上で笑みを向けてくれる人でもいい

わたしはカウンターの中で

雨に濡れたガラス越しの

少し下卑た蛍光灯を見て

世界を渡る酒瓶に囲まれ

お洒落で安心感のある匂いや

人の少しバカにした笑いを見る


あなたのわたしをバカにした笑い

あなたのぼんやりとした目元

深い海、悲しみを映して

ごわついたセーター

硬いスカートに擦れる黒

あなたはいつも黒に身を包み

休日には薄紅のシャツ


次に見たらオレンジのパーカー

オレンジの傘

また訳もなく、「しかたがない」と言って

そうやって


そうやって初夏に溺れて

限界に近づいて

訳はあるが、「しかたがない」と言って

諦めだったのかと自分に問う

18のわたしの心には

甘え


甘い風に誘われて

カーテンを開けるか迷っていて

いつまでたっても茹だるような暑さの部屋で

かつてのレイアウトで何をしていたのか

何事もなかったのような白い壁

フローリングの床、おちた髪

あなたたちにとって何事でもなくても

わたしにとっては大事な瞬間であった


最後の瞬間は覚えていない

自尊心のために戦った

私たちの今後のために戦った

悪者になった

ならないといけないと知っていた

それを今でも正しいと思っている


ほらやっぱり

私は大丈夫

夜の住人であって

あなたの住人ではない


こんなにも心揺さぶられ

こんなにも心苦しく

教えてもらったたった1曲さえまともに聴けない

しかしわたしはいま20

また訳もなく、「仕方がない」と言って

2年

仕方がない

仕方がない

また白黒の世界に戻っただけ

あなたがくる前に戻っただけ


色を見て貪欲なだけ

あなたの色を吸って

あなたの色を吐いて

身も心も染まるような

そんな世界だった

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