ダンジョンマスター:3日目
私はお腹を抑え転げ回っていた。朝からお腹が痛い。笑い過ぎて。それもこれもそーちゃんのせいだ。なんだあれ、ショートコントかっ!!多分そーちゃんは私を笑い死なせるつもりだ。これは見事に策略に嵌ってしまった。
私のダンジョンを攻略にやってきたそーちゃん達…。いきなり、ラノベの主人公を気取ってきたのはいい。ああいうのは昔から変わらないし、そーちゃんらしい。それに私たちは今、生命をかけた勝負の渦中にある。そして舞台はゲームそのものの世界。あのセリフはまあピッタリだった。本当にそこまではいい。その後だ。
足を滑らして絶叫マシンさながらの滑走。昔そーちゃんを遊園地で無理矢理ジェットコースターに乗せた時と同じ顔をしていた。アトラクションの記念撮影の写真のそーちゃんなんて目を当てられたものじゃなかったが、動きが加わると更にヤバい。顔芸のグランプリ獲れる。間違いない。
だがそーちゃんの珍道中はまだ続く。そこからは狙ったかのように、このダンジョン唯一のポイズンモスの群生地へと突っ込んでいく。自爆の天才か!
まだまだそーちゃんはその手を休めない。そう、最強のネームドモンスター、クロの登場である。こんなに可愛い毛玉が、そーちゃんの中では極悪モンスターになってしまった。マジか。そして私を笑いに笑わせてくれた後、そーちゃん達は尻尾を巻いて逃げてしまった。今思い出しても面白かったな…。私はヒーヒー呻いていた。
まあ筋肉痛になってしまいそうなお腹の様子が落ち着くと先程のことを振り返る。勿論思い出し笑いをするためじゃなく、対策を練るために。まあ、思い出して吹き出しちゃいますけども。それは置いといて問題なのは、やはりこちらの戦力だ。勝手に自爆したそーちゃん達にトドメを刺すため、クロ達にダンジョンのモンスターを追いかけてさせ、そーちゃん達にけしかけたが全く歯が立たなかった。もしもクロ達眷属自身が攻撃に出ていたとしても結果は変わらなかったと思う。実際、こちらからはそーちゃん達に有効な攻撃を仕掛けれていなかった。勝手にそーちゃん達が自爆しただけだ。あの2人の攻撃魔法とかに対抗する術がこちらにはない。これは問題だ。と、そこでクロ達がダンジョンから戻ってきた。彼らにはそーちゃん達を撃退したあと、2人が炎魔法や風魔法を使ってたのでそのマナが回収できないかと集めに行ってもらったのだ。そう。またぴょんぴょんと飛び跳ねて貰ったのだ。眼福。
「にゃ〜、ご主人!やっぱり沢山のマナがあったにゃ!!これで色々強化できるにゃ!!」
「うん、ありがと!」
私の肩に登って一緒にダンジョンマップを覗き込むクロの首を撫でてやる。クロはゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らした。ほんと可愛い…。そんなクロにご褒美。ってことで炎のマナをクロに割り振ってやる。クロの扱える魔法の上限は3つだから、土魔法を忘れて貰い、新たに炎魔法を覚えて貰った。するとコアメニューに変化が起きた。今まで薄かった『進化』の欄が選択可能になったのだ。私はクロと目を合わせると、『進化』を選択しメニューを開く。するとダンジョンマップのクロのマーカーの上に何かが出る。
[ケット・シー→魔女の黒猫]
「にゃ!ぼく進化できるようになったのかにゃ!?ご主人、早く!早くするにゃ!」
クロが大喜びで私の頭をゆする。私はクロにされるがままに首をガクンガクンとさせながら、クロの進化を選択する。するとクロが淡い光に包まれるとそのシルエットを変えて現れる。今まで子猫のようだったクロは、スラリとした美人さんになっていた。毛並みもツヤりとしたクロはぐるるっと喉を一鳴らしする。
「にゃ〜、なんだか力が溢れてくるにゃ!魔法の試し撃ちをしてもいいかにゃ、ご主人?」
「えぇ、私もみたいわ。お願い、クロ」
「了解にゃ」
クロは私の肩からふわっと飛び降りると、優雅に地面に着地した。なんだかほんの少しだけだが、ネームドモンスターの貫禄が出てきた気がする。そーちゃん達が逃げ出す程度には。それからクロはスッと背筋を伸ばすと高らかに呪文を唱えた。もう前みたいに前足を出しての魔法じゃなくなっていた。
「ウォーターボール!!」
クロの詠唱に呼応して青い魔法陣がクロの前に広がり、バスケットボール程度の水の球が勢いよく撃ち出される。威力はそれ程なさそうだが、魔法らしい魔法だ。それに水魔法の真価は威力ではない。状態異常を絡めた攻撃こそが強みだ。クロは続けて魔法を使う。
「ポイズンボール!!」
クロがダンジョンの草や苔も何も生えていない一画へと打ち出した毒の球はバシャリと地面に広がるとジュワジュワと音を立てる。これはかなり有効な攻撃手段になりそうだ。しかもそれに加え、クロは炎属性も有する。再度クロが魔法陣を展開させた。
「フレアにゃ!」
紅蓮の魔法陣から勢いよく火の球が飛び出し、そーちゃんが使った魔法と同じ魔法がダンジョンの壁を焼く。これならそーちゃんにもしっかり対抗できる。つまりはクロがあと少し早く進化していれば、これだけの戦力になっていたのか。あながちそーちゃん達をバカには出来ないな…。まあそれよりも、クロだ!もうこんなに立派になっちゃって!私はクロを抱き上げてクルクルと舞う。
「クロ、凄いわ、凄い!これならだいぶ安心できるわ!」
「にゃ〜。ご主人、これはちょっと恥ずかしいにゃ。降ろして欲しいにゃ。」
クロはそう恥ずかしいそうに言うと身を捩らせてスルりと私の手から逃れてしまう。それからクロはスッと私の肩へと登ってきた。どうやらここがお気に入りのようだ。いつまでたっても愛いやつめ。また私が撫でてやると、クロがくすぐったそうにする。
「にゃぁ…。ところでご主人?ぼく以外のみんなにも、マナあげたら進化できるんじゃないかにゃ?」
「そうね!やってみましょ!」
まず手始めにケット・シーの子達に炎のマナを割り振ってみた。片方の子は炎と水、もう片方の子は炎と土の魔法をそれぞれ使えるように覚えて貰った。しかしどちらの子にも進化の表示は出ずだった。仕方ない。試しに他の魔法を覚えて貰おうと片方の子に、土の魔法を忘れ、風の魔法を覚えて貰うと進化の表示がでる。だがそれはクロのものとは違うものだった。まだ表示が薄く選択が出来ず、表示された内容も若干違った。
[ケット・シー→??? ※レベルが足りません]
なるほど、進化にはレベルの条件もあると…。ってあれ…?? この子はなんでこのタイミングでこの表示が出たのだろうか? 眷属のレベルは基本的にマナで上がるものだ。そしてクロにはこの表示は出なかった。クロは最初からレベルの条件を満たしていたということだ。つまりこの表示を出すこととレベルは関係なさそうで、ほかの条件がある筈だ。ならば風魔法を使えるようになったことで、条件を満たしたと考えるのが普通だろう。だがクロは風魔法を使えない。ということは…
「分岐進化…??」
期待が高まる。私は一気に余ってるマナをその子に割り振った。すると表示が明るくなり選択できるように変わる。そして???もなくなり進化先が明らかになった。
[ケット・シー→火芽狐]
あ、多分これヤバい奴だ…。私の好み的な話で。どストライクな気がする。えいっ!進化!
「……っ!!」
「や、やめるでしゅ、主しゃまぁぁ!!」
進化の光から解き放たれた薄紅色のふさふさが叫び声をあげる。私はすかさず抱きつき頬ずりをしたからだ。ああ、可愛い。可愛らしいきつねさんだ!ヒメというだけあって、クロとは違い進化してもまだ子供っぽさが残る見た目だった。小狐最高です。ああ、癒される。私は満面の笑みでその子を腕に抱きながら、もう1匹のケット・シーの子にもマナを割り振ってあげる。火芽狐の子のメイン属性は炎っぽかったので別系統になりそうなように色々と扱える魔法の組み合わせを変えながらマナをあげていると、また進化の表示が浮かぶ。今度は水と風の組み合わせだった。
[ケット・シー→サワマモリ]
聞き慣れない名前だった。サワとは「沢」だろうか?なら水系統になるのかな?でもまあ、どう転んでももふもふさんには変わらないだろう。カワウソとかカモノハシとかそんな感じだろうかと予想をしつつ進化をさせる。だが予想は裏切られた。これはダメだ…。ヤバい。ヤバすぎる。この子まで私のストライクゾーンに豪速球を投げ込んできた。三振!スリーアウト!ゲームセット!私の完敗!もうダメだ…。因みにその子は神々しさすら覚える真っ白な毛におおわれ、スラリとした少しだけイタチにも似たキツネのような見た目のモンスターへと進化をした。勿論火芽狐の子と同じく、若干の子供っぽさを残して…!なんだこの子達、最高か!!この調子でファーマーラビットの子も進化だ!と思ったのだが既にマナは使い果たしてしまっていて、ファーマーラビットの子達にあげるマナは殆ど無くなってしまっていた。まあ仕方ない。このままでは私の尊みが限界突破してしまう気がする。今日はここまでだ。
それからお昼ご飯のために、皆に討伐に出かけて貰ったのだが目覚しい変化があった。まずは戦い。進化を果たした元ケット・シーの子達だが、驚く程強くなっていた。元々戦いには向かないタイプから、かなり戦闘向けのモンスターに進化したということもあって伸び代もおおきかった。まずクロだが水の魔法で相手をびしょ濡れにし、体力を奪いつつ動きを鈍くし、さらに毒でダメージを重ね、トドメには炎魔法と、魔法を駆使して戦っていた。火芽狐に進化した子だが、ゆらゆらと揺らめく炎の魔法を展開して相手を惑わせると、相手の隙をついて炎を纏った爪と牙で一気に襲いかかっていた。そしてサワマモリになった子は水魔法で相手を牽制しつつ、素早く風魔法を纏った攻撃を連続で仕掛けていくスタイルだった。どの子も、もう一人でホーンラビットくらいなら無傷で勝てるようになっていたし、途中でダンジョンに迷いこんだポチウルフも難なく倒せていた。これはかなり心強い変化だ。
そして次の変化。これは私にとっても、ダンジョン運営にとっても凄くありがたい変化だった。それはクロが炎魔法を覚えてくれたこと。つまりは、火を使って料理ができるようになったということで、『柔らかモモ肉』や他の食材アイテムを使って私がご飯を食べれるということに他ならず、やっとのおにぎり生活脱却だった。早速、ドロップさせてきた『柔らかモモ肉』やホーンラビットの別のドロップ素材『プチベリー』、ダンジョンにいつの間にか自生していた『ワイルドオニオン』を使って、クロに料理をお願いした。今からもうご飯が楽しみで仕方がない。なんせクロの手料理!もうニマニマが止まりそうもない。私がマイルームの机で待っているとクロが料理をはこんで来てくれた。
「おまたせにゃ、ご主人!柔らかモモ肉のステーキにゃ。ソースはプチベリーとワイルドオニオンを煮詰めて、サッパリした風味にしてみたにゃ。お口にあうといいにゃ。」
「やー、美味しそうねー!!さっすがクロシェフー!!大好きっ!!では、いただきまーす!」
クロにいただきますを言って、パクリとまず一口。あぁー!ほっぺが落ちるー!!これは美味しい!柔らかいお肉から濃厚な肉汁が溢れでてきて口一杯に広がる。そしてそれを包むようにソースのさっぱりとした甘さがやってきて後味もスッキリだ。
「美味しい!クロ、これとっても美味しいよ!」
もう私は天にも昇る気持ちでパクパクと夢中でお肉を口に運ぶ。その様子をみてクロが「それは良かったにゃ」とホッとした様子で顔を綻ばせる。異世界にきて3日目。まだまだやることは沢山あるのだろうけれど、穏やかに時間が過ぎていく…。
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