異世界勇者とダンジョンマスターの痴話喧嘩
赤田 沙奈
プロローグ
プロローグ:勇者
ギラギラと日差しはアスファルトを焼き、蝉の音はやけにうるさかった。「でもまぁ夏は嫌いかな」だったか?確かそんな歌があった気がする。だがおれと一緒に駄弁っていた女の子はそんなこと言わなかった。おれの幼馴染の綾は「そんなことないよー?そーちゃんはいつも文句ばっかり」とおれにいつものように笑いかけていた。前も見ずに。そんな風に交差点に差し掛かるものだから…。こんなよくある話なら結末にはもうとっくに気がついていたろう。なに、気にする事はない。いつもの綾のうっかりだ。ただまあ、今日はタイミングが悪かったってだけだ。蝉の音より煩い鳴き声に彼女の顔が引き攣る。でも、もしかたら逃げ出した猫が綾で、後を追いかけて赤信号に飛びこんでしまったのがおれかもしれないなと、ふとそんなことを思った。そしてまあ、トラックにぶち当たる。実によくある夏の日のこと。そんなおれの意識がここで終わった。
プロローグ:ダンジョンマスター
私が目を覚ますと何もない薄ぼんやりとした空間に佇んでいた。私の意識がはっきりしてきたかという頃、「なんだ、綾も来たのか」と聞きなれた声がした。そちらを向くとそーちゃんが胡座をかいて座っていた。その向かいには立派な玉座のような椅子があり、そこに男が座っていた。膝を組み頬杖をついて、それでいて着ている服は簡素なものながらいい生地を使っているのはひと目でわかる。その男が口を開いた。
「やはり来てしまったか…」
男はそうやって、めんどくさそうにため息をついた。その様子に私が首を傾げていると、どうやら先に話を聞いていたのかそーちゃんが説明してくれた。それによるとここは現実と異世界の境目らしく、目の前にいる男は私達が閻魔大王とかって呼んでる存在らしく、私達の暮らす世界以外にも何個かある世界の魂?とやらのバランスを調整する仕事をしているみたいだった。それで現実の世界から異世界へと魂を一つ移動させるつもりだったのだか、誤って私達二人分を連れてきてしまったとのことらしい。そこまでそーちゃんが説明してくれたところで閻魔大王が口を開く。
「まあ間違ってしまったものは仕方ない。だが異世界に招待できる魂は一つでな…。そこでその権利を巡って争って貰おうかと思う。それぞれダンジョンを管理するダンジョンマスターとそれを攻略する勇者としてな!何、気にするでない。ほんの戯れだ!そこで魔物に負けて勇者が倒れるかダンジョンが攻略されてダンジョンマスターが倒される。そのどちらかで決着だ。勝者には異世界にそのまま転生させてやる。だが負けた方は異世界には連れていけんな…!期限は1ヶ月。それ以上はワシの力でもお前達の肉体を魂無しでは保っておけんのだ…!!では未練の残らぬように全力を尽すがよいぞ!」
閻魔大王がそこでパンと手を叩くと私の意識は再び途絶えた。
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