『公共才能安定所』

やましん(テンパー)

 『公共才能安定所』

 なにをやっても、どこの職場でも、「おまえには才能がない!」と言われてしまうぼくなので、なんとなく足が重かったものの、とうとう『才安』に行く決心をしました。


 『才安』は、国の機関ですが、職業や趣味に関する、一定の才能を付与してもらえるのです。


 しかも、無料です。


 とはいえ、『天才』になれるとか、そういう甘いものではないらしいのですが、そこそこの『才能』をもらえるといいます。


 ぼくの友人にも、『才安』で、プログラムの才能をもらって、就職できた人がいました。


 もちろん、臨時の社員でしたが、それでも食えるようにはなったのです。


 ぼくは、恐る恐る街の『才安』に出向きました。


 しかし、受付の女性は、意外なほど柔らかく、やさしく説明してくれたのです。


 ただし、もちろんこの方は、ロボットさんです。


 現在、公共機関の出先職員の75%は、ロボット化されていると聞きます。


 ロボットか、人間かを見分けるには、首元を見ればよいのです。


 ロボットさんの場合は、小さなLEDがくっ付いています。


 稼働中は、青く光っています。


「では、まず、この『【才能付与希望申し込みカード】にご記入ください。書き方の説明と記入台があちらにございます。まずはご記入下さい。出来ましたら、こちらにご提出ください。その後、担当者がお話をお伺いしてまいります。」


 そこで、まあこういうのは、あまり得意ではないぼくなのですが、そりゃあ『何もなしで話しだけ聞いてくれ!』と言う方が、それはまあ無理ですから、ぼくは記入台に向かいました。



 *****   *****



 住所・氏名・年齢・簡単な職歴・資格・得意技などを書いたうえ、何の才能が欲しいのかを、第一希望から第三希望まで書きました。


 ぼくが書いたのは


1 小説家


2 アニメクリエーター


3 作曲家


 です。


 それで、受付に提出し、なんだか判決を受けるような気持ちで、20分ほど待ちました。


 やがて、もらった番号札の番号『21』が宙に浮かび上がりました。


「やれやれ。」


 ぼくは指定された部屋に入ったのです。


 *****   *****


 担当の方は、やはりロボットさんでした。


 とても、やさしそうなおじさまで、ちょっと安心しました。


 首には、ちゃんと、青くセンサーが光っております。


「やあ、こんにちは。」


 ぼくらは、握手をしました。


「さて、さっそくはじめましょう。あなたのご希望は・・・うむ、なるほど。人気筋ですなあ。」


「え? やはり、人気ですか?」


「ええ。大人気ですよ。ご承知の通り、大方の定型的な職業は、今ではほとんどロボットが代行してくれます。人間の役割は、非定型的で突発性のある仕事に限定されがちです。しかも、収入も期待ができる分野ということになりますからね。しかし、このご希望分野は、奥があまりに深いのです。ええ、まあ、まず検査いたしましょう。なに、簡単です。はい、このヘッドギアを被ってください。あなたの頭脳の才能度を検出します。はい、どうぞ。」


 ぼくは、おそるおそる、そのラグビーの選手が被るような機械を頭に載せました。


 まあ、別に何もなく、心電図をとるように、刺激もなにもないうちに、コンピューターが勝手に検査してくれています。


 「ふむふむ。う~ん。」


 病院の検査でもそうですが、こういう、ちょっとした相手のリアクションが、非常に気になるものですよね。


「いや、終わりました。ああ、これ、結果です。ええと、あなたの脳の適正分野が解ります。ほら、ここね。数字を使う分野は、残念ながら、ダメですね。」


グラフの筋が、一番下のけたを飛び超えて、地下にまで潜ってしまっています。


まあ、よくわかります。


「空間把握もダメですね。語学も適正なしですねえ。手腕の供応も低いです。でも、ほらここ、ね! 飛び上がっている部分があります。これが高い適応力を現しております。文章力ですね。」


「ああ、やはりそうですか。学生時代にやったのと同じ感じです。」


「そう、そう。人間の適正能力は、そう変わらない、だからこの検査の信頼性もあるわけです。しかし、これは、職業適性検査ではないのです。才能を付け加えるに有効な部分を探すのです。そこで、ほら、この赤のグラフですね。これは、才能付与に関する効果度を示します。これが低いと、あまり効果が出ません。」


「あらら・・・・じゃあ、ここが高いという事ですか?」


「その通りです。ここですね。」


「はあ・・・・」


 それは、なんと、『政治家の秘書業務』でした。


「うそみたいです。」


「まあ、機械がはじき出したものですからなあ。あなたのご希望とは、いささか、かけ離れていますが、どうしますか? 今お仕事ないのでしたら、考えて見ませんか。」


「求人はあるのですか?」


「今なら、ありますよ。ただし、静岡ですが。『大変民主党』の議員さんの秘書求人があります。いまなら、応募可能でしょう。紹介は、2階の『スローワーク』になりますが。どうしますか?」


「いやあ・・・・せっかくきたし、でも、試験があるんでしょう?」


「そうですね。そこは競争です。でも、この付与才能は大体3年くらいは有効です。あとは、ご本人の努力で伸びるかどうかです。」


「じゃあ、やります。さっさとやりましょう。」


「了解。では、そこのベッドに横になってください。なに、処置は10分ほどですから。」


 ぼくは、才能付与の、処置を受けました。



 *******   *******



 その後、ぼくは二階の『スローワーク』さんで紹介を受け、『才能付与証明書』を添付して、応募書類を送付いたしました。


 あっけないくらい、直ぐに済みました。


 それから、静岡での筆記試験、面接試験となりました。


 『合格!』が来たのには、びっくりでした。


 その議員さんは、実のところ、ロボット議員さんだったのですが。



 **********   **********



 で、この先、ぼくがどんどん出世して、大臣になった、とかになれば、目出度し目出度しですが、まあ、さすがに、そうはいかないのですね。


 人間が担当する仕事は、簡単なものが、ほとんどだからです。


 この議員さんは『人間にも、人間らしい生き方を与えよう!』という主張の方でした。


 ぼくは、この『大変民主党』の議員さんの、第15秘書となり、おもに書類のコピーとか運転手担当を、約25年務め、無事に『解職』となりました。


 終わりごろには、議員さんの主義とは裏腹に、とうとう、人間の秘書はぼくだけになっておりましたが。



 『定年』と言うのは、今はもうありません。


 だって、社会で就業しているのは、大体ロボットさんばかりですから。


 人間は、ごく少数の方が、「人間政府」を構成していて、社会の中枢に座ってはいましたが、そうしたエリートや、ほんとの『天才』以外は、多くは地方に出て農作業とか、漁業とか、食品製造とか、その他の『簡易な人間の為の仕事』を、ぼつぼつとやっている世の中です。


 といっても、人間の数は、ロボットたちの『人類人口制限政策』で、世界的に減る一方なのです。


 つまり、彼らは気が付いたのです。


 べつに、人間に才能なんて与えなくてよいのだ。


 もう、自分たちで、分かち合えば、それで足りる事だ、と。


 なので、すでに『才安』も、『スローワーク』もありません。


 学校も、小中学校はもうなくなってしまって、人間の基礎教育については、家でロボットが行っています。


 選ばれた、本当に才能がある子どもだけが、高校、大学に進学できます。


 彼らはみな、ロボットと仲良くし、なんでもよく、ロボットさんのいうことを聞くように、教育されます。


 まあ、人類は、適度に管理されますから、すぐに滅亡はしないとしても、世界の主人公では、なくなってしまいました。


 でも、この世界は、とっても平和になったのです!


 戦争がなくなり、犯罪もぐっと減りました。


 ただ、オールド・タイプの人間である、しかも老人となったぼくが、出る幕はもう、まったく、ありませんけれど。


 現在は、近くにできた巨大ショッピング・モールに入り浸りです。


 地球はもう、ロボットさんたちのものです。


 人間は、彼らへの忠実な、『奉仕者』なのですから。




 **********   **********





















 まあ、結局、あの『才能付与』というのは、いったい、なんだったのか、もうわかりませんが、そう時間は経たずに、人類は、ほぼ滅亡して、地球上からは、いなくなっておりました。































 




















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『公共才能安定所』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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