第七十七話「父との再会」
父はしかし、すぐに首を振り、入り口のほうを指さした。
ステファンはその意味が分からないでいると、父も指でモールス信号をならした。
「危険だ、すぐにかえれ!」
ステファンもモールス信号でかえした。
「マジェスタがパパの発明をねらっている。パパの発明はなんだったの?」
「力を増幅させる危険な装置だ」
「マジェスタは、地面のエネルギーをえて不老になっている。倒す方法はある?」
父は信じられない、という顔をしたが、少し考えてこたえた。
「あの装置は恩師のベンジャミン・コロンバイン先生の理論を使っている。それが使えるということは、エネルギーの受信装置があるということだ」
それは龍鈴のことだ。しかし、それを奪うことは難しいだろう。
「受信装置は奪えない。他に方法は」
また父はかんがえた。しかし、首を振って床をたたいた。
「ないな。元を断つくらいしか」
(元を断つ……)
そのときステファンの頭の中でパッとイメージひろがった。
不老、エネルギー、実験、紫電、龍脈の研究、龍鈴……
(なんだ、何かつながろうとしている……)
そこでなぜか光るエネルギーが漂うきれいな池のイメージがうかんできた。
(これは、どこだ。確実にきたことがあるのに思いだせない)
「どうした、ステファン?」
父のモールス信号でステファンは我にかえった。
「大丈夫。ママやエミーラは?」
父はうなずいた。大丈夫だ、ということだ。
「別の施設で捕らわれている。とにかくお前はにげろ」
そのときだった、施設の外で大きな爆発音がした。
ドドドーン、ドドドーーン
父は早く行け、と指さした。ステファンはうなずいて、他の者が目覚めないうちに牢屋からあとにした。
(あの爆発音は爆竹なんかじゃない。長老たちでないとすると、まさか!?)
ステファンは地下から施設へもどり、陰にかくれた。隙をみて地下への扉をしめた。
施設内はパニックになっていた。
「カシムの野郎、ついに攻撃しやがった」
「くそっ!」
「おい、マジェスタさんが、『マシン』をつかえだと!」
「よっしゃ、ぶっ放してやる」
作業員たちは次々に『マシン』と呼ばれた人型の機械に乗りこんでいった。
ステファンは姿を隠しながら、三階の廊下まであがった。
吹き抜けの廊下を見おろした。
工場から十台以上のマシンが動きはじめている。
「どうかね、科学の力は忍術ともまた違って面白いだろう」
その声がステファンの背中を凍らすのがわかった。
体が金縛りにあったようだった。ふんばりながらゆっくり振りむくと、そこには茶色に髪に頬に傷のある男が冷たい笑みをうかべて立っていた。
「久しぶりだね、ウォール・ジュニア。といっても半月ぶりくらいか。父に会いに来たのかい? 君のパパはなかなか強情でね。娘をとらえてもやっぱり作ってくれないんだよ。私も気は長いほうなんだが、さすがに嫌になっちゃったな。君を捕らえて、それでもだめだったらどうしようかなぁ」
顔は笑っているが、目は冷徹そのものだった。
ゆっくりこちらへ歩いてくる。しかし、体が動かない。
そのとき、空中できらりと光るものがあった。
シューッ
前方から飛んできたクナイを、マジェスタはやすやすとよけた。
「おや、君もきていたのかい。ようこそ、バルアチアへ」
ステファンの前に現れたのは、長老だった。
「大丈夫かい?」
「え、ええ」
バンッ
長老がステファンの背中を思いっきりたたいた。
ステファンの体が動くようになった。
「さあ、逃げな。外に二人が待機している。なにかつかんだのなら和ノ国まで先に行っててくれ」
「で、でも」
「船長たちに言ったことと同じだよ、命令だ」
そういって長老は忍者刀を構えてマジェスタに対峙した。
「お久しぶりですね、紫電様」
マジェスタは目をほそめた。
「やはり気づいてくれたかい。愛しの紅蓮。そして、私を殺した紅蓮」
ステファンは窓のほうに走りだした。それをマジェスタが目で追いかけるが、長老がそれをさえぎった。
「あなたはあの日、焼け死んだものと思っていました」
マジェスタは笑いながら目をつりあげた。
「ああ。君に燃やされてね。あのときとっさに未完成だった黒の龍鈴の破片を取り、龍鈴の錬をうけた。あの老体では地獄だったよ、わかるかい? 廃人寸前にまでなり、なんとか力を手に入れたが、意識が戻ったときには炎の中で焼けただれていた。それを龍脈の力で回復しながら、なんとか里を抜け出したんだよ。でものこの力は矛盾していてね、回復と消費が同時におこるんだ。でも消費から免れることはできない。私は里から離れた森の中で私は回復の反動から骨と皮だけになってしまったんだ。そう、将軍や蒼矢のようにね」
マジェスタは長老に一歩近づいた。長老は一歩ひいた。
「それから回復するのにどれだけかかったとおもう? 二十年だよ。それまで風雨にさらされ、動物や虫にさらされ、生と死のあいだで二十年も地獄を味わっていたんだよ」
マジェスタの目には憎悪の炎が燃えていた。
「でもね、そのおかげで私は復活できたのさ。するとなんだか和ノ国に飽きちゃって、バルアチアに来たのさ」
「そして副大統領に命をねらわれるようになったのですね」
それを聞いたマジェスタは大笑いした。
「はっはっは、君はわかっていないね。あのバカな成り上がりがそんなことできるわけないだろう?」
「えっ?」
長老の反応に、マジェスタの目が黒く底光りした。
「仕掛けたのさ、私が。彼が私を襲うようにね。あの単純で損得勘定しかないやつを動かすのは簡単だ。私の部下があいつに耳打ちしたんだよ。私を逮捕すれば科学省の利権が手にはいるってね。そこで賄賂の証拠を見せればやつは簡単にうなずいたよ。もちろん、証拠なんてでっち上げさ。あいつは暴力的に私をおそい、私は健気にもそれを乗り切り、しかも濡れ衣だったとあとで公表される。そうなれば、どうなるとおもう? いまの世論調査を知っているかい? 八十パーセントが私に同情的になっている。そして私は悲劇のヒーローとして取りざたされ、半年後の大統領選挙に立候補する」
「こ、この国も乗っ取るつもりですか?」
長老は驚きを抑えながらいった。
「ははっ、和ノ国とちがい、この国の政治体制は民衆のコントロールが必要だから、面白いのさ。でも乗っ取るんじゃない。国民が私を選ぶんだ。さっきの爆発が素晴らしい劇のはじまりだ。さあ君には退場してもらうよ」
「まさか、さっきの爆発も?」
マジェスタは楽しそうにこたえた。
「ああ、私からの開幕祝いだ。いまごろマシンがたたかっている」
長老はもう一度マジェスタの目をじっとみた。
「昔の、私たちが憧れていたころの紫電様はどこへいかれたのですか?」
マジェスタはふたたび冷えた笑みをうかべた。
「君は老いと死の恐怖を知らないからね。どうも年をとると、昔の復讐や若さへの憧れが止められなくなるんだよ。でも君には感謝しているよ。こんなに楽しい人生をくれたんだからね」
そういって、マジェスタの鋭い目が長老をとらえた。
ステファンは研究所から脱出し、迅たちと合流した。
研究所の外では副大統領の兵士とマシンとの戦闘がはじまっていた。
「どうなっているの? 長老は?」
ステファンは迅のその質問に首をふり、
「長老やパパたちを助けるためにもいまは急いで帰ろう。答えはきっと和ノ国にある」
そういって夜の森を走りだした。
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