第七十八話「力の発信源」
それから一週間がたった。
ステファンたちは無事に都の港に到着した。
松太郎や忍者たちが笑顔で出迎えてくれたが、すぐに長老の姿がないことに気づいた。
事情を聞いて皆は愕然とした。中には涙する者もいる。
「おいっ、まだ死んだと決まったわけじゃないだろう。長老を信じようぜ」
猿飛も涙目になりながら、皆をはげました。
それから阿修羅城でバルアチアの報告をおこなった。
マジェスタが副大統領に狙われていたことなどをつたえると皆が驚いていた。
「いい気味だぜ!」
マックスがいった。
「いや、そうでもないかもしれんな」
そういったのは松五郎だった。
「俺も政治にかかわる端くれだからわかるんだが、副大統領の件をマジェスタが解決すると、国民からの人気は格段に上がるだろう。それにバルアチアでの大統領選挙は半年後だ」
「まさか!?」
マックスの驚きに松五郎はうなずいた。
「ありえることだ。あいつは大統領の座を狙っている」
一同はマジェスタの策謀にただ驚くばかりだった。
マックスはステファンのほうをむいた。
「それで、今後どうするよ。またバルアチアに乗りこむのか?」
ステファンは首をふった。
「いや、パパに会えたけどけど、マジェスタから龍鈴を奪う以外、方法はない」
ステファンの言葉に、場の者たちの表情がしずんだ。
「でも、『元を断つ』ことができるかもしれない」
流が顔をあげた。
「どういうことだ、ステファン」
「ええ。龍脈の力は、おそらく和ノ国のどこかにエネルギーを放出している特別な場所があります。僕たちは龍鈴を通じてそのエネルギーを受信しているのです。つまり、その発信源から出るエネルギーを止めれば、マジェスタを倒せます」
しかし、マックスは批判的だった。
「ステファン、お前の話には不確定なことが多すぎる。発信源の話は証明できるのか?」
マックスの気持ちはステファンにもよくわかる。
「マックス、正直言って完全な証明はできない。ただ、確信はある。そう思わせたのはマジェスタだ」
マックスが眉をひそめた。
「どういうことだ?」
「マジェスタはパパの発明をほしがっていた。それは科学者のコロンバイン氏の理論を使った増幅器で、エネルギーの発信元と受信機の間に置くと力が増幅される仕組みになっている」
「それって……」
勘のいい迅がつぶやくと、ステファンがうなずいた。
「そう、増幅器は龍鈴と同じ役割なんだ。それをマジェスタは欲しがっているということは、発信源の説は、限りなく事実に近い」
流が発言した。
「ステファン、なぜマジェスタが龍鈴と同じ装置をほしがるんだ?」
「きっと、何らかの理由で龍鈴をもう作れないのでしょう。現に彼が復活してから四十年近くなるのに、新しく龍鈴をつくっていない」
「でもよ、発信元がバルアチアにあったらどうするんだ?」
マックスの問いに、また光るエネルギーの池の映像がステファンの脳裏にうかんだ。
「直感的に、和ノ国にあるとおもうんだ。発信源の説も、最終的に直感なんだ」
「そんな直感、当てになるのか!?」
マックスが腕をくんだ。
「それは……」
直感を説明できない自分が歯がゆかった。しかし、
「俺もステファンの意見に賛成だ」
そういったのは流だった。
「私もそうおもいます」
椿もそれにつづいた。
二人の発言に、マックスはしぶしぶうなずいた。
「龍脈の力をつかえる二人がそう言うのか。うーん、全然、科学的じゃないけどな」
そこで皆の話をきいていた松五郎が口をひらいた。
「よし、今はそれを信じるしかない。それで、問題はその場所だな、どこか思い当たるところがあるのか?」
「実は、あるイメージが頭の中にあって、その場所なのはまちがいないのですが、それがどこだかわからないんです」
ステファンは思いだせない歯がゆさにうつむいた。
松五郎が声をかけた。
「ステファン、うつむいていると出てくる記憶もでてこないぞ」
「……はい」
「それじゃあ、先に他の者の報告を聞こう。マックス、
マックスは得意げに立ちあがった。
「ああ、このマックス様がみつけたぞ。運よくあの辺の海はかなり深くなっていて、沈没船がよく残っているんだ。俺たちのボートもその海の底に沈んでいた」
「そんな深いのによく見つけられたね」
迅の驚きに、マックスが胸をはった。
「俺のカラクリがあれば潜水なんてお手の物だよ」
すると後ろからいじわるな声がかかった。
「マックス~~!」
椿だった。マックスは頭をかいた。
「ごめん、あまりに深かったんで椿さんに来てもらったんだ。俺のカラクリを沈めてもらい、船を引きあげました」
「それで増幅器はどうなっていたんだ?」
「さすがに海の中に一年も沈んでいたら壊れていた。でもうちのじいさんに見せたら『おお、面白い』って言って、いま修理にはまっているよ」
「わかった、ご苦労だったな。ひとまず増幅器はベンさんに任せよう。じゃあ次は、雷太郎たち、報告してくれ」
雷太郎たちが立ちあがった。しかし、三人ともうつむいている。
「どうしたんだ?」
松五郎がきくと、雷太郎が悔しそうにいった。
「すみません、忍びの里で資料を探しましたが、これといった収穫はありませんでした」
「どんなことを調べたか、教えてくれるか?」
今度は茜がこたえた。
「秋然さんの部屋で紫電様の資料を見ました。紫電様が竜山をみつけ、忍びの里を開かれたことや、忍術を里の者にお教えになったこと、不老の研究をされていたことなど。でも、みんながもう知っていることばかりでした、すみません……」
茜の報告にステファンの頭の中でなにかがまた渦まきはじめた。
竜山、忍びの里にふさわしい場所、月鈴草、不老、紫電の研究……
ステファンの頭の渦は一つのところへ集約しようとしていた。
嵐の日、闇の一派、竜山で追われて崖から落ちて……
ステファンはハッと顔をあげた。
「どうしたんだ、ステファン?」
ステファンは目を見開いたまま皆の顔をみた。
「わ、わかりました! 力の発信源が!」
皆がおどろいてステファンに注目した。
「僕と竜太郎が逃げ込んだ、竜山の洞窟です!」
忍者たち全員がおどろいた。
「ああ、あそこか!」
雷太郎が思わず手をたたいた。
「たぶん前のがけ崩れででてきたんだろう。以前は絶対になかったからな」
猿飛がつけくわえた。
「ええ。おそらく、マジェスタが見つからないようにふさいでおいたのでしょう。当時の紫電はその洞窟で研究をつづけていた。あの先にはきっとなにかがあります。龍脈の力にかかわるなにかが」
松五郎が手をたたいた。
「よし、わかった! それでは急いで竜山にむかう準備をしてくれ!」
阿修羅城の部屋で一同が準備をはじめたとき、ステファンはマックスに声をかけた。
「そうそう、もう一つ面白い発見があったんだ」
「なんだい、発見って」
「それがな」
マックスは必死で笑いをこらえている。
「本当にクレージーだぜ」
「なんだい、マックス、気になるじゃないか」
「わるいわるい、じいさんとこの城を探検してみつけたんだ。きっとお前もおどろくぞ」
そういってマックスは阿修羅城の天井をながめた。
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