第十三話「ヤミノイッパ」
星丸は、来た道を帰ることはしなかった。
頂上にはちがう道があったようで、比較的走りやすい道がつづいた。
(なぜこの道で来なかったのだろう?)
ステファンは、道の途中で猿飛が星丸に声をかけたことを思いだした。
険しい道を行くことで自分をリタイアさせようという気ならば、走るペースを落としてくれたり、呼吸法を教えてくれたりした理由がわからない。
疲労でろくに考えることができなくなっていたので、ステファンは頭の中から余計なことを捨てさった。
三十分ほど進むと風がさらに強くなり、空に黒い雲が広がってきた。
そして、
ピカッ ゴロゴロゴロ
雷を合図に大粒の雨が降りだした。
忍者の集団はぬかるんだ道を滑らないように気をつけながら、山道をおりていった。
途中、崖に沿って下る道にでた。崖の下には竜山の森が広がっている。
雨はさらに強くなった。雨粒が激しく地面をたたいている。
黒い雲があたりをまるで夜のように暗くさせ、強烈な雨が視界をさえぎった。
一行はやむを得ず速度を落とし、崖から足を滑らさないように細心の注意を払いながらすすんだ。
そんな中だった。星丸が急に足をとめた。
おどろく見習い忍者たちに、星丸は手を横に広げ「前に進むな」と合図をだした。
忍者たちは星丸が見ているものを目で追いかけた。
しかし、あたりが暗くてよく見えない。
「ナニモノダ……」と星丸がいった。
そのとき、ピカッと雷が光った。その一瞬の光が一行の行く手をてらした。
「忍者……?」
ステファンが思わずつぶやいた。そこには忍者の装束を着たものが二人、ステファンたちの行く手を挟んでいた。
猿飛も忍者刀を構えて前にでた。そして、ぼそりとつぶやいた。
「ヤミノイッパカ……」
次の瞬間、「闇の一派」と呼ばれた忍者二人が左右に分かれ、ステファンたちに襲いかかった。
星丸と猿飛がそれぞれの攻撃をうけとめた。
「ソッチハ タノム」と猿飛は湯吉に声をかけた。
「ハイ!」
湯吉はステファンと風太郎のいるほうをまもった。
猿飛をねらった敵は、後ろで震えている雷太郎に狙いをかえ、小刀で切りかかった。
猿飛はそれを素早く忍者刀ではじき、迅が蹴りをいれたが、相手の忍者は難なくかわし、逆に迅に強烈な蹴りをかえした。
「ウワッ」
「ジン!」
猿飛がさけぶが、すぐさま相手が猿飛に攻撃してきた。
その後ろでは雷太郎がガタガタ震えてとまらなかった。
「ウ、ウワァーー。ヤ、ヤミノイッパ」
ついに雷太郎は血相をかえて逃げだした。しかし後ろにいたステファンとぶつかり、雷太郎はその反動で崖から足を滑らせた。
「ウワァァァァ」
「アニジャ!」
風太郎が叫ぶが自分もこわくてうごけない。
雷太郎が落ちる寸前、ステファンが雷太郎の腕をつかんだ。
「ガ、ガンバッテ……」
ステファンは必死に雷太郎をつかみつづけた。
「クソッ」
星丸は助けに行けないもどかしさにいらだった。しかし、対峙している相手は相当の強者であることが拳を二、三回交わしただけで十分わかる。ゆえにうかつに動けない。
星丸は、手裏剣を素早くなげ、そのまま忍者刀で切りかかった。しかし、相手は手裏剣を素早くかわし、相手も忍者刀で応戦してきた。
その攻撃をよけながら、星丸はちらりと猿飛をみた。
猿飛もわかっていた。自分の相手は星丸の相手より格下なので、突破口は自分であることを。
猿飛は素早い動きで相手に切りかかった。そして避けた相手の腕を見事につかみ、投げ飛ばした。
「ウリャアァァ」
そして投げた相手のことは傍目もふらずステファンたちのほうへむかった。
その光景をもう一人の闇の一派は横目で見ていた。
「キョウノトコロハ コレクライデイイカ」
男は手を胸の前で不思議な動きをさせた。
それは流れがクマと戦ったときと同じ動きだった。
星丸は、その
「イ、インヲ キッタ……!?」
相手の忍者の手がかすかに光っている。
「ミンナ ヨケロ!」
星丸がさけんだ。次の瞬間、
ズズズズバーーーン!!
すさまじい風がかまいたちとなっておそってきた。
星丸たちはその場でうずくまり、飛ばされないように必死でたえた。
しかし、崖にぶら下がっている人間を吹き飛ばすには十分すぎる風だった。
「うわぁぁ」
ステファンと雷太郎は風の衝撃で崖から吹き飛ばされた。
「ステファン!!」
「アニジャ!」
猿飛や風太郎たちの声がひびいた。
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